第2話 レベル上げのスタートはいつも不平不満から

――森は薄暗く、冒険者たちが魔物の狩猟に勤しんでいる。その中で、アタシは草陰に身を潜め、静かに銃を構える。目の前の冒険者たちの欲望に満ちた顔を見て、冷静に引き金を引く。


バンッ!!


銃声が響き渡り、冒険者の一人が倒れる。残りの二人が慌てふためく中、ピアリアが飛び出し、リボルバーを発砲する。彼女はまだ未熟だが、アタシがサポートする。


パンパァン!!


アタシの正確な射撃で、逃げる冒険者も倒れる。二人は急いで貴重品を奪い、死亡した冒険者は【ホーム】へと戻される。アタシは倒れそうになっていた魔物に回復魔法をかけ、その姿を見て満足する。


アタシは田中絹、104歳の大正生まれで、この世界に魔王として転移した。ピアリアは元魔王のひ孫で、二人は冒険者を狩りながらレベルを上げている。アタシはピアリアに銃の使い方を教え、彼女の成長を見守る。


町でのイベントに興味を示さないピアリアだが、アタシは経験値を求めて冒険者を探し続ける。魔王側の彼女たちは、人間を倒すことでのみ経験値が上がる。アタシはピアリアに、許される命と許されざる命の区別を教える。


アタシは戦時中の経験を持ち、ピアリアはそれを理解できないが、二人は共に強くなるために戦い続ける。そして、アタシのスキルや装備は特別で、ピアリアもそれについていく。


二人は次なる獲物を求めて森を進む。アタシは魔王としての自分の変化を感じつつ、ピアリアと共に冒険者を狩る日々を送る。途端ドサリと倒れる音が聞こえ、アタシとピアリアは草叢から出て来て事切れた冒険者の元へと足を急ぐ。


この世界のルールでは、死亡した冒険者は【ホーム】と称される、教会の中心にあるクリスタルへと戻されるのだ。

そこで蘇生され生き返る。その為の冒険者用プレートを彼らは何時も身に着けている。



「さ、ピア! 時間がないよ。さっさと金と金目の物を奪い取って剥ぎ取りな!」

「急ぎますわ!」

「どれどれ、アタシも調べさせて貰おうかね……ヒヒヒ」



そう言いながら、地面に倒れ血を流す冒険者の鞄を漁り、財布や価値のあるアイテムを探し始めた。

ポーションに護符、これらはあって損はない代物だとスキル【鑑定】で分かる。それらをアイテムボックスに仕舞いこみ、更に装備品で高そうな物を鑑定して剥ぎ取りアイテムボックスに投げ込む。



「まだ駆け出しの冒険者だったのでしょう。持っている物がお粗末ですわね」

「違いない。だが多少なりと経験値は入った。残る一人は財布だけでも抜き取ってから放置だね。さて、魔物のお前さんには回復魔法をかけてやろうか。おいでぇな?」



そうアタシが手のひらから回復の魔法陣を出して倒されそうになっていたか弱き魔物に回復魔法をかけると、傷ついた身体は治って行き、嬉しそうに飛び跳ねながら去って行った。



――アタシの名前は、田中 絹。現在の職業は【魔王】。

この世界に魔王転移させられた御年104歳になる大正生まれ。

見た目は常時スキルの【過去への若返り】のお陰で、見た目は40代前半って所かねぇ?

魔王召喚されたあの日は驚いたもんだが、ついにアタシもお迎えが来たかと思ったのに、この小娘、元魔王のひ孫であるピアリアが――。



『魔王召喚したのに! こんなお婆様が来てしまわれるなんて!!』



そう言ってガックリと膝から倒れ落ちる様を見て笑ったっけねぇ。

あれからややあって、冒険者を殺しながらレベルを上げる日々ってのも、中々最初は慣れそうにないかと思ったが、戦争時代は【殺られる前に殺れ】の世界で生き延びたんだ。

途中からどうでもよくなっちまった。

これも、魔王故なのか――それとも、アタシの性格故なのか。



「いいかいピア、銃はしっかりと狙いを定めな。殺す事に躊躇すれば相手が苦しむだけだという事は良く分かっているだろう? 足を貫通すれば足が痛い、腕に当たれば腕が痛い。ジワジワ殺すのがお好みならそれでいいが、効率が悪い。狙う所は?」

「頭、喉、心臓」

「よく覚えておきな」

「はい!」



アタシがそう言えば素直に聞いてくれる子だ。

育て甲斐もある根性もある。



「しかし今日は入れ食いの日だね! 久々に町の近くまで来たが……町で聞いてみるのも悪くはないねぇ?」

「人間のやるイベントなんて興味なんかありませんわ! 冒険者なんて、わたくし達の経験値じゃありませんの」

「だが、その経験値が入れ食い状態なんだ。何時まで続くか知りたくはないかい?」

「それは……そうですけれど」



不満そうに口をとがらせて言うピアリアに、アタシ達は事切れた冒険者に興味もなくその場を去り、次なる経験値――【冒険者】を探して行く。

魔王側であるアタシ達は、魔物や魔獣を倒しても経験値なんて上がりゃしない。

上がるのは魔王軍と敵対している【人間】、つまりは【冒険者】を殺した時にこそ経験値が上がる。


だからと言って、アタシ達は一般人だけ殺さない。

『許される命と、許されざる命』の区別くらいはつけている。その事をピアにも厳しく教え込んでいる。



「しかし『魔王のレベルが低い等、魔王とは認めない!!』って輩が多くて困っちまうね」

「それは……仕方ないかも知れませんわ。でも、少なくともキヌ様はわたくしよりレベルが高かったですわ。何故ですの?」

「昔の経験……って奴かねぇ。アタシは戦時中、従軍看護婦だったからね」

「さっぱりわかりませんわ?」

「あはは! 分からなくて大いに結構! まぁ、あの時代は助からない方がマシって言う輩も多かったって事さね」

「キヌ様は良く分からない事を仰いますわ?」



そう言って首を傾げる15歳のピアにアタシはニッコリ微笑むと、それ以上口にする事は無かった。

戦時中は腕がない足がない、破損部位の多い兵士が何人も担ぎ込まれてはもがき苦しみながら死んでいった。

助けたくても助からない。

「いっそ殺してくれ」と涙を流しながら懇願する兵士たち……。



「――さて、今日は後三組はやってキリ良くレベル上げきりちまいたいね」

「そうですわね……。魔王様今レベル幾つでして?」

「今34レベルだね」

「わたくしは24レベルですわ」

「冒険者のプレートを用意する訳にゃいけないが、レベルで言えばそれなりに冒険者を屠ってきたが、一般的には中堅どころのレベルって所かね」

「村のおばさまのお話だと、レベル30台でCランクの冒険者と同じだという事でしたわ。あの忌々しい勇者たちはレベル60台だとか……」



そう言って怒りの形相になるピアに、アタシは彼女の背中をポンポンと叩いて落ち着かせる。冷静に見えて怒ると手が付けられない所があるのだ。



「曾お爺様のっ! 曾お爺様の命を奪っておいて日々宴ですって!? ふざけんじゃありません事よ!?」

「本当にそうだねぇ。それで、その勇者もまたアンタが魔王召喚したように、【勇者召喚】されたんだろう?」

「そうですわ! 一人は荷物持ちだったから戦ってないそうですけれど……」

「ああ、所謂ポーターかい。戦闘向きじゃない子でもいたのかねぇ」

「腹立ちますわ~~~!!」

「うんうん、じゃあその怒りを此処から2キロ離れた所にいる冒険者にぶつけようか」

「殺ってやりますわ!!」



そう言うとスキルである【広範囲マップ】で人間だと分ると赤く光る為、そいつらを求めて走り出す。

アタシ達の装備は特別製だ。

魔王アイテムの『魔王の配下EX』はピアスから武器を取り出す事が出来る。『転移の腕輪』はある程度離れていても瞬間移動で移動する事が可能だ。

『レベルアップEX』は指輪だし、『俊足ヒールEX』に『マントEX』。マントには疲れ知らず付与がされている。

ところが、アタシのスキル『ネットスーパー』で買った『サングラスEX』は遠くまで見ることができる。何故か付与スキルが着いていた、謎アイテムでもある。

――そう、アタシの魔王としてのスキルは色々ぶっ飛んでるらしい。


ピアの分は同じものだが全てEXはつかなかった。

魔王補正なんてものがあるのかも知れないねぇ……。

正にひ孫がやってたゲームみたな世界じゃないかい?

まぁ、やる事が勇者側じゃなくて魔王側だがね!



「全く、鶏の首を切り落とすのと人間を殺すのが同じ感覚になっちまうなんてねぇ」

「どうしましたの?」

「アタシも色々ぶっ飛んじまったってことさね!」

「あらまぁ、うふふふ!!」



そう鼻で嘲笑って言うと、ピアは嬉しそうに笑いながら俊足のブーツでアタシについてきて茂みに音もなく隠れる……。

さてさて、ピアのご機嫌をなおす為の今回の冒険者は果たして――。











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