旅路の果てに

@wakuwakuwakoku

プロローグ

 俺はごく普通の地方に住む大学生であった。普通に友達が居て、家の近くのコンビニでバイトをしていて、彼女は居ないけど……人様に漫画やアニメのような特別に語れるような出来事もない平凡が繰り返されるだけの毎日を送っていた。何かに熱中することもなく、何かを目指していることもない。このまま適当に受験して入った大学を適当に卒業して、地元で適当に就活して、そして適当に結婚して死んでいく。そう考えていた。 


「ただいまぁ〜」


  今日は朝に一コマだけあるだけで他は休みだった。


 「ほっっっっっんとにメンドクセー。なんで朝に大学行かにゃならんのだ。」 


 そう愚痴をこぼしながらその日も自分の部屋に戻り、◯intendo◯witchを起動した。


「今日こそはデ◯デ大王でvip入り頑張るかぁ〜。」


 また変わりのない毎日を送ろうとしたとき、異変が起こった。


 カタカタ カタカタ


 部屋の中のモノが揺れていた。


「おぉ。地震じゃん。」


 最初は余裕を持っていたが、窓が音を立てて部屋全体が軋み始めた。


「あっ。これはヤヴァいかも。でも◯マブラ辞められないんだけど」


 最初は余裕を持っていたが2〜3分揺れ続け、まずはどうすればいいのか迷っていた。まずはドアを開けるのか?ブレーカーか?まずは避難か?そう思っていたとき、地震は治まった。


「揺れたなぁ……とりあえずっ」


 自分の状況をsnsで呟こうとスマホを取り出し、文字を打ち始めたとき、さらに大きな自身が家を襲った。


 「おっほ。ムリムリムリ。これヤベェんじゃね。」


 あまりの揺れに恐怖を隠しながらさっき避難していればと思っていたとき、天井が迫ってきた。


 そうだ俺の家は古かったな……でもさ……なんで今日に限って……家に居るときに限って…


 


「あぁ……木造は……だめだn……


 俺は……死ぬ……のか」


 あぁ。こんなにも自分の生きている世界は不安定さの上に成り立っていたのか。それと同時にあれがしたかった。これがしたかった。色んな後悔が巡った。


「なんだ…お前…こんな状況でも生きたいし、悔いが残っているんだな…らしくない…」


自分にそう言いながらそっと眼を閉じた。やがて、体中を巡った痛みと窮屈さは消え去っていった。


 












 次に目覚めたのは…いや気を取り戻したとき、眼の前に広がる世界は「黒」そのものだった。不思議だったのは黒一色であったことだ。黒も色の一種だけあって眼を閉じて見える目蓋の裏側はよくよく見ると全くの均一な黒色じゃない。目を瞑っていても瞼を上から押すと白なのか緑なのか色んな色、まるでテレビの砂嵐のような…と例えが多すぎるからここでやめるが目の前に広がっている世界は黒そのものだった。


 そんな世界の中で何をするでもなく過ごしていると次第に今眼を開けているのか、閉じているのか体を自分の意思で動かせているか分からなくなっていった。


「怖い…怖い…このまま消えるのかな……」


 答えが返ってこないことを分かりながらも独り言が辞められなかった。辞めたら声の出し方も忘れると思ったからだ。


 時間が経ち、体の感覚はなくなった。もう既に自分の身体がどんな形をしていたか忘れていた。ここに来てから1日しか経ってないのか1年なのかもう既に100年過ごしているのか分からなくなった。感情も自我も殆どを失っていた。しかし、どこまでも鈍くなってしまった俺が最後まで手放すことができなかった感情が1つだけあった。


 それは「恐怖」だった。殆ど人でなくなったであろう俺が抱えていた恐怖は人ではなくなることに対するものだったのかそれとも死という現実を前にしての逃避だったのか、知性を失うことに対するものだったのもう分からない。分からないが、忘れたくなくて今でも記憶の片隅にある歌をもはや声とも言えぬ嗚咽で唄い続けた。


「らん〜ら〜ら〜らんらんらんら〜」


 やがて、体の感覚が全てなくなったときに、全身が光り輝いた青白い球体になっていることに気付いた。それと同時に黒の世界の一方向から呼ばれているような気がした。




「い…k。なkうちあ」


 


 行かなくてはそう強く感じた。呼ばれているような気がしたのだ。それから歌うのをやめ、懸命にその方向に向かった。もはや進んでいるのか止まっているのかそれすら分からないぐらいに時間が経ち、ある方向が薄く光に覆われていることに気付いた。自分の行動間違いではなかったと喜び、夢中で光に向かった。そこで「それ」があることに気付いた。「それ」は自身と同じように青白く発光した球体であった。しかし、自分とは比べものにならない程に大きなものだった。「それ」があまりにも強い光量を放っていたために気付くのに時間がかかったが、その球体の周りには自身と同じ程度の大きさの球体がたくさんあることに気付いた。


 そしてその回りをおそらく俺と同じような大きなの球体が行き交っていた。しかし、それらの球体は自身よりもか細く、今にも消えてしまいそうなものが多かった。


 関係ないなと思い、再び進み始めた。その球体に近づくと次第に温かい……ような気がした。感覚なんてとうの昔に無くなったと思っていなかったが、何という感情が分からない情動が内から湧き上がった。ほとんどの感情を失ったせいかその情動は長続きせず、また大きな球体へと向かい始めた。やがてその大きな球体に接触した時、今までに感じたことのない多幸感に襲われた。


 もっと、もっと味わいたいそう思い、さらに進んだ。一歩、一歩ごとに強い多幸感が襲い、なにもかもがどうでもよくなり、考えることを辞めた。ある時、多幸感が飽和した。そして周りを確認すると不思議なことに砂漠や森林、石造りの町並みなどの様々な景色が点在していた。


 知っている……気がする……。


 


 そう思い、様々な景色を巡っていたとき、今まで温かいと感じていた球体の熱が急に勢いを強めた。


 あまりの熱さに眼の前の光が熱に変わっていくのを感じた。だんだんと、だんだんと周りの光は熱に変わり、再びあの黒の世界が訪れた。熱さと恐ろしさでいっぱいになり、当に失ったであろう声帯から絞るように声を挙げた。




 つもりだった。


 


「おぎゃあぁ。おぎゃあぁ」


 以外にも実際に音は出た。蝋燭の揺らめきが照らす木造の部屋にまるで赤子のような声色と共に鳴り響いた。


「aいfbqkそxはbをんをsんqnfqa」


「xjdんくぉあqbx」


 周囲の音の暴力が怖くて、周りの光が怖くて、肌に当たる風は怖くてhたすらに泣いた。やがて声を挙げた疲労からか眠気により瞼を閉じた。目を閉じてもあの黒色一色ではない世界に安心した。

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