第24話 ミツリの離縁と、禊の時間
せめてミツリだけでも元の世界に戻すことが出来ないのかとピアに聞いてみると、渋い顔をしながら「出来なくはないのですが……」と口にした。
なんでも、魔族が勇者一行の誰かを現実世界に戻すことは可能ではある。だが誰か一人だけとなると、契約を消さねばどうしようもないらしい。
つまり、【離縁】しないと帰すことが出来ないのだそうだ。
「神に誓って結婚しているので、ちょっと問題なんですよね。世界の神々はキヌ様がいた異世界の神々とも仲が宜しいでしょうし、その神々が了承してこちらの世界に来て貰っている為、まずは離縁して貰い、禊を済ませてからとなります」
「その禊っていうのは?」
「ご縁を返すのが私となりますので、私の手伝いをして貰うとかでしょうか?」
「だが、仮拠点にずっといて貰う訳にはいかないだろう」
「なので、アイテム整理とか、これから魔王領で何かをするというのでしたらその手伝いとか、そういう形で禊とします」
つまり、離縁してピアのお手伝いをして禊とし、元の世界に戻すという方法らしい。
まどろっこしいねぇ。
だが、それが世界の理だというのだから厄介だが仕方ない。
これらの内容をミツリに伝えると、「私に出来る事は何でもします」との事だったので、まずはフェルにお願いして離縁させて貰う事となった。
既に結構な時間をフェルは最果ての村で過ごしているが、アタシ達が最果ての拠点に行くと、とても驚かれたのにはコッチが驚いたね!!
「キヌ様、如何なさいました??」
「すまないねフェル。実は神力持ちのアンタにしか頼めない事が出来ちまってねぇ」
「私でよければお手伝いしましょう」
「有難いねぇ。実はこの子、ミツリというんだが勇者一行の回復役だったんだが、訳あってうちで保護しているのさ。元の世界に戻りたいらしいんだが、クソ勇者と無理やり婚姻させられていてね……。後は分かるだろう?」
そうアタシが言うと、フェルは「無理やり婚姻させられた?」と眉を寄せミツリに手を翳した。そして暫くすると――「確かに無理やり婚姻させられたようです」と眉を寄せて口にする。
「か弱い女性を無理やり娶るなんて、勇者の風上にも置けない!!」
「全くだねぇ!! それで、離縁させられそうかい?」
「はい!! 好いた相手でもない男との結婚など女性にとって何よりも苦痛でしょう。ミツリさん、よく耐えましたね……。私がキッチリとこのご縁お切りします!!」
「――ありがとうございます!!」
怒り心頭のフェルのお陰もあり、その日のうちにミツリと勇者キョウスケの離縁が神力を持つフェルの力によってなされた。
神々の力で結ばれた婚姻の証である金の糸をフェルの神力で出来たナイフで一刀両断したのだ。これにより離縁となり、後は禊の時間が必要という事になる。
まぁ、無理やり婚姻させられるなんてのは、大正時代もそう変わりはしない。
娘は親の用意した相手と婚姻させられる道具のような扱いだった時代もある。
ミツリには申し訳ないが、勇者と無理やり婚姻させられたのは可哀そうな事だが、時代が時代なら諦めてボロボロになる……という未来もあっただろう。
幸い時代は変化して、アタシ達に拾われたことで禊は必要だが元の世界に戻れるのだから良かったのだろう。彼女の願いは時間が掛ったとしても叶えられると分かった以上、頑張って手足となって貰おうかねぇ?
「さてミツリ、アンタにはこの先辛い人生かも知れないが、魔王領に来て貰うよ」
「魔王領……ですか」
「そうさね。アタシ達がアンタ達を狙って倒していたのは経験値が欲しかったからさ。魔族側ってのは人間を倒す事で経験値を得てレベルが上がる。狙ったのは冒険者と勇者一行だけだから安心しな。流石に一般人までは殺しはしない」
「よ、良かったです」
嫌だねぇ。一般人まで殺すことをするとでも思ったのかね?
だったら行く先々で町や村を破壊しつくしてるっていうのに。流石に人道的にどうかと思ったから、死んでもホームに行けば生き返る冒険者を狙ったのが分からないのかねぇ?
「俺達がしていた事は、ネットゲーム用語でいえばPKですよ。コロシアムで殺しあうのと左程変わりはありません」
「それは……」
「おかげでいい経験値が入りました。貴女には多少なりと御恩があるようなので、これ以上殺すことはしませんよ、ええ、しませんとも」
そうカナデが笑顔で口にするとミツリは引き攣った顔をしていたが、カナデは頗る機嫌が良さそうに口にする。
「後残っているのは屑だけでしょう? なんて殺し甲斐がある事かと、今からワクワクしてしまいます」
「カ、カナデ君怖いわ……」
「怖いですか? 性格がもし変わったのでしたら、色々吹っ切れたからかも知れませんね? キョウスケには感謝せねば」
確かに歪みに歪んでいる気はするが、勇者に関してはどんどん経験値として、金を落とす相手として申し分ない奴だし無問題……って所かね。
まぁ、歪みが酷い時は修正が必要かもしれないが。
「カナデ、勇者を殺すのも生かすのもアンタの好きにしな。その代わりこれから魔王城に行き、ダンジョンを作るよ」
「ダンジョンを?」
「作れるんですか?」
思わぬ言葉だったかねぇ?
アタシが手にしているダンジョンコアの卵を使えば、ダンジョンくらいは作れる。
そして、そのダンジョンこそが――人間たちを堕落させる店の立ち並ぶエリアとなるのさ。
ボスを倒したい。
だがボスを倒せば理想郷は無くなる。
その葛藤の末、人間はどちらを選ぶか――興味はないかい?
本能が勝つのか。
理性が勝つのか。
欲望に忠実に生きるのか。
大義名分を振りかざすのか。
人間の本質なんて、そう変わり映えなんてないと思うけどねぇ。ヒヒヒ。
「なるほど……ダンジョンに理想郷を作って冒険者達から金を奪い取ると……」
「冒険者たちは大義名分を建前に魔王領にやってくるだろう。だがそこはただの理想郷。奴らは大金をポンポン落としていくだろうよ。そうだね。ダンジョンと言っても、大きな塔を想像しな」
塔の一階に入った途端現れるのは恋焦がれたコンビニ。
そこで一体何人の冒険者が堕落していくだろうねぇ?
その隣には機動に向いている連中によるダンジョン内での揉め事に迅速に対応する警官を置き、治安維持には全体的に努めて貰うが、詰所は用意させてもらおうかね。
そしてその奥には様々な賭博エリアが並び、食事をする所も完備させよう。
無論賭博だけではなくゲーセンだって用意するし、商品も用意する。
欲しいものは何でも手に入れたくなるのが本能ってもんだろう?
「一階は胃袋と運試しをしたくなるようなエリアさ。一階で塔の中でしか使えないカードを一回限り買うことが出来るが、それに自分の行いが記されていくのさ。塔の中では見せて有名になるもよしだが、人間社会では隠さないと魔王軍と繋がっている……なんて思われたら終わりだろうねぇ? まぁ、運がないと二階には上がれないからそこはどう使われるのか楽しみさね」
「二階には何があるんですか?」
そう答えたカナデにアタシはニヤリと笑うと口を開いた。
「二階にはお子様には刺激の強い娼館エリアと旅館エリアを用意するよ」
「ふむ、サキュバスやインキュバス達が大勢集まりそうです」
「んふふ……。かなりの金がないと遊べないエリアにしておいてやるから、相当運と金を使わないと二階には上がれないからねぇ」
「これらを纏めて企画書を出しましょう。フェルさんの前でする話ではなさそうです」
確かに神力の強いフェルの前でする話では無かったね。
人間の欲はフェルにとっては辛かっただろう、後で謝罪を込めて好物でも出そうかね。
「すみません、欲があまりにも強すぎて……」
「おっとすまないね。今日のお礼とお詫びを兼ねて夜はお稲荷さんを出してあげるよ」
「ありがとうございます!!」
こうしてアタシ達は一旦仮拠点へと戻り、今後の方針を決めていくのだった。
そして――。
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