第16話 ハイエーナのキャンピングカーに乗って勇者を撃ち殺す!!

聞けば、この狐の女性は元々獣人族の王を支える宰相を生み出す家の産まれだったそうだ。

語学の為当時は友好的だった人間族の国に留学したが、そこで奴隷の首輪をつけられ奴隷落ちしたらしい。

それも無理やりだったそうだ。

それがきかっけで獣人族と人間族は仲違いし、獣人族は彼を探すために捜索隊も出したらしい。

だが――冒険者に売り飛ばされた彼はポーターとして働き、このダンジョンに入り、ダンジョンボスで仲間がやられたが、自分だけは何故か助かって長い事操られていたそうだ。



「それで5代前の魔王の事を……」

「取り敢えずアンタは獣人族に帰らせようかと思うが、少々こちらも訳アリでね。直ぐには帰せないんだよ」

「5代も前ならもう私の事すら忘れている者も多いでしょう……。何処か隠れて住める場所があればそこで静かに暮らしたい……」

「それならいい所があるよ」



戦闘向きではないのは【鑑定】で分かった。

寧ろ神格持ちになっているからこそ人間を殺すなんて事をしたら闇落ちしちまう。

そこで、最果ての村にあるアタシ達の拠点で暫く生活して欲しいと伝えると、了承して貰えた。

最果ての村には獣人も住んでいる為、尻尾と神格さえ隠せば隠れ住むにはもってこいだろう。


何時でもアタシ達の元に来れるようにもするし、それなら問題はないだろうと伝えると、彼は嬉しそうに頷いた。

そこで、扉をもう一つつけてそこから最果ての村にあるアタシ達の最初の拠点に入って貰い、使い方なんかをトッシュがレクチャーしてくれるそうで、アタシとピアは外の声を聴きながらアイテム整理を始めた。


ガーゴイルが落としたのは金塊の山とアクセサリーが5つに巻物が4枚。

金塊は全部で50個もあった。美味いねぇ!!

アクセサリーは【命中アップ】【幸運アップ】【トラップ避け人形の指輪】【詠唱速度アップ】が二つだ。

この【トラップ避け人形の指輪】は、ダンジョン等のトラップがどんなトラップか分かるように、自分に似せた煙の分身を行かせてどんなトラップか判別するというものらしい。

正直いらないが……。落とし穴だけはハイエーナでも難しいからねぇ。

ごり押しすれば何とかなるが、あって損はない。

誰が着けるかに寄るが。


巻物に関しては、魔法スクロールは残念ながら無かった。

回復魔法でもあれば違ったんだけどねぇ……と思いつつも、【会心の一撃】があったので是非トッシュに覚えさせようと思う。

他にあった物は――。



【発狂の始まり】に【降り注ぐ恐怖】に【消えゆく足元】と言う何とも邪悪なスキルスクロールだった。

【発狂の始まり】はパーティー全員が発狂寸前の精神状態に持って行くことが可能。

えげつないねぇ。

【降り注ぐ恐怖】は今すぐ死にたくなるような恐怖が迫ってくる心理状態へおとす事が可能。これもエゲツナイ。

最後の【消えゆく足元】は意識を混濁させることが出来る最悪なスキルスクロールだった。



「これ使えれば、勇者なんてあっという間にゴミじゃないかい?」

「凶悪過ぎて言葉が出ませんわ」

「勇者に最も恨みがありそうな孫に持たせたいねぇ……」

「それは良いかもしれませんわ!」

「これらはアイテムボックスに仕舞いこんでっと……」



それらを全部アイテムボックスに仕舞うと、トッシュが狐の女性を連れて戻ってきた。

そいえば名前を聞いていなかったね。



「狐の女性の名を聞いてなかったね。名は?」

「フォルスター・ファンブリス。ファンブリス家の者です。もし獣人国に行くことがあれば教えて下さい」

「あいよ、フォルって呼ばせて貰うよ」

「ありがとう御座います、キヌ様」

「その前に暫くの生活費と服を渡しておくから、足りなくなったら言いな」

「ありがとう御座います!!」



こうしてフォルの生活する為の服やタオル一式と暫く生活する為のお金を手渡し、フォルにはご飯の時間以外でも狩り拠点に入れれば入れるようにして置き、基本最果ての村で生活して貰うことなった。

まぁ、獣人の女性一人に大元の本拠地を守って貰うんだからいいだろう。

それに、保護したのだし何時かは帰しに行かないとねぇ。



「さて、外のざわめきが変わってきたね?」

「ええ」

「勇者の言葉が聞こえます」

「そうかい……来やがったかい」



どうやら勇者が現れたらしい。

アタシ達は人ごみに紛れて木の中からコッソリ出てくると、冒険者ギルド前で騒ぎ立てる勇者がいる事に気づいた。


あの騒いでる三人がどうやら勇者とそのクソ野郎その1と2のようだ。

回復役に魔法使い……ステータスは……しょぼいねぇ。これで勇者かい?

確かにレベルは高いがデバフ効果が余りにも強すぎて60レベルあっても実質の力は40程度しか出せないって出てるよ。



「アイツ等……実質レベル40だね」

「わたくしもそこまでデバフが掛かっているとは思いも寄りませんでしたわ……」

「あの黒髪に眼鏡をかけた方……キヌ姉様に似ています」

「孫のカナデ。一年前行方不明になったアタシの可愛い曾孫息子だよ。デバフに掛かっているね……それでスキルが読めないんだ」

「その様ですね……デバフは奴隷の首輪が元凶の様です」






その言葉にアタシはハイエーナキャンピングカーを取り出すと、トッシュトリスの従魔であるレジェンドスライムのタリスに運転をお願いして、タリスから分裂したトリスは、勇者に無理やり奴隷に落された、大事な【魔王の曾孫】の保護をお願いし、他、連れて歩いているピアリア、そしてこのダンジョンで仲間になった元奴隷の獣人の子、トッシュトリスが車に乗ったのを確認してドアを閉める。

スルリと運転席に乗り込み窓を開け、身体を乗り出すとスナイパーライフルを取り出し――。



「タリス! 多少荒い運転でも構いやしない。吹かして勇者を狙いな!!」

「我、了解した成り!」



ブフォオオオオン!!!



という音と共にタイヤの悲鳴が鳴り響き、アタシはパンパン!! と空に向けて発砲した!

途端木霊す悲鳴や鳴き声、スライムが運転するハイエーナなんてイカスだろう!?

ギョッとした目でこっちを見る三人に狙いを定め、先ずは回復役の脳天をダムダム弾で撃ち落とし破壊すると、つんざく悲鳴を上げたのは魔法使いだった。

続けて魔法使いの脳を狙い撃って撃ち落とすと、ゴドン!! と目を見開いて涙を流したまま地面に倒れる。

怯え腐った勇者は生意気にも盾を使おうとしたが――そんな盾は通用しないんだよ!!



「喰らいな!! あの世で悔やめ!!」



ダムダム弾ではなく貫通力の高い球を用意して一気に脳天を狙い撃ちするとクリティカルヒット! そのまま3発ほど脳天にブチあてれば勇者は脳汁吹き出しながら地面に倒れ、つんざく悲鳴が木霊する。

そして勇者とその仲間二人をハイエーナで踏みつけて車を停めると、既に移動したトリスが横の扉から呆然と返り血を浴びて立っている曾孫のカナデを捕まえて車に引き込み、アタシはサングラスをかけ直して一気に死体の上でタイヤを急速回転させながら吹かし走り去る。



「ちょいと揺れるよ、身の安全に注意しな」

「「ひいいいい!!」」

「我! 魔王の曾孫を守る成り!!」

「我! 従者二人を守る成り!!」



そう言って身体に取り込むと、激しい揺れでもスライム中なら平気へっちゃら。

ドンドン吹かして飛ばし、途中歩いている冒険者を数名撥ねたが――。



「あ――経験値はうまいけど、アイテムが取れないのが残念だねぇ、ひひひ! さて、5分ギリギリは此処だね」



そう言うとギャッとサイドブレーキを使って車を停め、タリスから孫を引き抜かせ奴隷の首輪を魔王権限で外す。

持ち主が死んで5分以内なら、奴隷の首輪は意外と簡単に外せる仕組みになっているのだ。

無論、魔王権限、もしくは聖なる力の強い者でないと開けられない仕組みだがね。

しかも、大体の冒険者や勇者ってのは、ホームって場所で生き返る。

たった5分の間にやるべきことをサッサと終わらせないといけない。


魔王権限で奴隷の首輪を曾孫から外すと、ハイライトの消えた瞳に色がにじみ出てくる感じがする。

何度か瞬きをすると、ハッとした顔をしてアタシ達を見回し、見慣れた車に乗っているという事もあって困惑しているようだ。



「カナデ。アタシが解かるかい?」

「え、え??」

「魔王召喚でこっちの世界にやってきた……アンタの曾婆さんだよ」

「嘘でしょ!?」



盛大に驚かれてしまった。無理もないねぇ……昔はこんな美魔女とは口では言っていても理解はしていなかったからねぇ。



「どうだい? 40代のアタシは美魔女だろ?」

「は、え……あ、うそ……曾婆ちゃん?」

「何はともあれ、アンタを無事保護できてよかったよ……。全く、【魔王】であるアタシの曾孫が勇者ご時の奴隷なんて、格好がつきやしない」

「ま、おう?」

「魔王」

「えええええええええ!? なんで、どうして!?」



――ここで、冒頭に戻るんけれど。

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