第5話 若かりしき頃の思い出と、今の自分と

アタシがまだ20代になるかならないかの頃だったかねぇ。

野戦病院は何時も焦げ臭いにおいと血のにおいに溢れていて、うめき声と泣き声や啜り泣きが聞こえるような、そんな世界だった。

そこに飛行機工場を狙われて生き残ったアタシと同じくらいの青年が運び込まれたが、殆どの仲間たちは事切れた後だった。


後に夫となるその男性はショックから発熱し、命に別状はないが心が問題だろうとアタシは思ったね。

仲間を連れてきた彼の身体は返り血で真っ赤に染まっていて……数日後、熱が下がって起きるとボロボロと涙を流して泣いていたっけねぇ。

あの時代に涙脆いなんて見っともない。

そう思っていたけれど……。



「皆……皆、か、母ちゃん、母ちゃんいうて死んでいった……!! 誰も、誰も万歳なんて……言わんかった!!」

「……」

「く……っふ……っ!!」



そうだねぇ。

誰も好き好んで死ぬ奴なんて居やしないさね。

そう言って慰めていたっけねぇ。

それからもドンドン被害は拡大していって、その男の事も忘れた頃、やっと敗戦が決まって……女なんてどうなるのか分からないみたいな状態になっちまったが、そんな時また再会して「嫁に来るか?」って言ってくれたんだっけねぇ。

アタシも身の安全を優先したくて了承したけど、アイツ、意外と家庭的でいい奴だった。


まぁ、美丈夫とは周囲から言われはしたが、華やかさは一切無い。

コツコツ働いて、コツコツ金を貯めて、子供が増えて、田舎だが大きな家を一軒買って……刺激のない日々に飽き飽きしちまったアタシと家庭内別居。

それでも爺様は何も言わなかった。

死ぬまで家庭内別居だったが、本当に――最後の言葉は……。



「俺の人生、そんなに悪くなかった……それが爺様の最後の言葉だったよ」

「へぇ……キヌ様は幸せだったんですか?」

「さてね? 刺激がない人生なんてアタシは嫌だし、お洒落だってしていたい。だってこんなに美人なのに勿体ないだろう?」

「あはは!」



そう道化て見せるとピアは声を出して笑い、アタシは苦笑いしながら口にする。



「でも、爺様は自由にはさせてくれたけれど、離婚だけはしてくれなかったねぇ……」

「何故でしょうか? 愛想尽きたとかなら別れてしまいそうですが」

「さてね……。何があの人をそこまで固執させたのかは分からない。愛してくれていたのかも知れないし、理由は爺様にしか分からないさ」

「そう、ですね」



本当にアタシの事を愛してくれていたかどうかは分からない。

ただ、死ぬ最後まで一緒にいてやったことに関しては感謝して貰いたい所だね!

全く、最後の最後であの笑顔……笑ったまま死んじまって。全く、残された身にもなれって言うんだよ。



「さ、辛気臭い話は此処までだよ。明日からダンジョンだ! 気合入れてガッツリ経験値稼がないとねぇ……ヒヒヒッ」

「ハーレムパーティ馬鹿みたいに美味しいです!!」

「率先して狩っていきたいね!!」

「はい!!」



こうしてアタシ達はそれぞれ昨日の残りのシチューにパン、ちょっと気合を入れる為に【ネットスーパー】でシュークリームでも買って食べて気合を入れ、交互に風呂に入って早めの就寝とした。

そして翌朝、軽めの朝食を摂ってから木に作った拠点を出てダンジョンまで走って行く。

専用装備がある為冒険者より早く走れるのは有難い。転移の腕輪もあるが、ピアとはぐれた場合が面倒なので拠点に戻る用にしか使わないようにしている。



「ダンジョンの入り口が見えてきましたけれど、沢山冒険者もおりますわね!」

「外で戦ってる経験値は無視だよ。アタシ達の狙いはダンジョンさね!」

「入らせて貰えるでしょうか?」

「ピア、霧は使えるね?」

「あ、霧を使って入るのですわね?」

「ご名答。夜中に入るよ」

「了解ですわ!」



こうしてアタシ達はダンジョンの近くに出来た小さな村とも呼べない場所にたどり着き、ゴロツキに絡まれないようアイテムを売りに来た素振りでアイテムボックスから冒険者から奪い取ったポーション等を売り払い、いくらかの金を作る。

それを全財産が入った財布ではなく、敢えて、絡まれた時に渡して逃げられるように鞄に入れて宿に入り不味い酒を一杯だけ頼む。

無論ピアもだ。

無論宿をとる時に怪しまれた為、元冒険者であることにし、夫への忘れ物を娘と届けにきたという設定で泊まらせて貰う。

結構は夜になり人通りが少なくなってから――。



「そろそろだね」

「行くとしましょうか」

「使うのは解っているだろうが、【もくもく霧】と【沈黙の笛】だよ」

「口笛は吹けますわ。安心して下さいませ」

「それじゃ、経験値を稼ぎに行こうかね!!」



こうして宿を後にして薄暗い外に出ると早速【もくもく霧】を発動させ村のような小さな場所を覆っていく。

それくらいなピアでも出来るのだ。

そのまま真っ直ぐ……ダンジョンの入り口近くでピアが口笛を吹くとシン……ッと静まり返り足音とバタつく音だけが聞こえてくる。

アタシとピアには【広範囲マップ】がある為ダンジョンの中まではスムーズに入る事が出来たし、何より――。



「そろそろスキルを切っていい頃合いだねぇ」

「ほっといても後5分もすれば霧は晴れて喋れるようになりますわ」

「ははは! じゃあ早速。闇に興じて数名レベルを上げさせて貰おうか」

「【広範囲マップ】の様子ですと入れ食い状態ですわね」

「いっそ【無臭の毒+5】の範囲も知りたいねぇ」

「纏まってるところで使いますわ」



そう言って冒険者たちが纏まっている所に向かい、木々の中複数のパーティーが眠っている所でピアは【無臭の毒+5】を使った。

アタシの【鑑定】のお陰で【無臭の毒+5】の広さは大体わかるが結構広い。

これくらいの面子ならあっという間に飲み込まれるだろう。

5分もすればもがき苦しみ始め、6分もすれば一人、また一人と息絶えた。



「纏めてやるには丁度いいが、即死じゃないから時間が掛かっちまうね」

「プラス5上げますか?」

「そっちの方がアイテムも汚れなくて済む」



そう言うと失禁等をした冒険者のにおいに鼻を抑えつつ、ピアも「確かにそうですわね」と鼻と口元を手で覆い早速周囲に人気がない事を確認して財布を漁る。

後は売り物になりそうなアイテムも貰って5分後死体は消えて行った。



「全員の財布は抜き取れたが……やはり迅速さが欲しいね。あと一人仲間に出来たらいいんだがねぇ」

「そういえば、冒険者の噂ではここのダンジョンボスはまだ一度も倒されてないそうですわ」

「へぇ、そいつは興味があるねぇ」



こうして、まだ誰も倒していないというダンジョンボスを目指しながらレベル上げをして行くことを決め、アタシ達は更にレベルを上げに冒険者を狩りに行ったのだった。

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