第23話 勇者パーティの一人だったミツリ

例の鏡で勇者一行を観察させて貰ったが……酷かったねぇ。

何が酷いって、人間性の問題さね。

本当に自己中心的な考えで周りの事なんて殆どお構いなし。

唯一マトモそうな回復役は疲弊していく一方で、しまいには殴られて唾迄吐かれる始末。

あれで彼女の心はポッキリ折れちまったんだろう。

まるで贖罪のように殺されては燃やされを繰り返し、生き返っては無言で着いていきまた殺され――。



「カナデ」

「何でしょう」

「あのミツリと言う子はそんなに悪かい?」



そう問い掛けると、「最初に殺すので分かりませんね」と答えた。

そこで、そのミツリと言う少女だけ生かして他二名を殺すように命じた。

結果はどうなったかと言えば――。



『さて、曽婆様から貴女を殺すなと言われているんですよ。どういう意味かは知りませんが』

『そう……』

『まぁ、あの勇者に媚び売っていた女です。反吐が出ますが一応どういう気分か聞きましょうか?』



そう問い掛けたカナデに、ミツリと言う少女は膝をつき深々と土下座した。

顔は最早無表情、感情が死んでしまっているんだろうねぇ。



「やれやれ、見ていられないね。ちょっと行ってくるよ」

「はい、行ってらっしゃいませ」



そうピアに言われアタシは仮拠点から出ると曾孫の元へと向かった。

アタシの登場に一瞬驚いたカナデだったが、土下座したまま動かないミツリと言う少女に、声を掛ける。



「どういう意味での土下座か教えて貰おうかねぇ?」

「……もう、疲れました」

「疲れた? 好いた男と結婚して勇者一行で、不意打ちのように元魔王を殺しておいて、何を疲れたんだい」

「……勇者一行と言う肩書も、大嫌いなキョウスケの妻にならざるを得なかった事も、何もかもがです」



おやおや? 妻にならざるを得なかったって言ったかい?

その事を聞いてみると、何でも「勇者なら一緒にいる女は妻に貰うべきだろ」と訳の分からない事を言い出し、嫌だと断ったのに無理やり妻にさせられたらしい。

しかも鼻息荒く襲われそうになった為「回復の力は処女でなければ使えません」と嘘をついて自分の身を守ってきたのだとか。

魔王を倒した後は食われそうになったものの、必死に回避している間に国王と勇者、魔法使いが揉めて外に追い出されたそうだ。



「元の世界に戻してやるって言われた時、喜んだのは私だけでした……。二人は自由に遊ぶ時間が欲しいと我儘を言って……私だけ帰りますって言ったんですが二人から責められて……」

「「…………」」

「帰りたいんです。もうこの異世界は嫌なんです。元の世界でお父さんとお母さんに甘えたい……帰りたい……あの二人と一緒にいるのはもう限界。殺されるのも、もうたくさん……帰りたい、帰りたいよぉ……お父さん、お母さん……帰りたいよぉぉぉ……」



どうやらこの回復役のミツリは元の世界に戻りたいタイプだったようだ。

それでも仕方なく、本当に仕方なくあの屑共と一緒にいた事も知る事が出来た。



「それに、私カナデ君を奴隷にするのを反対したんです。反対してたら取り押さえられて……気絶してる間にカナデ君が奴隷になってて……。止める事が……出来なかったっ!」

「確かにあの時、貴女だけが反対していましたね」

「ごめんねカナデ君……私が気絶させられたからこんな……ごめんねぇ!!」



どうやらこの娘はカナデが奴隷にされるのを反対してる間に気絶させられたようだ。

という事は周囲の奴等とあの二人こそが敵と言う事になる。

そして奴隷に堕ちたカナデに食事と水を与えていたのもこの少女なのだそうだ。

半分恩人と言う事にもなる。これ以上殺す事もないだろう。



「でも、この世界から出たくても勇者と婚姻しているから……離縁しないと元の世界に戻れなくて……っ」

「呪いと一緒だねぇ」

「どうしましょうか?」

「仕方ない、暫く隔離だね。神格持ちなら一人知り合いがいるから離縁させることは出来るだろうし」

「ほ、本当ですか!? 離縁できるんですか!!」



そう言ってアタシに縋る少女に、小さく頷くとミツリは声を出して泣き始めた。

余程結婚しているのも辛いらしい。

無理やり結婚させられた上に身の危険もあったんだ、そりゃストレスも凄いだろうよ。



「仕方ないねぇ。アンタは暫くアタシ達が保護してあげるから、最果ての町で暫く過ごしな」

「……はいっ!!」

「国王の金なんて使うじゃないよ! 足が着くからね」

「分かりました!」

「まぁ、禊の時間ってのは大事だろうよ。勇者一行の回復係りからただの女の子に戻るにはそれ相応の時間も掛かるだろう。元の世界に戻すにしても、そんな魔法あるかねぇ?」



ピアに聞けば何とかなりそうだが、一応聞くだけ聞くしかなさそうだ。

だが、これで勇者一行は回復を無くし、正にちょっとでも強い敵に遭遇すれば傷を治す事も出来ず苦しむことになる。

それに……回復役がいないという事は、それだけ苦しめながら経験値を得る事が出来るという事だ。


実際ここ一ヶ月程勇者一行を倒しまくったが、経験値と金がとてもうまかったねぇ。

経験値はがっぽり、お金もがっぽりだ。

あれだけの金を国庫から自由に出せるんだ、きっと国王も国庫がそんなになくなっているとは思わないだろうが、ドンドン減らしてやろうかね……。


それに、レベルももう十分だろう。

アタシのレベルは既に100を超え、ピノも90を超えたし、トッシュも80だ。

若干レベルの低かったカナデは1人で倒しに行かせていたのでその分ボーナスでレベルが上がり、アタシにほぼ近いレベルになっている。

金は充分稼いだ。じゃあ次に進もうかねぇ……。



「さ、ミツリをフォルに預けたらアタシ達はこのダンジョンの隠し財産を手に入れてから、そうだね……一旦魔王城に戻ろうかねぇ」

「魔王城に?」

「レベルが高くない魔王は魔王ではない。みたいなこと言われて経験値稼ぎしていたが、良い加減このレベルがあれば早々死にゃしないだろうよ。勇者を追い回して経験値を稼ぐのもアリだろうが、やりたいことはまだまだあるんでね」

「分かりました」

「あの、私は最果ての村に保護ということになるんですよね?」

「そうだね」



問い掛けてきたミツリにそう答えると、暫く変装出来るものは無いだろうかと言われた為、服装と髪型で何とかなるんじゃないかと問い掛けると、鞄に入っていたミスリルナイフで長かった黒髪を肩までバッサリと切りナイフを仕舞う。



「良い心がけだ。髪は女の命。それを捨ててでも元の世界に戻りたい気持ちは受け取ってやったよ」

「ありがとう御座います。えっと……魔王様」

「ヒヒッ! キヌ様と呼びな」

「はい、キヌ様」



こうしてアタシ達は仮の拠点に入り、拠点の中がアタシ達の過ごした現代と変わらない事に涙し、カナデの頼みで今日一日なら此処で過ごしていい事にした。

その間にキヌマートで出していた御菓子類や食事などを出して泣きながら食べるミツリに、余程あちらの世界に戻りたい気持ちが強いのを悟り、ピアに相談してみると――。




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