第54話 国王親子は文句を垂れつつ、キヌマートの料理にハマっていく

――人間の国、国王side――



冒険者ギルドを通して、魔王領に行った冒険者たちを一旦引き下げる事が議会で決定した。

今は兎に角、各地で起きている魔物による襲撃と、増えすぎた魔族を倒す事が先決で、尚且つダンジョンがスタンピードを起こさぬようにすることが一番の先決だった。

所がだ。

冒険者ギルドを通して魔王領に行った冒険者たちに連絡しても、誰一人として帰ってくるものがいなかったというではないか!! 一体どうなっている!!



「キヌマートの料理には中毒性があるという報告もある。その所為か?」

「分かりかねます……。ただ、キヌマートのだす料理は驚くほど美味いそうです」

「むう……世もまだ食べたことのない未知の味だと聞いている」

「今、キヌマートにだけ行ってくるように向かわせている者たちがいますので、その者たちが帰ってきたら陛下もお口に出来るでしょう」

「全く、何時から行かせているのだ?」

「かれこれ半年以上前には……行かせております」

「帰りが遅いではないか!!」



そう、帰りが遅い。

とはいえ、この城から魔王領までは遠い為仕方ないのだが、それにしても遅く感じられた。

魔王領につけばアイテムで瞬時に戻ってこれるとはいえ……まだ最果ての町に着いたばかりなのだろうか?

噂に聞く『不可不思議な店、キヌマート』。

我が王国から依頼すれば喜び勇んで国に店を出すかと思いきや、断ってきよった!!

何が『魔王様との契約で人間の世界には作らないという事になっている』だ!!

魔王よりも人間を優先すべきだろう!!!

忌々しい、折角前の魔王は不意打ちだが勇者に殺させたというのに、また新たな魔王が誕生している!!


勇者に討伐に行かせたが、報告書を出すように言っても出してこない!!

全ての手紙を破棄されているかのような気分にすらなってくる!!

忌々しい勇者め……いっそ国に帰ってくれればいいものを!!!

あんな者たちを召喚したのが間違いなのだ!!

イライラしつつ椅子の台を強く拳で叩くと、王太子が部屋に入ってきた。



「失礼します。勇者のゴミもさることながら、冒険者が一人も戻ってこないという話を耳にしたのですが」

「おお、王太子よ。そうなのだ……まだ誰一人として戻ってきていないのだよ」

「困りましたね……。余程魔王領にあるダンジョンは魅力的なのでしょうか」

「分からぬ。だがダンジョンと言えば敵を叩き金銭を得るのが普通であろう? ところが魔王領のダンジョンはそうではないらしい」

「と言うと?」

「戦闘は無いそうだ。ただ、冒険者たちが楽しそうに遊んでいるだけなのだという」

「遊んで……?」



思わぬ言葉だったのだろう。王太子は眉を寄せて怪訝な顔をし、ワシもその様子に大きく頷いた。



「どのようにして上に行けるのかも謎だという。勇者の屑共が向かっているが、こちらの連絡を一切無視しているようでな」

「困りましたね……。何でしたら私が勇者に直接会って命令してきましょうか?」

「だが魔王領だぞ? 危険だぞ?」

「ついでに攻撃などが無いのだというのなら調査してきますよ。軽くですが一か月程滞在して戻ってきましょう」

「ふむ……」

「これは国の危機なのです。魔王領が一体どんな状態なのかを知るべきです」

「それもそうだな……。だが王太子に何かあっては問題だ。王室騎士団長を向かわせよう」



そういうと王太子も強く頷き、謁見の間に王室騎士団長が呼ばれると、事の内容を伝え一か月間の間、魔王領のダンジョンを調べてくるように伝えた。

期限は1か月。それ以上の滞在は認めないとも。

王室騎士団長は強く頷き、いくらかの金を手渡してすぐに出立させた。


全くもって忌々しい魔王領のダンジョンよ……。

だが、王室騎士団長の精神力をもってすれば大丈夫だろう。

ついでに勇者の屑共も連れて帰れればそれに越したことはない。

色々と知っている事を吐き出させなくては。

屑の勇者と言えど、使い道はまだあるからな……。

そう思いふうっと溜息を吐いた時、扉が開き目を血走らせた兵士が入ってきた。



「キヌマートより、ご依頼の品を買ってまいりました!」

「おおおおお!! 早く余に寄越すがいい」

「う……はい。温めて貰ってきているので、アイテムボックスを開けたらそちらに入れたいのですが」

「ふむ、温めてあるのか。ならばワシのアイテムボックスに入れ込むとしよう」



こうして兵士から一つずつキヌマートの商品を貰って行くと、涎を我慢しながらワシに手渡してくる兵士の気持ち悪さに、そんなに美味いものなのかと困惑する。

全てを渡し終えると、兵士は頭を下げて去っていったが――その後その兵士を見た者はいなかった。

あまり気にすることでもないだろうと安易に思っていたが――その理由はキヌマートの料理を食べて理解する事となる。



「何と言う美味だ!!」

「美味しいです父上!!」

「こ、このような料理が魔王領のキヌマートで山のように売っているというのか!?」

「定期的に、いえ、毎日人を送り買わせましょう!!」

「キヌマートが王国で店を出せば苦労などしないのに!!! 魔王め!!」



忌々しい!!

こんな美味いものを魔王領の冒険者たちは当たり前のように食べて飲み、更に戦闘もない場所で何をしているというのだ!!!

そして、誰一人として帰ってこない理由は、このキヌマートの所為もあるだろう!



「くっ! 美味い、美味だ! なんという屈辱!! 今まで食べて来たものは何だったというのだ!!」

「この甘味も素晴らしい!!」



その後親子で豚のように食い散らかし、余りの美味しさに買ってきて貰ったものが全て無くなる程で……。




「おい! 次なる使者を送れ! キヌマートの料理や菓子類をとにかく沢山買ってこさせるのだ!!」

「はっ!!」



こうして、次々に使者を送り出し、キヌマートの料理しか食べなくなっていくのは……まだ当分先の話。




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