第52話 自分がダンジョンにいって変わってしまったことに気づかない

――ドナside――



気が付けば、ドルの町に戻ってきていた。

それも病院のベッドの上だ。

気つけ薬中毒と言われ、点滴を受けながら気つけ薬を体から抜いている途中だ。

『魔王領に出来たダンジョン』……あれは信じられないほどの中毒性のある場所だった。

毎日気つけ薬を飲んで何とか正気を保っていられるかどうかの場所だというのが分かった。

そんなものを用意せずいった冒険者達は、最早あのダンジョンに染まりすぎていて、いつも通りのダンジョン生活等出来ない状態だろう。


そういう俺ですら、第三層にいってからは溺れてしまった。

気つけ薬なんて役に立たなかった。

あれは独特の人間の脳を弄るお香が充満しているのだと気づいた時には既に遅かった。


そこで出会ったサキュバスに自分でも信じられないくらい溺れ込んだ。

家族の為に働いていると言っていたまだ年若い娘だった。

本当かウソかは分からない。

だが、手は荒れていて仕事をしている手だというのだけは脳に残っている。

彼女を幸せにしたくて貢ぐだけ貢いで幸せな時間を過ごした。

俺がカプセルホテル送りになった時、泣きながら抱き着いていた。



「また戻ってきてください……それまで客は取りません」

「分かった……必ず戻ってくる」



そういって別れたのだ。

魔族との約束?

なんて馬鹿げたことしたんだ俺は。

魔族が待っていてくれることなんてないのに……。

それでも彼女を想えば早く退院して駆け出していきたかった。

第一層で稼げれば第三層に長くとどまることが出来る事もわかった。

一刻も早く戻りたい……中毒性の高い所にいたからそう思うんだろうか?



「サナリン……」



あの魔族の名を口にする。

あの魔族が本当の事を口にしていると何故か思ってしまう自分は相当脳がやられているらしい。

だが、泣きながら俺に抱き着いて来た涙も、顔も、ウソをついている顔じゃなくて。

俺を一人の男として見ている顔で心が騒めく。



「ドナさん気が付きましたか?」

「ジーか。すまんな、俺がこんな状態じゃなければ良かったんだが」

「いえ、貴方は随分と頑張りましたよ……。気つけ薬の中毒なんて早々なりませんからね」

「ははは」



そう力なく笑うと、ジーは真剣な顔で俺と向き合った。



「それで、魔王領にあるダンジョンはどんな場所だったんですか」

「そうだな……。今まで向かってしまった冒険者は諦めろ。普通のダンジョン等行くことは最早ない」

「そんな!!」

「あったとしても、このドルのダンジョンくらいだろう。金稼ぎにはもってこいだからな」

「それでは困るんですよ~~!! 多方面のダンジョンが放置されすぎて危険な状態なんです!!」



その言葉に俺は溜息を吐いた。

多方面のダンジョンが放置されすぎている=スタンピードが起きても可笑しくないという事だ。

だが、肝心の冒険者は魔王領のダンジョンから出てこない。

手紙を送りつけても無視されている状態なのだという。

既に魔王領のダンジョンに行った者たちは、冒険者ランクが落とされようと全く気にしていない状態らしい。

致命的だ……。

この俺さえも、早く魔王領のダンジョンに戻りたいと思っていたのだから。

いや、今も強く思っている。

決して許されるはずない立場なのに、なんという拷問だろうか。



「フ――……。スタンピードが起きそうな予兆はもう出ているのか?」

「今の所はまだ予兆は出ていない……だが近いうちに出る」

「……王国には連絡は?」

「したさ無論。各地の冒険者ギルドルドが王国に対し、ダンジョンの敵を少しでも減らして欲しいと嘆願書を送っている」

「王国は何と?」

「一か所ずつ回っていく為、時間が掛かると」



そうしている間にダンジョンは更に活性化し、スタンピードが起こる場所は出てくるだろう。

まさか……魔王の狙いはそこか?

いや、そこまで考えている魔王等いるだろうか?

キヌ様に話を聞けば分かっただろうか……。


あの魔族だらけの世界において、まるで女王のように振舞うキヌ様は異様に見えた。

キヌマートが素晴らしいが故の事だろうと思うのだが、魔王はどうやってキヌ様のスキルを知ったのだろうか……。

勇者が嫌いだと言っていたが、キヌ様達と勇者たちに何か因縁があったのだろう。

あの美貌の持ち主だ。

勇者がちょっかいを出したのかもしれない。

可能性は十分に考えられた。



「俺も薬が抜けて頭がスッキリしたらもう一度ダンジョンに戻って話を聞いてくる」

「危険だぞ! こんな気つけ薬中毒になってまで……」

「次は上手くやるさ」

「ドナ……」

「だから、お前がギドルドマスターになっておけ。俺は出来る限りダンジョンを調べて戻ってくる」

「――っ! 分かった、王国には俺から連絡しておく!」

「頼んだぞ」



そう格好いい事を言っているが、俺はサナリンに会いたいだけなのだ。

彼女がウソをついているとは思わないし、思いたくもないが……俺を待っていてくれるのなら早く戻りたい。

嗚呼、出来る事ならサナリンの為にあの魔王領で生きるというのも一つの手かもしれない。

そんな事を思っているとは思わないジーは涙を拭いながら「ドナの気持ちは痛いほどわかる!! 魔王めっ!!」と魔王への怒りを露わにしていた。


サナリン……待っていてくれ。

退院したらすぐに向かう。

どうかそれまで……どうか。



「それで、俺の退院は何時頃になりそうだ?」

「今週中には退院できるそうだ。退院したら直ぐ行くのか……?」

「ああ、確認したいことが山ほどある」

「そうか……。無理をするなよ」

「フッ 分かっているさ」



全ては――サナリンの為に。

最早俺は、人間の国についてなんの執着すら失っていたことに、この時はまだ気が付かなかった。





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