第6話

「じゃあ、数学の授業をするぞ。早く用意しろよー」


乙女ゲームに授業イベントなんてなかったぞ。朝のホームルームが終わったら即、昼休みだったじゃないか。そこの設定は守ってくれよ。高校数学なんて俺は覚えてないぞ。というか、日本の数学の常識が使えるのか?


「じゃあ、ベクトルからなー」


待ってくれよ、簡単すぎないか?前世の俺、ありがとう。大学受験しただけだが、ある程度の知識はあったようだ。というか、思いっきり勉強ができるって楽しくないか?俺は教科書を懐かしく眺めていると、横のエールはノートに落書きをしていた。


多分だが、少し前の席のキャスの腕のスケッチだろう。血管のところまでしっかりと書かれている。とても幸せそうである。数学の教科書は先生からの防御に使っていたが、貫通されたようで名指しで当てられた。


「じゃあ、ここ。エール、答えてくれるか?」


彼女はまず、どこを聞かれているかを分かっていなかったらしく教科書をせわしなく彼女の目線が行ったり来たりしている。どんどん、顔が彼女の髪色と同じ色になってくる。


仕方ない。助け舟を出すか。俺が嫌われ者という情報をくれたしな。


「……0だ」


彼女は少し驚いた顔をして、俺の答えを大きな声で叫んだ。


「0!」

「はい、正解ねー。次行くぞー」


彼女は先生からの視線が外れたことを確認すると、俺のほうに紙をよこした。クマのイラストの付箋のようで、そこには『ありがと。』とだけ書かれていた。もっと感謝してほしいものだが、彼女はイラストを消しゴムで消すことに集中していたのでやめておくことにした。


キャスとかは賢いんだったよな。毎回、テスト上位に入っているという場面があった気がする。勉強会というイベントがあったからな。勉強なんかせずにいちゃいちゃしていただけだったけど。


授業終了のチャイムが鳴って一限目が終わった。休み時間に学校の配置を知りに行ってもいいが、たいていの場所はイベントで知っているから行くまでもないか。


そんなことを思っていると、エールが声をかけてきた。


「さっきの何?」

「いや、困ってそうだったから?」

「いや、君はそんなキャラじゃないじゃん。唯我独尊な人だったのに」


エリオットは孤独で嫌われているのか?マジでやばい奴だろ。それに寄せていくなんて、俺の心が持たない。いっそのこと、自由にやるか?それのほうがいいかもしれない。まだ学校が始まって一か月だ。まだ挽回できるかもしれない。


「気まぐれだな。感謝してくれ」

「まあ、ありがと」


そういって、彼女はまた本を広げた。


◆◆

これで伸びんかったら辞めます。

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