第133話 告白されました
玉は最近、寝る時間が遅くなった。
母親と再会したら元の時代に帰るつもりだったから、生活リズムを元の生活と変えない様に、即ち日の出・日の入りを基準にしていた。
だから、晩御飯を終えて入浴すると、バスタオルで頭を拭き拭きパジャマで寝室に下がっていた。(ドライヤーは嫌いらしい。折角買ってあげたのに、1~2度使ってから、洗面所で音がしている様子がない)
でも今は、極力僕と過ごす時間を伸ばす「努力」をしている。
つまり夜更かしをしているんだ。
「努力」と言うのは、身体に染み込んだ生活サイクルと、一日中ちょこまか働き回っている疲れに、小柄な身体では勝てないから。
夜更かしとは言っても22時を回ると、こっくりこっくり船を漕ぎ出すので、逆に僕が一緒に同衾する様になっている。
それ程までに、玉は僕の側に居たがる様になっているんだ。
覚悟を決めた女性って強いね。
こっちは全然覚悟なんかしてないのに。
でも、0時就寝が基本の僕には早くて眠れない。
なのでベッドサイドにタブレットをセットして、イヤホンをして動画サイトや電子書籍を眠くなるまで眺めている。
前は僕の出すノイズが、そこに僕が居る証となるから玉の心に安心を齎すとかで、わざと音を立てていたけど、触れないにしても隣でお互いの体温と体臭がわかる状態では、そんな心配も要らない。
玉は極力僕に頭を付ける(付かないけど)様に丸まって、すぐ寝息を立てはじめるんだよ。
ただ、今夜は、青木さんの様子が気になってか、2人して青木さんの部屋に行ってしまった。
まぁなんか、女だけの話し合いをしているらしい。
おかげでなのか、最近、少しずつだけど、僕1人の時間がちょこちょこ増えて来た。
それはつまり、玉の単独行動が増えて来た事を意味している。
玉が単独行動出来る様になって来ている訳だ。
昔、玉はこの部屋を社と言った。
自分が長年住み続けていた荼枳尼天の社と存在が重なっていると思っていたらしい。
でも今は、荼枳尼天の社と重なっているのは部屋ではなく僕だ、と言う事がわかって来た。
だって、玉の言う通りだと、僕が単独で部屋を離れると留守番をしている玉の体調が崩れる意味がわからない。
色々考えて、色々試した結果、結局は、僕が基点になるのだろうって事で落ち着いた。
昨日・今日の話だから、まだ何も試していないけれど、多分今の玉は僕から多少離れても大丈夫だ。
いざとなったら、聖域に居れば、玉の存在確率が下がると言う事もない筈。
玉も、しずさんも、時の狭間に捕えられて僕の前から消えると言う事もないだろう。
あぁまぁつまり。
僕が就職活動を始められると言う意味でもある。
僕が出勤した後は、浅葱屋敷で留守番してれば良い。
…のかなぁ。
まぁ聖域には荼枳尼天が居るし、浅葱屋敷には一言主がいる。
玉もしずさんも、両方の神様に気に入られている巫女さんだし。
保護を頼んどきゃどうとでもなるわな。
(今更ながら、どんな環境だよ)
とりあえず。
僕が何よりもほっと出来たのは、玉もしずさんも、自分の居場所を確立出来て、あれこれ迷う事も怯える事もなくなっただろうと言う「確信」が持てた事だ。
どう言う縁でこの親娘にここまで深入りする羽目になったのかは知らないけど、僕が出来る事で、彼女達がとりあえず不幸にはならないと、判断出来たのは嬉しい。
さて。
1人きりの僕って、普段はどんな事をしていたかな?
僕が1人じゃなくなってまだ数ヶ月しか経っていないのに、そんな僕を随分と遠く感じてしまう。
★ ★ ★
「只今戻りました。」
「おかえり。」
玉に買ってあげた◯天堂の◯リオカートで3レース連続最下位を華麗に決めたところで玉が帰って来た。
おのれ◯ッパ!
「相変わらず殿は弱いですねぇ。」
「アクションとかシューティングは子供の頃から苦手だったんだよ。多分不器用で反射神経がないんだろう。」
「そんな人がいますか!」
いるんだよ。ここに。
「で?何だったの?」
「教えませんよ。殿は前にお母さんと逢えた事を玉が言うまで佳奈さんに黙ってくれましたよね。それと同じです。佳奈さんから聞いてください。うふふ。」
うふふ?
「ぱんぱん。」
ぱんぱん言いながら、玉はクッションで僕の頭を殴って来ました。
「ぱんぱん。」
「あのぅ、玉さん?」
「ぱんぱん、よしよし。」
よしよし?
「殿、寝ましょう。今日は玉もお母さんの手伝いで疲れました。」
「???」
なんだかわからないけど、どうやら深刻な事態ではなさそうだな。
ま、いっか。
★ ★ ★
相変わらず寝付きの良い玉は、ピロートーク(お母さんと毛糸を編み始めました)の途中で落ちてしまった。
……今日は山葵田作りをしたり、神様がちょっかいを掛けに来たりと忙しくて、浅葱の水晶に行けてないんだよなぁ。
しずさん、漫画の続きをどうするかとか確認してなかった。
あちらももう、寝ているだろうし。
あと、夜(暮れないけど)は、ちびが話し相手になっているとか。
仔犬は可愛いから、それでしずさんの孤独感が薄まってくれたらいいな。
ピロ
おや、メールだ。
………
『まだ、起きていますか?だったら、ちょっと私の話に付き合って下さい。』
青木さんからだった。
彼女は割と自分の事は直接開けっぴろげに言う人なのに。
『起きてるよ。でも、玉はもう寝ているから電話は勘弁してくれ。』
別に起こしても何も言わないだろうけどね。
『わかっているんです。知っているんです。玉ちゃんはお母さんに逢いたくて、ずっと1人で頑張ってた。菊地さんはそんな玉ちゃんを、側で見守っていた。でも見守るだけ。玉ちゃんが本当に辛くて泣いてしまった時は手を差し伸べるけど、普段は玉ちゃんが1人で頑張る。私はそんな2人が良いなって思ってた。あの日、自然公園で助けて貰った日も、玉ちゃんは菊地さんに全幅の信頼を置いていたし、菊地さんも玉ちゃんに好きな様にさせていた。あの日が、玉ちゃんが菊地さんに助けられた翌日って聞いた時、私は呆れました。どれだけなのよって。あの日から私は菊地さんと玉ちゃんに混じりたくて、私なりに頑張りました。でも玉ちゃんは、念願だったお母さんに逢えて、さっきも幸せそうに笑ってました。私ってあんなに幸せに笑えるのかな。そう言ったら、玉ちゃんに怒られました。玉は殿がいるから笑えるんです。殿がいて、お母さんがいて、佳奈さんがいるから笑えるんです。って。こうも言われたな。妹さんに玉と佳奈さんは殿のお世話を頼まれました。って。そうなの。私は菊地さんの妹さんに菊地さんを頼まれているの。』
何やら、取り止めのない話だけど、本人も感情の整理が付いていないのだろう。
僕は黙って、続きを待つ事にした。
あと、笑顔についてはお父さんも心配しているけど、無防備に笑えてるよ。
『ね、気づいてた?私があの自然公園で貴方と逢った時、一目惚れしたんだよ私。うちの両親に会った時の私、見たでしょ。あれが取り繕ってばかりの私。取り繕ろわなきゃ何も出来ない無力で無学な私。でも、私は菊地さんについていきたい。玉ちゃんと一緒に、貴方についていきたい。そう思ったから、今日まで頑張って来たんだよ。でもなんかね。玉ちゃんが立派になり過ぎたよ。玉ちゃんは菊地さんと一緒に歩いて行けると思う。玉ちゃんは菊地さんに甘えないから。自分の足で歩いているから。でも、私ってどうだろう。浅葱の人間として菊地さんのお手伝いがしたいのに、私に何が出来るのかな?そう思ったら、なんか悲しくなっちゃって。そしたら玉ちゃんが部屋に来て、言ってくれたの。殿も妹さんもお母さんも、佳奈さんの事を認めてますよって。泣くのを我慢しても、殿にはバレますよって。そうよね。天然ボケしてぎゃーぎゃー言うのが私の本性。菊地さんもわかってるよね。だいたい、ここまで貴方達を追いかけて来たんじゃない。そう思ったら、覚悟がつきました。』
やっぱりそう言う展開か。
『直接逢うと何を仕出かすかわからないから、勢いだけですけどメールで言います。菊地さん。ずっとお慕い申し上げていました。ちょっと特殊な環境なのもわかっています。でも。』
『私も死ぬまで貴方と一緒にいたい』
『追伸・多分私、このメール見てのたうち回ると思うので、明日からも普通に接して下さい。』
幾つになっても、女性に好かれる事は嬉しいのですが。
何故、告白メールにオチをつける?
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