地獄に落ちた

書の学徒

第1話 エリート

 人とは何か

 そう考えたことはないか

 私はある

 辛いとき

 苦しいとき

  自分の存在意義を求めたこともある

 だが、今となってはくだらない。

 私は心で輪廻転生を信じている。

 だが、脳では否定している。

 人を構築するのは体験と記憶と努力だ。

 世の中では自分の不運、失敗を自分の遺伝子のせいにしている。

 無論、否定はしない。科学的に立証されているからだ。

 だからと言って人生がすべて決まるとは限らない。

 いくら天才だろうが

 いくら人望があろうが

 一時の不運で全て変わることがある。

 例と言えば、自分だ。

 父は大学に入学したが卒業はしておらず

 母は、中卒だ。

 その子供が優秀な遺伝子を持っているといえるのか?

 それでも私は、国立大学に卒業

 会社も努力の末に入社

 努力を惜しまず時間を効率的使えば、有意義に生活できる。

 今や次長の座

 上司の要望に応え相手の予想以上の戦果を出す。

 そして、部下の意見はしっかり聞きより多くの意見を採用する。

 自分はほとんど考えることなんてない。

 周りの空気を読みを徹底し単純作業を続ければ昇進する。

 結論として

 遺伝子は、人生に少ししか作用しない。

 人生を大きく動かすのは

 環境と選択だ

 いかに優れていようとその能力を発揮できる地位にいなけりゃ意味がない。

 地位は、努力によって手に入れられる。

 天才であっても努力なしでは、上までは上がれない。

 せいぜい労働力として扱われて終わりだろう。

 優秀な人間を低賃金で働かせるというほど美味しい話はない。

 結局、上司にゴマすりしてご機嫌取りしなければ意味がない。

 無駄な努力になるだけだ。

 必要なのはアピールだ。

 なので私は、上司のご機嫌取り、1を聞いて10を知る気持ちで常に気を張る。

 だが、世の中にはそれもできないゴミがいる。

 彼らは、努力をしない。

 それでも、嫉妬はする。

 先ほど言った通り、遺伝子のせいにする輩だ。

 陰で暴言を吐き、たまには暴力にまで発展するものがいる。

 このもののおかげで、何人もの優秀な人材が失墜するのを見た。

 人生という道は、才能だけで決まらない一つの理由だ。

 そして、大抵そんな連中は会社を引っ張る寄生虫だ。

 そんな人間を何人も首にした。

 連中は似たようなことをいつも口にする。

 「もうやらない」

 「もう一度チャンスを」

 「養うための家族がいる」

 全員余すことなく全員、情に訴える。

 見てるだけで笑いそうになる

 連中は情によってしか動かない

 動けないのだ

 ゴミを掃除するのは気分がいい

 会社から出た。

 天気予報通り雨が降っていた。

 私は、持ってきた折り畳み傘を広げながら、

 雨の余韻に浸ってた。

 心が落ち着く

 この湿った体に絡みつくよう雨の匂い

 外が雨で傘には雨粒が絶え間なく当たる音がする。

 雨粒が地面にあたってラジオのノイズのような音を奏でる

 道路を走る車の音

 歩く人間の音

 この当たり前の雑音が落ち着く

 雨では誰もしゃべらない

 人間の声がいない

 誰も

 革靴がコンクリートにある足音を発しながら私は東京駅に向かった。

 カタカタカタ

 と歩く

 私は信号で止まり、隣のやつを見る

 例の輩の一種の人間だろう。

 魂が抜けたような顔をしている。

 首にされたのか

 彼女に振られたのか

 いや、それはないだろう

 私は、奴の顔から視線を下げて思った。

 スーツだ。

 リストラで確定だな。

 視線を戻すと奴が私の事を見た。

 こういう人間は何をするか分からない。

 地位を無くした人間は行動が読めないものだ

 避けるべきだ

 私は、奴を無視し青信号の歩道を渡った。

 奴からの視線を感じたが気づいたら消えていた。


 駅に着き

 改札口でスイカカードを機械の青い部分にかざして通る。

 ホームでは、やることもないのでスマホでニュースを見る。

 ニュースにはいろんな情報が書かれていて飽きることはない。

 最近主要なのは、

 連続殺人犯 雨野 浩二あまの こうじの処刑執行

 人気俳優の夫婦の離婚

 芸能人の自殺

 この三つだ。

 殺人犯の死刑執行なんて当然

 必然だ。

 私が興味があるのは殺し方だ。

 検察によると被害者は全員銃弾で撃たれている。

 拳銃は、まだ取り押さえられてないそうだ。

 私も知る、一部には有名な銃だ。

 とある会社が3Dプリンターでできる銃としてデータの販売をしていたが今や中止。日本にも何万人もの人間がダウンロードしていることを確認したらしい。

 何とも怖い話だ。

 とはいっても弾丸の装填は一発ずつ.380ACP弾を使用する時点で弾の入手は不可能。挙句の果てに熱可塑性樹脂糸の断熱性に頼ったものだ使い捨てもいいところだろう。

 「電車が通過します。」

 「◆番乗り場に電車が通過します。」

 「ご注意ください」

 「有馬 龍也ありま たつや!!」

 大きな警告音と共に歩道で見た奴が言いすぐにぶつかってきた。

 まて

 私はなぜこいつの声を知っている。

 私は、スマホから顔を離し―――――――

 がたん

 ごとん がたん 

 ごとん がたん ごとん

 「キャー!」

 女性の叫び声だ

 何事だ

 気が付くと横倒れになっていた。

 髪の毛が通過する電車に当たるのを感じる。

 とにかく、状況を整理しよう。

 腹が痛い

 腹が焼けるように熱い

 なぜ

 奴が立っているのを見る

 ただのプラスチックの銃しか持ってない

 ナイフじゃない?

 私は、すぐに先ほどのニュースを思い出す。

 同じだ

 私がニュースで見た3Dプリンター銃と同じものだ。

 痛い 

 痛い

 手を腹にさすると手に体液がかかるのを感じる。

 痛い

 視界がぼやける

 いきなり寒くなってきた

 奴は逃げる

 逃げるなふざけるな

 駅員が近くによる

 

 

 

 

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地獄に落ちた 書の学徒 @sho_no_gakuto

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