第22話 俺たちは何も悪くねぇ!!(ざまぁ)

――勇者キョウスケside――


この世界に来てドはまりしたドルの町にやっと到着した。

ホームも設定したし、暫くは此処で遊び放題だ!!

魔法使いのユキコもワクワクしてるようだし、唯一辛気臭い顔をしているのは回復役のミツリくらいだろうか?



「おいおい、折角ドルの町に来たってのに、なんだよ辛気臭ぇなぁ!」

「そうよ! 王様も好きなだけお金使っていいって言ってくれたしね!」

「……いえ、なんか町の様子、可笑しくないですか?」

「町の様子だぁ?」



言われてみれば冒険者たちの俺達を見る目が……殺気を帯びている?

今にも武器を持って襲い掛かってきそうな、そんな様子に俺達は眉を顰めた。



「あ、あたし達特に何も悪い事は……してないわよ……ねぇ?」

「その筈ですけど……」

「よう屑勇者ご一行」

「どの面下げてこのドルの町に来やがった?」

「「「なっ!!」」」



奥から来たのは俺達でも歯が立ちそうにないAランクからSランクの冒険者たち。

思わず武器を構えそうになったが、向こうからは威圧が飛んできて息が苦しい。

何故、どうしてと思っていると、Sランク冒険者のリーダー格だと思われる男性が俺に声を掛けてきた。



「君たちと俺達の憩いの場、いや、生命線と呼んでいいキヌマートの店と何があったかは知らない。だが……お前たちの所為で、お前たちがこのドルの町に来た所為で、俺たちのあらゆる意味での生命線だったキヌマートがいなくなった」

「「「キヌマート?」」」

「そうだとも、これを見ろ。おっと触るなよ」



そう言って持っているのはアッチの世界でのお菓子!?

見間違う筈がない!! 何度も夢に見て食べたいと切に願ったあらゆる御菓子類に飲み物を何故こいつらが持っている!!



「それは何処で買ったんですか!?」

「おいミツリ!」

「こいつはな、キヌマート限定の商品なんだよ!!」

「お前達が来るってんで店ごと無くなったがな!!」

「キヌマート……キヌマート……」

「やばい、欲しい。あー……それ幾らで売ってくれます?」



そうユキコが口にした途端、冒険者たちは怒りの形相に変わった。



「誰が売るか!!」

「疫病神!!」

「とっとと消え失せろ!!」

「ひい!?」

「君たちがキヌマートにした無礼が何かは知らない。だが、我々冒険者たちは貴様たち愚者を絶対に許さない!!」



勇者を愚者だと!?

ふざけやがって~~~!!!

俺達は不意打ちだが魔王を倒した勇者だぞ!



「だが俺達は魔王を倒した勇者だぞ!!」

「魔王を倒したのなら、お帰り願いたいね」

「そうそう、帰って貰おうとしたのに居座ったのはそっちらしいじゃねーか」

「それは……」

「要らなくなったら捨てる様なやり方が気に入らなかったのよ!!」

「そうだそうだ!! もっと自由に遊べる時間が欲しい!!」

「親の脛齧りならぬ、国王の脛齧りがか?」

「なんだと!!」

「自分たちで金も稼いだこともない癖に、偉そうな口を叩くな!!」

「だからこうして」

「そっちの魔法使いはカジノに入り浸りだろ? で勇者は娼館に入り浸る訳だ」

「回復役のそっちは酒場で酒飲んで毎日ベロンベロンってか」



そこまで俺達の様子を覚えているとは思わなかった。確かにそのつもりで来たのはある。

来たのはあるが……これでじゃ娼館にも行けないしカジノにも行けないじゃないか!!

天国があるのに周囲の目があって地獄だ!!



「お、俺達はちゃんとダンジョンに向かう!! だよな!!」

「そ、そうよ!!」

「ダンジョンに潜るなんて聞いてませんけど!?」

「おい……」

「だって」



ミツリの言葉に俺とユキコが睨みつけると「やっぱりな――!!」と冒険者たちは嘲笑う。



「兎に角悪い事は言わない。早急にドルの町から出て行った方がいい、命の保証はないぞ」

「い、命の保証がないってなんだよ!!」

「言葉通りだ。今この町にいる冒険者たちは全員君達の敵だ」

「「「!!」」」

「宿も取れないだろうな」

「そ、そんなバカな話あるかよ!!」



宿屋もNGなんて聞いてない!!

やっとの思いでこの楽園にたどり着いたってのに、なんでなんだよ!!

キヌマートってなんだよ一体!!

いや、あれがあるって事はまさか!!



「俺達の他に転移者がいるってことか……」

「そう言えばアタシ達を撃ち殺した人、ハイエーナに乗ってたわ」

「確かに……その人たちが店を?」

「俺達がいるからって言うより、嫌がらせだろこれ!!」

「ごちゃごちゃうるせーんだよ!!」



そう叫び声が上がると石を投げつけられビックリする。

次第にその輪は広がって行き、俺達が歩くだけで石が飛んでくる始末だ。

と、兎に角ダンジョンだ。

ダンジョンに用事があるとさえ理解して貰えれば何とかなる筈だ!!

必死に想いでダンジョンにたどり着き、回復魔法で回復して貰ってから「クソ野郎!!」と大声で叫ぶ。



「俺達が何したってんだよ!! 何もしてねーだろ!?」

「そう言えば、カナデがあの人たちに連れ去れたわよね……復讐じゃないの?」

「キョウスケが奴隷欲しいなんていうから!!」

「俺の所為かよ!!」



そもそもカナデが悪いんだ。

あんなイケメンの顔してんのに女子にも殆ど靡かず涼しい顔しやがって!!

奴隷にして清々してたってのに!!

こんな事なら仲間にすれば良かったのか!?

そう言えばアイツのスキルとか全く知らねぇな。

もしかしたらとんでもなくいいスキルを持っていたのかも知れない。



「くそ、兎に角外に出ても殺されるんだ。ダンジョンで暫くモンスターを倒したら帰ろうぜ」

「国王からのお金は出し渋りはまだないけど、何時出し渋られるか分かったもんじゃ無いものね」

「でも、お金は自由に使っていいっていう魔法契約もしてるわ。だからお金の心配ならないわよ」

「それもそっか」

「さ、金目のモンスターでも倒して、」



ボフュッ



とどこかで聞いたことのある音が?

と思った途端回復役のミツリが倒れて動かなくなった。



「「……え?」」



次の瞬間全身に穴が開く様な痛みを覚え地面に倒れ込む。

歯を食いしばり何が起きたか分からず痛みに耐えるしかない。

ユキコを見ると額に穴があって既にこと切れていた。

あの時と、あのカナデがいなくなった時と一緒だ……!!

そう思ったが手も足も動かず、誰かが歩み寄ってくる音にビクビクしつつ目だけを必死に動かすと――カナデの姿があった。



「カ……ナデ」

「どうですか? 全身に銃弾を受けた気分は」

「貴様っ!」

「おや、まだ反省の色がない?」



そう言うと何かの仕草のように手をシュッと横にすると、持っているのは……なんだ? 銃なのはわかるが……何の銃だ?



「反省の色も無し、常に自分本位。呆れますねぇ……そういう汚物は消毒せねば」

「お……ぶつだ……」



と?―――そう聞こうとした瞬間至近距離で炎が全身に浴びせられ髪も皮膚も全て焼き焦げた感覚がした。

そして最後に聞いた言葉は――。



「ああ、こちらの死んだ汚物も消毒しましょう」



そう言って轟々と燃えるユキコとミツリに恐怖し、自分もまた轟々と燃えている事に気づき――。



「あなた方のような汚物がいると、俺達の生活も中々大変なんですよね。何度でも殺してあげますから、何時でもどうぞ?」



そう言ってニタリと笑ったカナデの顔が余りにも恐ろしく、失禁して気を失ったまま焼け焦げて死んだ――。

死んだのだが、気が付けばドルのホームにいて、装備品は黒焦げで、新たに買ったバックも手元には一つもなく……カナデに奪われたのだと気づくことが出来た。

あれには国王から貰った今の全財産が入っていたというのに……。



「くそ!! カナデの野郎!!」

「え、カナデ君だったの!?」

「そうだよ、俺達を殺したのは間違いなくカナデだ!!」

「やだやだ、なんでカナデ君がアタシ達を!?」

「してきた事を考えれば妥当かも知れません」

「ふざけんな!!」



そう言ってミツリを拳で殴り飛ばし、地面に倒れる姿を見て唾を吐きかける。

その様子を見ていた冒険者たちはクスクスと笑い、俺とユキコは地面から動かないミツリを放置してギルの町にある銀行へと向かい、国王からの金を手にする。

出来るだけ多めに貰い、その金でバックと財布を購入して金貨をジャラッと入れると、ボロボロになった装備を見て更に腹が立った。



「くそ!!」



ギルの町では冒険者が敵。

ギルダンジョンではカナデが待ち構えている……。

次こそカナデを殺そう。何としてでも殺そう。

そう思ったが――何回行っても勝つ事も出来ず、金だけが消えて行き……気付いた時にはボロボロで。



「くそ……仕方ねぇ。違う町に行くぞ。そう言えばミツリは?」

「行く前に酒でも飲んでいくんじゃない?」

「ったく……呑気なもんだぜ」

「アタシもカジノ行きたかった~~!!」



だが、それ以降どれだけ探してもミツリの姿は見つからず……結局置いて行くことが決定し、俺達はドルの町を後にしたのだった――。




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