第3話 104歳のアタシが、魔王になった理由

――数か月前、家の床が突然光り輝き、アタシは知らない世界に立っていた。死後の世界かと思いきや、そこはまったく異なる場所だった。そして、ピアリアの絶望の声が耳に響く。


「魔王召喚したのに! こんなお婆様が来てしまわれるなんて!!」


ピアリアは膝から崩れ落ち、サーバルが慰めていた。アタシは杖をついて近づき、彼女たちからこの世界の事情を聞いた。和平を望んだ魔王の仇討ちのために召喚されたが、現れたのは100歳を超える老婆だったのだ。


しかし、アタシは自分のスキルを発見し、【過去への若返り】で40代の姿に戻ることができた。ピアとサーバルは驚いたが、アタシは次々とスキルを確認し、銃を使ったスキルが豊富であることを知った。


アタシはピアとサーバルに、この世界で魔王として生きる意味を教えられた。人間や冒険者を倒してレベルを上げる必要があるという。倫理的な問題を感じつつも、アタシは戦時中の経験を思い出し、生き残るためには戦うしかないと理解した。


ピアリアの話を聞いたアタシは、彼女の仇討ちを手伝うことを決意する。しかし、四天王や宰相からは「弱い魔王は魔王に非ず」と言われ、人間であることを軽蔑された。アタシはピアリアにレベルを上げるために冒険者を狩ることを提案し、二人はその道を歩み始める。

アタシとピアリアは、森の中を進みながら、次の獲物を探していた。アタシは、ピアリアに向かって言う。



「今日は本当にラッキーだったわね。あの冒険者たちからは、それなりに良い戦利品が手に入ったし、経験値もしっかり稼げよ」


ピアリアは、アタシの言葉に頷きながらも、何かを考え込んでいるようだった。



「私たちっていつもこんな風に冒険者を狩ってばかりだけど、これで本当に強くなれるのかしら?」



彼女の声には、少し不安が混じっていた。

アタシは、ピアリアの不安を感じ取り、優しく微笑む。



「心配はいらないよ、ピアリア。私たちは魔王側の存在。人間を倒すことでしか経験値を得られない。だから、私たちが強くなるためには、これが最も効率的な方法なんだよ」

「そうね、キヌ様がそう言うなら、間違いないわ。でも、私たちもいつかは、あの忌々しい勇者たちと戦わなくてはならないのよね?」



彼女の目には、戦う決意が宿っていた。

アタシは、ピアリアの成長を感じながら、頷く。



「ああ、その時が来たら、アタシたちはきっと彼らに立ち向かさ。でも、その前に、もっとレベルを上げて、準備を整えなくちゃねぇ。今は、一つ一つの戦いを大切にして、強くなることに集中しまようじゃないか」



アタシ達は、再び森の奥深くへと足を進める。ピアリアの手を取り、力強く言う。「私たちの旅はまだ始まったばかり。これからも、一緒に頑張っていこう」と告げたのだった。




翌日、サイドカーを吹かしながらアタシたちは旅行者として国に入り、情報収集を開始する。酒場でクソ不味い酒を飲みながら、オーナーにチップを渡して情報を聞くところで――。荒くれ者を相手してきたオーナーらしく大きな図体の男だが、金貨を一枚握らせると途端に機嫌がよくなった。所詮は何処でも金だねぇ。

さて、まず必要な情報は自分たちがどれだけ噂になっちまっているかどうか。そして何故こんなに冒険者が集まっているのかだ。



「何でも昨日だけで20人の冒険者が狙われて死んだって話だ。魔族の仕業かも知れないが、誰が襲って来てるのか分からねぇらしい」

「ヤダねぇ、恐ろしいったらありゃしない」

「しかも、不思議なことに魔物よりも人間を優先して攻撃してくる上に襲われた冒険者たちは金品をすべて奪われているというんだ」

「じゃあ……同じ冒険者の仕業かい?」



マスターは恐らく襲われたであろう冒険者の方に目をやり、気の毒そうな顔をしている。

アタシはワザとらしく驚いた様子で神妙に言葉を綴った。



「そこが分からないだよなぁ……。皆気付いたら死んでたっていってな?」

「へぇ……」

「敵の顔も姿も見てないって言うんだよ。本当に謎だよ」

「謎だねぇ」

「恐ろしいですわ……」



どうやら昨日狩った冒険者たちにはアタシ達の姿は見られていないようだ。

まぁ草陰に隠れて狙い撃ちしてるんだから見られようもないんだけどねぇ?

しかし、ここでの狩りはもう終わりだね。警戒されてしまっては、まともに狩りをすることはできないだろう。



「それにしても、外で多くの冒険者が戦っているね……。何か事件でもあったのかい?」

「ああ、もう直ぐ魔王を倒して一年だろう? それで残党のモンスターたちを倒してるんだよ」

「へぇ……」

「王国からのお達しでね。冒険者は各地で動き出してるよ。それに何でも、勇者様達も動き出しるらしい」



思わぬ情報に「勇者が?」と問い掛けると、酒場の主人は強く頷いて、不思議に思ったアタシは言葉を続けた。



「おやおや? 魔王を倒したら勇者様は悠々自適の生活が約束されてたんじゃないのかい?」

「それがなぁ……。王様も手が付けれない横暴さがあるらしくってな。だったら外で魔物を退治して来いって言われたらしい。全く、魔王を倒したならサッサと元の世界に戻って貰いたいもんだよ」



――――まったく、都合のいいことばかり言う異世界人だね。

いや、そう考えているこの国の人間の方が多いだろうねぇ……。

その勇者一行が屑って言うのならだが、残念ながら聞く所どうにも屑な輩のようだ。

勇者召喚されたという話は聞いている為、アタシのいた世界からやってきた奴等だろう。

しかし、その中の一人はポーター、つまり荷物持ちとしてこき使われていると聞いた。

しかも奴隷の首輪までつけさせて。

全く胸糞悪い話だね。どうしてくれようか。



「良い話が聞けて良かったよ。それだけ冒険者が沢山いるなら安心して旅が出来そうだ」

「アンタみたいな美女は冒険者相手でも危険だぜ? そっちの嬢ちゃんも顔を隠しているが美人なんだろ?」

「よしておくれよ。アタシ達は自由気ままな旅人さね。狙われる前に逃げるに決まってるだろう?」



そうだ、私たちは自由気ままに【冒険者を狩る】魔王軍の側なのだ。

襲ってくる冒険者がいるって言うなら、そいつはネギを背負ったカモ以外の何者でもないじゃないか。

是非、そう言う阿呆がいてくれると助かるんだけどねぇ?



「それで、アンタ達は暫くこの町にいるのかい?」

「そうもいかなくてね。別の町に移動する予定なのさ」

「なんだい、ゆっくりして行けばいいのに」

「なんでだい?」

「勇者ご一行がこの町に寄るって話なんだ。会えるかもしれないぜ?」



ほう……。

最もアタシ達が狙いたい相手『勇者ご一行』がこの町に来るって言うなら、是非共面を拝んで住民が沢山見ている中で撃ち殺してやりたいねぇ……。



「そいつは良いね。じゃあ適当にブラブラするかねぇ?」

「何でもこの近くにあるダンジョンに用があるとかで……。そのダンジョンはかなり広いんだが下に行けば行くほど敵も強くなる。アンタ達みたいな旅人は行くんじゃないぞ」

「そうするよ。情報ありがとさん」

「おう、また来てくれよ!」



そう決まったら、その広大なダンジョンにいる冒険者を無差別に狩るのもいいかもしれないねぇ……。ダンジョンで死ねばペナルティは付くらしいが、強い冒険者も多いだろうし、何よりこのスキル【広範囲マップ】は隠し扉すら見つけられる優れモノだ。

レアアイテムをゲットしつつ行くってのも悪くない。

それに、ダンジョン内であっても拠点は作る事が出来る。

何ともうまい話しだった。

問題は姿を消す事が出来るかどうかだが、それはピアのスキルが役立つだろう。

何せピアリアのスキルは――。

ダンジョンに用があるという話を聞き、アタシはダンジョンで冒険者を狩ることを考える。ダンジョンで死ねばペナルティがあるが、強い冒険者も多く、レアアイテムをゲットするチャンスもある。ダンジョン内で拠点を作ることもできる。


姿を消すことができるかどうかは問題だが、ピアのスキルが役立つだろう。ピアリアのスキルは――。



【もくもく霧(視界を奪う霧・魔王には無効)】【無臭の毒(レベルアップで効果範囲拡大・魔王には無効)】【麻痺の香り(敵を麻痺させる・魔王には無効)】【痺れ玉(一瞬の麻痺効果・魔王には無効)】【沈黙の笛(音を聞いた者は沈黙・魔王には無効)】【耳鳴りの嘆き(指パッチンで発動・魔王には無効)】【常闇の誘い(視界を奪う・魔王には無効)】【アイテムボックス】【鑑定】【広範囲マップ】【回復魔法4】【危険察知10】【悪意察知10】【生活魔法6】【調理スキル3】【銃スキル1】



スキル【常闇の誘い】は暗闇防御付与していたら意味はないが、それだけで色々と助かるからねぇ。

それにアタシ達二人とも【危険察知10】【悪意察知10】と察知能力は高い。

取り敢えずは何とかなるだろう。


町の外に出るとアタシとピアは町をぶらつきつつ旅人に扮してその他有益な情報を得ようとしたが、どれも大体同じような内容だった。

これじゃ草臥れ損だね。



「ピア、明日はダンジョンに行ってみるかい?」

「そうですわね。銃スキルもせめて3は欲しいですもの、ドンドン狩りたいですわ」

「スキル3もあれば止まってる相手なら外さないだろうからね。もう少しでスキルは上がりそうだから頑張んな」

「頑張りますわ!」

「じゃあ今日は一旦帰ってスキルチェックでもして、ポイントでも振るかい?」

「分かりましたわ!」



そう言って私たちは日が暮れる前に一度外へ出て、町からそれほど遠くない森へと向かい、人目がないことを確認した上で木に拠点を作った。

こうして中に入り、今日は早めの休憩を兼ねてのスキルチェックだ。

特に代わり映えは無いが、そろそろキャンピングカーくらいは欲しい所だね。

雨の降るダンジョンの中をサイドカーで走るのも気怠いだろうし。



「さて、珈琲でも飲みながらスキルチェックと行くかね」

「はい! あ、わたくし、カフェオレがいいですわ!」

「少しはアンタも作れるようになりな?」

「うう……じゃ自分の分は自分で淹れますわ!」

「そうしておくれ」



そう言うとお湯をケトラで沸かし、珈琲を作るとピアは牛乳たっぷりのカフェオレを作ってソファーに座る。

そしてお互いに――。



「「スキルボード、オープン」」



そう唱えるとブオン! と言う音と共にスキルボードが出てきた。

さてさて、どうしようかねぇ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る