第4話 侵攻

 家の扉が強く叩かれた。父様は人差し指を口にあて、音を出さないように指示をした。そのまま居間に飾られている剣を外すと扉の向こうに話しかけた。

「こんな夜遅くに何者だ。尋ねる時間を考えろ。

いくら領主様の使いだろうと俺は話を聞くつもりはないぞ」

 父様は音で気付かれないように大声で怒鳴りながら剣を抜いた。

「いやぁ~。そんなに怒らんでくだせぇ。あっしはバン・シール・フランに頼まれてきたですがね。」

「バンに……な……。誰だお前は。」

「あっしですか?あっしはタルト。タル……」

 扉の向こうの男が何か話している途中に父様は剣を扉に突き出した。剣の樋からは赤い、葡萄を潰した液体のような紅い液体が滴った。

 父様は剣を引き抜き、扉を蹴った。その瞬間、こちらに倒れてくる何者かの後ろから銀色に輝くものが父様の右肩を貫いた。もう一人居たのだ。どうにか見ようと思い、暗闇に眼を凝らすとぼんやり見えたその姿は昼間に見たおじさんだった。

「ダメだね。不用心だ。一人だと思ったかい?それよりも君、聞いてたよりも身長低いね。心臓を一突きしてやろうと思ったのに。」

 父様は魔法で筋肉を強化し、敵から武器を奪った。

「なん……何人で来た。他の者は関係のないただの一般人だぞ。」

「教えないし、関係ないね。この国は丸々俺らが貰うよ。それにね……もう。」

 男が右の方向を向いた。右側では建物で気付かなかったが、夕暮れのような凄まじい光を放っていた。

「あ……あれは……集落のほう……がく……」

 父様は数秒、全ての感情を失ったかのように立ち尽くした後に肩から剣を引き抜き、体中に魔力を満ちさせた。

「なぜ……なんだ……ここには何も取るべきものも価値あるものも無いだろう……そんなに……そんなにもお前らは南部が怖いかっ!!」

「価値……だと……それはお前を討ちたいがためだけにここまで来たというのは価値にはならないか殺戮者がよぉ。」

「…………。分かった……元、ダキア王国軍大戦功イレアス・プレヴェールが貴様を討ち取ってくれるわ」

それまで、薄気味悪いぐらいにずっと笑顔を顔に貼り付け、ヘラヘラしていた男が真顔になった。

「名乗りですかい。あっしはソルト戦争でお前に家も家族も全てを奪われたタルトだよ。ただのタルトだよ。あの世で詫びてくれや。」

 家の扉付近で剣の応戦が始まった。家族を背にし、ドアの入口で闘う父様は思うように剣を触れず、苦戦しているようだった。しかし、隙を見て刺客の腹に蹴りを入れて遠ざけることに成功した。

「お前らだけでも逃げろ。逃げ場所は来たじゃない王都じゃない。南だ。後で行って家に連絡をする。」

 そう言い残して去っていった。母様は何か心当たりがあるようで手持ちの銀貨と装飾品を柄の入った高そうな布で包むとそれをカイル兄さんに手渡した。そして妹を抱きかかえると裏口に皆を誘導した。

 裏口から外に出て馬小屋に向かった。馬小屋は蝋燭の炎で少し明るく、心配しながらも扉を開けた。馬小屋に居たのは男だった。頭を切り取られている馬が手前で倒れており、奥では背中から大量の血を出して横たわっているお手伝いさんと下半身裸の男が重なり合っていた。母様は見たことのないぐらいの怒りの感情を見せたが、近くに置いてある薪割り用の斧を持って、男に近づいていった。男はこちらを振り向くそぶりも見せずに話しかけてきた。

「もう終わったんですかい。相手は仮にもあの悪魔でしょう。勢い余ってあの女まで殺ってないでしょうね。あの女もいいかr」

 母様は思い切り斧を振り上げ、男に何度も何度も叩きつけた。しばらくしてから母様は僕の手を握り、製紙小屋まで逃げていった。その手は痛くて怖い手だった。

 村は夜なのに明るくて、男たちの笑い声と皆の悲鳴で溢れていて悪い夢を見ているかのようだった。やがて、男たちから隠れて製紙小屋まで辿り着いた。この小屋は匂いが酷いからあまり人が寄り付かないところで村の外れにあったからか見つかってはいなかった。その小屋で朝を迎えることになった。臭くて、狭くて家に帰りたかった。気が付くと朝になっていた。いつの間にか寝ていたようだった。眠い目を擦りながら部屋を見渡すと母様が部屋に入ってくるときだった。

「おはよう。ピルト、よく寝られた?」

 いつものような母様に安心した。

「もうお家に帰れるの?」

「そうだね……今すぐには厳しいから。母さんの産まれた家に皆で行こうか」

 正直、行きたくなかったが、家に帰りたいと言う出せる雰囲気ではなかった。やがて皆が置き、ご飯も食べずに出発したせいでお腹がペコペコだった。

 バンおじさんがいつも来る方向に向って道を歩き、集落に着いたときだった。遠目から見て分かっていたが白い煙が登っていて異様な光景だった。家という家は崩れ、地面は所々赤色に染まっていた。そして黒色塊が所々に落ちている。その中でも1つの塊が気になった。その塊は1箇所だけ太陽の光を反射していた。それが気になり、勝手に走っていった。その姿を見たカイル兄さんは少し考え事をしてからすぐに呼び止めた。

「このあたりって……おい待てそれに触れるなっ」

 呼び止めるのは遅かった。そのとき既に黒い物体の中に手を突っ込んでいた。指紋のような線が表面にたくさんあって、同じくらいの背丈であったろうそれの中から出てきたには石だった。その石は緑色の綺麗な石だった。

「あっ……あう……あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」

 気付かなければ良かったのに……気付かなかった振りをすれば良かったのに……知らないことは罪ではなかったのに……気付いてしまった。

 ひとしきり泣き止んだ後に眠ってしまった。









 眼の前の剣士はとても強かった。だが、それでも負ける要素は無かった。右肩の傷を考えても眼の前の剣士が3人でも4人でも倒せる余裕があった。だが、剣士は守りの姿勢を徹底していた。

「埒があかないな」

 そう吐き捨てると自身に気、あいつは魔力といったか……を巡らせ、身体を強化し、剣へと魔力を巡らせた。これは一部の者しかできない剣との一体化であった。

「それが……剣とに一体化ですか……惜しいですね。」

 何を戯言を抜かすかと思いながらも剣士の剣ごと切るつもりで一撃を放った。その一撃は確かに剣を切り、魔力を切り、肉を切り、骨まで達したところで止まった。

「その若さでそこまでとは見事。」

これ以上、生き恥を晒すものではないと剣に力を込め始めた。しかし、剣士は最初の笑いを浮かべると懐から鉄製の筒を取り出した。その瞬間、剣士から離れようと後ろに飛んだとき、首元に光の線が走った。

 どくどくと首元からは赤い血液が流れた。

「な……なにを……し……たッ」

「これはな……帝国がかの国から輸入した鉄の玉を発射する武器だ。これを神聖国が魔力しように改良した一品だ。装填に時間がかかる上に、魔力の満ちる心臓近くじゃないといけない不便な代物でな……最初しか使えない」

 男はそういった後に剣を首に叩きつけた。一回、二回、三回と絶命するまでそれは続いた。

「ご……めん……な……」

 瞳からは光が消え、一人の時代を牽引した英雄が今、途絶えた。


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