第21話 【期間限定の不可思議な店・キヌマート】②

【期間限定の不可思議な店・キヌマート】はオープン初日から飛ぶように売れた。

途中カナデに渡していたお金が無くなり呼び出された為、金塊を一本渡してからぶち込んで貰い、ドンドン品出しをして行くタリスとトリスの素早い動き。


閉店時間が近づくと客足は更に伸びて、陳列棚にあるアイテムを必ず3つずつ購入して変える冒険者たち……。今日一日でどれだけ金を落としたかねぇ?

この異世界では香辛料に砂糖や塩はとても高いんだそうだ。

だが、アタシ達にとっては――?

【ネットスーパー】と言うチートが使える時点で勝ちは見えているのと同義で、閉店した後の売り上げを見て笑いが止まらなかったね!!



「一日でこの売上……相当ですよ」

「初日でこれだろう? あの味が忘れられないとまた客が押し寄せるよ?」

「「うわぁ……」」

「ピアもトッシュも、うちの味になれちまって前の食事に戻れるかい?」

「「戻れません」」

「そういう事♪」

「キヌ様えげつないですわ……それを期間限定って決めつけるなんて」



そう口にしたピアに、アタシはニヤリと笑ってこう口にする。



「おやおや? 期間限定なのはこの町だけさね」

「「「え?」」」

「コンビニは無論、魔王領に作る店舗の一つさ」

「「「なっ!!」」」

「食いたければ魔王領までまたくればいいさね……そうだろう?」

「つまり、此処で味を覚えさせて」

「金を持っている冒険者たちは意を決して魔王領に向かいコンビニへ……?」



ゴクリと喉を鳴らして語るピアとトッシュにアタシは笑顔で頷くと、カナデは溜息を吐きつつ「じゃあ店長は俺ですね……」と口にした。

しかし――。



「いや、別にアンタになって貰おうとは思っていないよ」

「え!?」

「商品は毎日箱で山積みにしておく必要があるが、倉庫用の拠点用意するからね。そこからアイテムを運んで貰うのさ」

「な、るほど」

「まぁ、そういう考えも一つあるってことさね。アンタがどうしても店長やりたいっていうなら、させてやってもいいが?」

「状況を見て決めましょう」



実に正しい判断。

その時々の事情を鑑みて物事を決めるのは大事な事だねぇ。



「しかしパンも面白いくらい売れたね」

「こちらのパンは黒パンか固いパンしかないですからね。甘いパンなんて普通は食べれませんよ。だから値段も高級志向にこの店はしてるんです」

「通りで……パンは普通のお店なら銅貨30枚に対し、ここのパンって銀貨200枚からですもんね」

「このドルのダンジョンがどれだけ儲かるか知ってるからな。強気で出してみた訳だ」

「そしたら本当にあっという間だったねぇ」



この世界の物価を色々知っている三人のお陰で【期間限定の不可思議な店・キヌマート】はその後も大盛況した。

時折あの魔法の鏡で勇者たちが今どのあたりを歩いて来ているか等も確認し、途中喧嘩ばかりしながら進む三人にアタシは違和感を覚えた。



「ところでカナデ。この三人だが……重婚してるのかい?」

「ああ、一夫多妻でもこの世界はいいらしい」

「その割には仲が悪いねぇ」

「勇者として崇められてる間は良かっただろうけどな」



だが、その勇者としての仕事が終われば厄介者。

二人共デバフは凄いが……そう言えばアタシ達に対してはデバフがそうついていない。

辛うじて悩ましいのは【拠点】を使う為にお金が掛かるということくらいだ。



「ピアや?」

「はーい?」

「ちょいと聞きたいんだがね。勇者たちはあれ程デバフを貰っているのに、何故アタシや曾孫にはデバフがついていないんだい?」

「それは、【魔王】と【魔王の曾孫】と言うのが大きなデバフ過ぎて、他のデバフを消しちゃってるんだと思います」

「「ん?」」

「だって、普通人間が魔王になるってマイナスな事この上ないでしょう?」

「確かに言われてみればそうだね」

「だからこそ、それを補填するようにバフが掛かっているんです」



――つまり【魔王】と言う事自体がとんでもないデバフなのに対し、それを補うようにバフのスキルが付き、バランスを取る為に【拠点】で金が必要になった……。という事かい?

となると、【魔王の曾孫】のカナデもそれ相応のデバフがついて、それを消すためにバフが今掛かっていると。



「でも、正直魔王がデバフとは思わなかったね」

「俺もです。とても強力なのは分かりましたが」

「いえ、本来魔王ってトンデモナイ嫌な役回りじゃないですか? 普通はですよ? 人間にとってはですよ?」

「俺にとっては、勇者の奴隷の方がデバフ酷かったですが」

「そりゃ【魔王の曾孫】ですから、勇者の奴隷の方が、デバフがガツンときますよね」



それにしても有り余るバフだと思うし、マイナスだとは思ったことはない。

確かに人間が人間を殺すというのは大きなデメリットかも知れないが、戦争経験者からしてみれば「何時殺られるか分からない世界」を体験している訳だ。

女なら「何時どうなるか分からない」世界も体験している。

それはこっちでもいえる事で、そうマイナスだと思ったことはない。

ようは、【殺られる前に殺れ】と言うのが大事なんだ。



「アタシはデバフとは思っちゃいないがねぇ」

「つ、強いですわね……」

「ともかく、勇者たちがこのエリアにつくのにはまだ時間が掛かります。その間にシッカリと異世界の味を堪能して覚えて貰い、是非魔王領に来て頂きましょう。ええ、金をドンドン落として貰わねば」

「ふはは! そりゃ言えてるね! 何せ【期間限定の不可思議な店・キヌマート】だ。この噂を自然とアタシ達がいなくなって暫くしてから流して行けばいい」



多くの冒険者が集まる此処でなら効果は一入。面白い程冒険者は来るだろう。

それまでにガッツリと今日くらい毎日稼いで金をドンドン落として行って貰わないとねぇ?

酒を売ればその分儲かるかも知れないが、今は酒がなくともそれなりに儲かっている。

それに関しては魔王領についた時に酒屋をオープンさせればいい。



「取り敢えず勇者が来るまでまだ日数がある事は解った。勇者がくる前日に【期間限定の不可思議な店・キヌマート】は「会いたくもない勇者が来るので店を閉めさせて貰う」で閉めてやろう。ヒヒヒ、針の筵だろうねぇ? そしたらダンジョンに潜ってみて、隠し扉を中心に開けて行こうかね。ダンジョンボスは此処は倒さずにいてやろう」

「お金の為ですね?」

「そうだね」



こうして勇者が来るまでの間、店を開けてはなだれ込む様にしてやってくる冒険者の相手をしながらアイテムを売りさばき、毎日笑いが止まらない程の金を稼ぎまくった。

それはもう、本当に笑いが止まらない程の稼ぎだ。

金の無くなった冒険者はダンジョンで稼いでから買い物に来るし、美味いことこの上ない。



「【期間限定の不可思議な店・キヌマート】と言わず、ずっといて欲しいなぁ」

「キヌマートが無くなったら俺達は生きていけないぞ」

「なぁ、期間限定じゃなくなる方法はないのか?」



そう言う声が上がり始めた頃――勇者が明日辿り着くという情報を得た。

さて、店を閉めるとしようかね?



「悪いが今日で閉店だよ! アタシ達の会いたくもない【勇者ご一行】が来るらしいからね」

「「「「「はぁ!?」」」」」

「ああでも、今度は魔王領でやってみるのもいいかもしれないねぇ……ヒヒヒ」



そう呟いてその日一日客が全く途切れず買いだめをしていく冒険者たち。

箱で商品を買う者たちも多くいたが、その分料金は上乗せされ、閉店時間になると冒険者たちは泣きながら出て行った。


そして、【期間限定の不可思議な店・キヌマート】の拠点を消し去り、アタシ達はダンジョンの中へと入って行く。

人気のない角に仮拠点を作り、一日ゆっくりと過ごす事にしたのだ。

無論鏡を見ながらね。

さてさて、勇者はどういう扱いを受けるかねぇ?





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