第1話 始まり

 食っちゃ寝の生活を過し、2年の月日が経った。体は成長し、拙いながらもようやく言葉を単語で発せられるようになった。それからは色んなモノを指さして


「あぁあ。あぁあ。おれなぁに?」


 と言いながら家の中のものを聞き回っていた。その日も何回目になるか分からないが机の足を指さしてはいつもの台詞を言い放った。


「あぁあ。あぁあ。おれなぁに?」 


 そう言いながら母様を見上げながらよちよちと歩みを進めた。


「それはね……」


 母様が応えようと僕に顔を向けたときしたとき、大声で叫んだ。


「危ないッ‼」


 あまりの大声にびっくりしてそちらを向いたが足の動きが止まらず僕は机の足の角に頭をぶつけた。


「大丈夫‼‼‼⁇⁇⁇」


 そう言いながら母様は駆け寄って来て、執拗に頭を撫でた。


「い゙たぁ゙あ゙い゙よ゙お゙お゙お゙」


「ちょっと待っててね。」


 母様はそう言うと目を瞑って何かを祈るように両手を組み、それを額に近づけた。


「あぁ大地の母神セナフ様、その力の一端を矮小な我らにお貸しください。」


 そう言い放ったあと母様は力を込めると数分後、手の間から緑の暖かい光が放たれ、その光を患部に当てた。そうすると今まで頭の内部から響くような鈍痛が段々と引いていった。


「あぁあ。いあのなぁに?」


 息を切らしながら母様は


「今のは魔法っていうの。ピルトももうちょっと大きくなったら一緒に学ぼっか。」


「なあああんんでええええなんでなんでなんで」


 そう何回も叫びながら母様を困らせていたとき、兄様がやってきて


「あまり母様を困らせるなっ」


 突然、僕の頭を殴った。


「いーたぁああいー。いーたぁああいーよー。」


「かーさまーさっきのもっかいやってもっかい。もっかいやって」


「いい加減にしろっ」


 再び頭を殴った兄様に母様は説教を始めた。


「もーやめなさいカイル。うんぬんかんぬん~」


 2度も殴られことで大泣きし始める僕、説教を不服そうな顔で聞く兄様、その顔を見てさらに起こっている母様、毎日が忙しくそして騒がしく生活をしていた。



 3年後、5歳になったことでようやくまわりのことが分かってきた。僕の名前はピルト・プレヴェール。ダキア王国南部の地方領主エディット・バールが治める土地のプレヴェール地区を管理するイレアス・プレヴェールの三男坊らしい。とは言っても兄は生まれて間もなく無くなったらしく実質的には次男である。母はいつも骨を入れた壺に手を組んでお祈りをしていた。昔、その壺を指して何か聞いたとき、難しい顔をしながら


「ここの中にはね。あなたのお兄さんが居るの」


 そこで自分には亡くなった兄が居ることを知った。その時は、こんな小さな壺に入れる兄様が居るなんてすごいと舞い上がってどこに居るのと連呼してよく兄様に殴られていた。とは言ってもそこに居るって言ってるのに居ないし、小さくなってるわけでもないんだからよくわからないよね。死ぬってどういう感じだろう。まあ話を進めることにするよ。


 ある日、バンおじさんが家を尋ねてきた。バンおじさんは遥か南、母様の出身国にお店を構えている商家だ。偶に家を尋ねてきては甘いお菓子をくれるいいおじさんだ。


「おぉピルトか。大きくなったな。お父さんはどこだ?」


「知らなーい。おじさん。お菓子ちょー」


 何を話そうか察したカイル兄様は言葉を遮った。


「父様は開拓畑で使ってる犂が大岩に当たって動かなくなったとかで人手を集めて向かってます。夕暮れ前には戻ると思いますよ。」


「そうか。カイルはしっかりしてるな。この家も安泰だ。しかしそうか……今日中にバール様の直轄領に着きたかったけど……帰って来るまで中で待たせてもらうよ。」


 そう言い終わると手に抱えた大きな木箱を家に運び込んだ。バンおじさんは不思議なものをいっぱい持っている。しかも博識だ。そして父様とよく難しい話をしている。


 昔、毎回持ってくる木箱の中身が気になり開けようとしたとき、いつも穏やかなおじさんが声を荒げたことがあった。それからは中身が気になるがすぐにおじさんがくれるお菓子とおじさんの話で好奇心を紛らわすことにした。


 おじさんはよく空いた時間にカイル兄さんと僕にこの国以外のことを教えてくれた。


「いいか二人ともこの世界は広いぞ。犬を食う民族から雑草だけを食って、肉を食わない民族、耳たぶがでっかい民族。色んな人が居るんだ。俺はまだこの大陸の東側にはまだ~」


 よく地図を広げては知らない世界を教えてくれるおじさんが大好きだ。お菓子もくれるし。


「僕いーぱい勉強したよ。北にヘビツァ王国とミレヤ王国、東にクラウディア民衆国、南はカギヤ王国とルグラシア王国があるんでしょ。」


「よく勉強してて偉いなぁ。でもなヘビツァ王国はな王国じゃなくて公国になっt」


 話をしている途中で父様が帰ってきた。父様はおじさんの馬車で着ていたことを知っていたのだろう。


「本日お越しになるとは思いませんでした。あちらの部屋で確認します。どうぞ」


 おじさんは「ごめんなまた後でな」と言い残して父様と別の部屋に消えていった。付いていこうかと椅子から立ち上がろうとしたときにカイルが首根っこを掴み、庭先まで引っ張った。


「お前は僕と魔法の練習だ。」


少し抵抗しようと体の力を抜いてみた。その態度に少し怒ったのだろう。


「お前なぁ。魔法苦手なんだろうちゃんと練習してるのか?」


またカイルの嫌味が始まった。魔法の練習をしろだの、文字を覚えろだの、剣の稽古をサボるなだのなんやかんやと嫌いだからこんなこと言うのだ。


 魔法の練習?だって難しいんだもん。魔力は体から離れれば離れるほどすぐに扱えなくなる。だから兄さんみたいに魔力を鳥みたいな速さで1m先の的に当てるなんて無理だし、剣術だって剣を体の一部として捉えて魔力を剣に流して剣と身体を強化することも無理。魔力っていう考え方が分かりづらいもん。


 カイル兄さんは周りの子たちと比べても魔力の扱いが下手なんだから練習しろっていうけどなぁ。魔力を扱う練習は眼を瞑り、精神を統一し、意識を身体の内部向けると次第に体の中の魔力の流れが見えるようになるらしい。


 そんな練習してられるかと不貞腐れて家の近くの森に入っていった。森とはいっても木が数本群がっているだけの林だ。ここは僕の秘密基地だ。よく虫を捕えては千切って投げを繰り返していた。いつものように森を散策していると木の上にいつの間にか鳥の巣があることに気付いた。


 今日は鳥をおもちゃにしようと木を登り始めた。上まで辿り着いたとき、その巣の中に卵が6つあったが、4つは白い卵だったが、黒い斑点の入った卵が2つ入っていた。どうして色の違う卵があるのだろうと手を伸ばした。そのとき、足を滑らせて腰から地面に着地した。


「いっっっっっっっでええええええええええ」


 体の中の鈍痛が広がっていく。やがて息がしづらくなった。落ち着くために眼を瞑り、痛みのある腰に意識を向けた。体にジンジンと痛みが腰から広がっていく。痛いな痛いなと感じていたとき、体の中を赤い光が走っていることに気付いた。


「こっ……れがま……りょ……く……」


 嬉しさを動きで表現したかったが、あまり体が動かない。しかし、腕は上がった。


 今なら、今なら魔力弾を出せるかもしれない。そう思い赤い光を指に集め、放った。20センチ程飛んでいき、霧散した。


 「出来た出来た出来た出来た出来た出来た。」


これで文句は言わせないぞと思い、調子に乗って限界まで打ち続けると意識を失った。眼を醒ますとカイル兄さんが嫌味を言ってきた。


「お前その探検辞めろよな。探すの大変だったんだからな~」


 あーまた始まったと思い、母様に助けを求めようとすると母様も真面目な顔をして兄さんと同じような説教を始めた。


 これからは少し自重しようと決意した。


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