第3話 誕生
バンおじさんはここ最近、頻繁に家に顔を出すようになった。よく会えることは嬉しいけど、話を聞き終えてしまった。それでも暇な僕は何か話がないかと執拗に迫った。
「そうだなぁ……あるにはあるが……お伽噺話しかないかな。」
それでもと聴いた話はとてもワクワクするものだった。海図家ネビル、ネビルは王様の力を借りる条件として世界各国の宝物を集める話だった。金色の羊毛に海色の皿、白い色の琥珀にいくつもの世界と幾人もの英雄のお話だった。
「そのネビルの船に乗ってたロイとドラコはどっちが強いの?三器一技とどっちが強い?」
「そうだなぁ……ああそういえばそろそろ親父さん帰ってくるまでかな。」
おじさんはいつも話をすり替える。だけど兄様と母様と魔法の練習の生活にいつしかおじさんが加わっていった。
やがていくつもの季節が巡ると母様のお腹が大きくなっていった。そこで母様に代わり、農奴を利用することにした。家族以外の人が家に居るのは少し違和感があったけど母様が身重なら仕方がない。
やがて、母様が部屋から動かなくなってからは1人で居るのが可哀想だと思ってこの頃はいつも母様にくっついていた。
「ホントにこの中に人が居るの!?」
「そうよ。あっ今お腹を蹴ったね。」
自分に弟か妹ができるんだと段々と実感が湧いてきた。
「僕、妹がいいなぁ~。ぜーったい可愛がるな~。」
「そうだなぁ~。まあ弟であってもコイツみたいに生意気に育たなければ良いけどな~」
いつもちょっかいをかけてくる。やっぱりカイル兄さんは苦手だ。
「そういえばピルト、あなたはいっつも側に居てくれるけど……お友達は居ないの?」
近くの小さい森、庭先、母様のところ、いつも同じ場所でしか遊んでいなかった。そのため、当然そんな者はいない。そこからいつも1人だと思われたくはなくて嘘をついてしまった。
「い……いるよ。でも今は母様が一人になると思って。」
「いいのよ。今は家にお手伝いさんもいるし、遊んでおいで。」
半ば強制的に家から追い出された。これからどうしようと思ったが、確かに同じところにしか行っていなかったと思い、川の方向に向かった。
最近はすっかり葡萄の季節となり、川への道は段々と木々が減っていき、大きな平原が存在していた。肌に自家に刺さるような太陽光に耐えかねて小走りで川へと急いだ。段々と近づいてくる川に3つの影があった。
「動物かな?見たことないや。」
ワクワクしながらさらに急ぐと、その影が自分と同じくらいの背丈の子供たちだと分かった。
「あっ……」
咄嗟にその姿を見つけると咄嗟に後退りしてしまった。最初はいつもそうだった。バンおじさんと初めて出会ったときも母様の後ろに隠れていた。
で、でも今は隠れるところがな……ない。
周りを頻繁に見渡す僕に遠く離れた影はこちらに手を振っている。どう反応すればいいのか分からずに突っ立っていると影は近付いてきた。やがて目の前までやってきたのは日焼けした小麦の肌に縮れ毛の活発そうな男の子だった。
「なんだお前。一緒に遊びたいのか?」
これが初めての友達だった。この少年は名前が無かった。7歳までは精霊様や神様の持ち物だから名前は付けないらしかった。でも呼びづらいからと親からは豆糞と呼ばれてるらしい。豆糞はファーと呼ばれる男の子とトットという名前の女の子のリーダーだった。それから、日が暮れるまで川辺で遊んだ。遊び疲れ、川から上がろうとしたとき、何かに躓いて転んだ。何かと思い、拾い上げると緑色の綺麗な石だった。それを見ていた女の子のトットちゃんはそれを欲しがり、興味のなかった僕はそれをあげた。その日はそれで解散したが、次の日から色んな所で会うようになり、次第に3人とつるむようになった。3人を秘密基地に連れて行ったり、虫を一緒に捕まえたりして朝から夕暮れまで遊び呆けた。
それからすぐに母様に異変が起きた。夜中にお手伝いさんが外に飛び出していったり、父様が夜中に湯を沸かし始めたり、大人たちが忙しなく動き回っていた。カイル兄さんもそわそわしていたが、僕は眠気に勝てずに寝てしまった。
朝、太陽の光の中で気持ちよく覚醒すると父様も兄さんもお手伝いさんも起きていた。皆眠そうな目を擦っていたが母様だけが寝ていた。
「母様はどうしたの?」
そこでおかちゃんが産まれたことを知った。本当に小さくてちょっと猿みたいだけど可愛いやつだった。びっくりしたのは赤ちゃんには◯んちんが無かった。女の子らしかった。それから、妹はまだ家から出られないらしく豆糞含め、4人で家で遊ぶことがおおくなった。けれどいつまでも家の中では飽きると豆糞が言い出し、数日に一度、外で遊ぶ日を作った。
その日は外の日だった。今日はいつもより遠出をしていた。集落の木の塀近くまで来て、虫を捕まえようとしていた。
今日は豆糞は食べ物をお父さんに届けるために山まで行ってるから後で合流するらしい。しょうがないので豆糞を抜いた3人で遊んでいた。やがて虫採りに飽きると近くに落ちている木の枝を持って昔話の英雄ごっこを始めていた。
「俺は四兵神槍のアスタロント。いざ尋常に」
「あーいっつもアスタロントじゃん。ずりーい」
和気あいあいとじゃれ合っている中、集落の外の道から一つの人影が現れた。やがて近づいてくる人影を見ると見たことのない人物であった。小さい集落で外から来る人も決まっているのに知らない人だった。
「お兄さん見ない顔だね。どこから来たの?」
ファーくんがその人に向かって走っていき、問いかけた。そのおじさんは子供の目線に合うようにしゃがむとしばらく問答をしていた。
僕は知らない人だったため、トットちゃんの後ろに隠れていたが、やがてファーくんが頭を傾げたり、頭を横に振り、どうにもこうにもいかない雰囲気があった。そこでおじさんはこちらに視線を向けて問いかけてきた。
「おーい。そこの坊やか嬢ちゃん。ここら辺の土地の責任者の家知ってるかな?」
「あー。それなら知ってるよ。ピルトくんの家だもん。」
トットちゃんがこちらを指さしていた。
しまったー。隠し通すつもりだったのに。そう思ったが指を押されてはもう遅いだろう。
「そうだけど。おじさん何?」
「ごめんね。ここに行商人のベンさんって人が居ると思うんだけど、その人がね国に帰るって言ってるんだ。だからおじさんがその代わりになれるように見に来たんだよ。でもお父さん、お母さんにはまだ内緒だよ。君たちもね。おじさんが来たって知ったら怒られるかもしれないから……」
みんなは知っている名前が出たからか安心しきっておじさんへの警戒心を失った。
「ここの村には宿屋があるのかな?出来れば家の数も教えてほしいんだけど……」
おじさんはやたら村の家の数とか家畜の数とかを知りたがっていたけど必要なことだと思い、全部話した。やがて夕暮れになるとおじさんは今日のうちに戻りたいからと帰っていった。
「おじさん……父様に用事があったんじゃ……」
そう思いながらも戻りたいと言っていたおじさんを今更呼び止めるのは可哀想だと思い、その背中を見送った。
その日の夕食、眼の前に出されたのはライ麦の粥だ。最後に肉を食べたのはいつだっただけ。もう思い出したくなかったため、気分を変えようと思い今日の出来事を話した。
「今日ね。村の人以外の人を見たよ。」
軽い話のつもりだった。話を聞いた父様は口を大きく開け、驚いたような表情してから
「そ……それは……茶色の髪色に茶色の眼の色だったか?立派な顎髭があったか?どっちの方向から来たのだ?」
こんなに話す父様を見たことがなかったため、気圧され固まってしまった。
「黙ってないで応えろっ‼‼」
あまりの迫力に家族全員が沈黙をした後に母様が間を取り持ってくれた。
「ちょ……ちょっと怒鳴らなくてもいいじゃないですか……どなたなんですか。」
「………そ……そうだよ……。父様の知ってる人じゃないんですか?今度、バンおじさんに変わってこの村の行商をすることになったって言ってたよ。ま……まだ決まったわけじゃないから内緒って言われたけど……いつもおじさんが向かっていく方向から来て、宿場がないから帰るって言ってたけど。」
「そんな……こと私は聞いていないのだけど……」
母様は首を傾げ、父様をそれを聞くと思い切り机を叩いた。
「全員、今すぐ大事なモノを纏めろ。家の馬で運べるぐらいに……」
ドンドン
その時、家の扉が強く叩かれた。
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