第53話 ダンジョンに新たな遊びができ、中毒性は増していく
――魔王領のダンジョンは中毒性が高い。
ハラハラ感はスロットなんかで味わえるし、勝てばジャラジャラ、負ければボッシュート。だが買った時の儲けはデカく、ポイントもガッツリ溜まる。
今では第三層に行く冒険者もかなり増えた。更にそこで稼いだ金は吸い上げられる。
お気に入りの娼婦、男娼に貢ぐ冒険者たちは後を絶たず、金が無くなる前になると泣きながら別れを告げて第一層でまた稼ぐ。
日にち感覚なんてあったもんじゃない。
数名の冒険者を確認していたが、ギルドからくる手紙を破り捨てている者たちも多かった。
最早人間社会のルール、人間社会での冒険者としての責務、そんなものなんか関係ないとばかりにダンジョンにのめり込む冒険者達。
「いい傾向だねぇ」
「中毒性がもともと高い仕様でしたが、ここまでハマッてくれると笑いが出ます」
「勇者たちはどうだい?」
「国からの手紙を破り捨ててましたね。恐らくまだ攻略が終わらないのかと言う連絡だったんでしょう」
国からの依頼すら放棄する勇者を、国はどう支援していくつもりかね?
戻って来いと言われて戻るような勇者達ではない。
このダンジョンに染まり切った頃には、人間社会のアレコレなんて忘れて楽しんでいるだろうよ。
まだ第一層なら戻れる。
だが、第三層まで行けば脳がやられる。
そうなっちまったら、もう元には戻れない。
あのお香はそれだけ強いものだというのが分かる。
「勇者は国王の元より曾婆様の傍に居たいそうですよ」
「嫌だねぇ……。あんなの要らないよ」
「ですよね」
「だが金は国庫が出してるんだ、ドンドン出させてやらないとねぇ」
「今までに何度かカプセルホテル行きになって戻っては金を卸して戻ってきてます」
「ヒヒヒ……その調子でドンドン国庫を吸い上げてやろう」
国を亡ぼすなら金を無くせばいい。
出すものが無くなればどうしようもない。
じわりじわりと減っていく国庫にまだ誰も気づいていない。
額が額なのに、まだ国庫はあると信じ切っている。
国も馬鹿だが、金ってのは出ていく時はあっという間なんだよ。
「さて、魔族たちに還元しようと思うんだけど、何がいいかね」
「スーパーマーケットで還元するか、コンビニで還元するかが妥当かと」
「ふむ」
「服屋や化粧品店、あとはショッピングモールでの還元がいいかと思います」
「となると、第五層と第六層でそれをやってあげるのが良さそうだね。後はダンジョン内にある魔族専用のコンビニかね」
「ええ」
「セールと称して値下げで行くかね」
「それで宜しいかと」
そういうと指示書を書き上げたアタシはそれをモーダンに手渡す。
そして、各階層を守っている四天王も来ている中で、気になる点や改善点を聞き出していくと――。
「では、第一層と第二層を束ねるカテリナとノルディシーから話を聞こうか」
「はい、第一層では大きな混乱は起きていませんが、そろそろ新しい刺激が欲しいという声が上がっています。スロットの台を新しいモノに変えるか、パチ台を新しいものにまた変える必要があるかと」
「ふんふん。定期的に変えてはいるが、中々に難しい問題だね」
「曾婆様、冒険者たちはカードゲームも楽しむ者たちが多いです」
思わぬ言葉に顔を上げると、カナデはにこやかな顔で「なので、カードゲームが出来る台とカードを用意するのが妥当かと」と言われて首を傾げる。
「カードゲームと言っても、トランプとかだろう?」
「デュエル出来るのがいいんですよ」
「でゅえる?」
「俺に任せていただいても?」
「そりゃ構わないよ」
「では、新しいエリアを作ります。儲けは少ないですが、カードの売り上げと台を貸すだけでそれなりに儲けは手に入ると思いますので」
「良く分からないが、アンタに任せるよ」
「はい。後はボードゲームも用意しようと思います」
「好きにしな」
こうして、ダンジョンにカードゲームが出来る場所と、ボードゲームが出来る場所が追加になるようだ。
確かに少しでも刺激になる物が出来れば楽しむだろうし、掛け金だって冒険者同士なら好きにするだろう。
カジノなんだから楽しまないとねぇ?
「第三層から四層はどうだい?」
「今の所問題はありません。四層に行く猛者は今のところいないようです」
「四層の存在を忘れちまってるかも知れないねぇ」
「王国が国をあげて討伐に来たらどうします?」
「その時は御もてなしするよ? 第一層から頑張って上に登って貰うさね」
そして中毒に掛かって国の派遣した騎士たちは国のいう事なんて聞かなくなる。
楽しみじゃないか。ヒヒヒ。
「ドンドン国力を奪っていこう。ドンドンあっちこっちでスタンピードが起きるように仕向けよう。ここからが勝負時だよ」
「「「「はい!!」」」」
とは言っても、人間たちだって頑張って抵抗はするだろう。
その抵抗が何処迄通用するのかも見ものだねぇ。
ど派手に「魔王領に出来たダンジョンを壊せ!」と送り出した冒険者たちは骨抜き状態。
これは王国にも連絡が行っているだろう。
今後も送り出されてくる可能性のある冒険者達だって、骨抜きにされて終わりだ。
余程の精神力を持つ者でも正気を保つことは不可能だろう。
「あの~~」
そう考えているとサキュバスのルルがおずおずと手を挙げてきた。
「なんだい?」
「はい、実は困った事は一つだけあって」
「ふむ?」
「相性のいい人間と結婚したいというサキュバスが言っていて……恋愛関係になっている者たちも数名……」
「へぇ……」
「どうしましょうか?」
どうするもこーするもないんだが、恋愛関係になっているならそのまま。
結婚を考えているのなら、冒険者を辞めて貰い、キヌマートや他の店で働いて貰うという手もある事を伝えると、ルルはホッと安堵したように「ではそう伝えてみます」と口にしていた。
「ただし、もう人間の世界には戻れない事は伝えな」
「はい!」
まさか人間と魔族との婚姻問題が出てくるとはねぇ。
恋愛は自由だが、結婚となると事だよ?
だが、そういう人生を歩むのもまた一興だろう。
人間たちに後ろ指さされても魔族と結婚したいなら自由にすればいい。
愛に生きるなら困難はつきものなんだよ。
「愛に生きて現実を知って、心が壊れないといいんだがねぇ?」
「せめて第三層での仕事をさせたいですね……」
「ヒヒヒ、お優しい事だね」
「同胞が悲しむ姿は見たくないですから」
そういうルルにアタシは小さく溜息を吐き、ルルの気持ちもわかる為「仕方ないねぇ」と口にしつつ、今後は人間と魔族との婚姻についても語り合っていく事になる。
その結果、数名の人間と魔族が結婚することになるんだけど――。
案外上手くいくもんだねと、驚く結果になるのはもう少し後の話――。
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