天界の国リヴェーウェル

小鳥遊 マロ

第1話 災厄、歩み始める 

 ──“天界てんかい


 それは、天使や神々の住まう、人間の住んでいる「地上」の遥か上に存在しているとされる長寿の世界。理想郷、楽園エデンとも云われている。

【十界】の中の一つで、天は“六道”と呼ばれて、昼夜(1日)は人間が住む地上の世界では400年であり、寿命は4000年になるとも云われ、人間界の時間よりだいぶゆったりした時間が流れている。

 その欲界、俗に言う天界の昼は、最高神……つまるところ、神界の穴から光が放出される期間のことで、夜は逆に、光が天に吸い込まれ、神界に戻る期間である。

 だが、それは天界で生まれた与太話が彼ら下界に住む人間に伝わり、少し誇張されたものである。

 実際に天使や神に寿命など存在せず、あるのは神が絶対的なルールであるということだけ。

 そのため、寿命がない私たちは生まれたその瞬間から未来永劫、お神のために動き続けなければならないのです。

 正直言ってつまらないものです。

 下界で言う身分のように天界では存在を決められ、自分自身に永久に付き纏い、その階級に応じて動き続ける。

 自分ではどうしようも出来ないのだ。決めれるのは天界でお神ただ一人。

 

 また天界には、私たち天使や神様の他にも、管理者、創造主などが存在しています。

 そして、それぞれが人間と同じように、それぞれの仕事・役割を果たすため、天界で動いています。

 管理者や創造主は、天界内においてお神以外がその言葉を口にすることは禁忌とされている。

 それは管理者と創造主が天界において、お神と同等に神聖で尊く、気高い存在であるからだ。

 お神より下の存在がもし、その言葉を口にするような事があれば容赦無く──存在もろとも消滅させられるであろう。


 さらに、天界は大きく三つに分かれ、欲天・色天・無色天のフロアに分けられる。


 今、私たち天使がいるのは、欲天内にある兜率天の内院と呼ばれるところ。

「それでは皆さん、本日も有意義な時間を過ごしましょう」

「「「は〜いっ!」」」

 ここでは能天使の階級にいる方々から天界について、様々なことを学ぶ。

「六欲天は【四王天しおうてん】、【忉利天とうりてん】、【夜魔天やまてん】、【兜率天とそつてん】、【化楽天けらくてん】、【他化自在天たけじざいてん】の六つに分けられます。私たちがいるのは、この兜率天と言われる場所で──」

 今日も今日とて、つまらない授業。

 周りの天使みんなは必死に彼女たちの話を聞いている。

 本来駆け出しである天使は、お神様を手伝う一人前の天使になるため、日々努力と研鑽をつまないと行けない。

「222番ちゃん、今日もたくさん遊ぼうね!」

「うん、0番ちゃん!」

 でも、私と彼女0番ちゃんはみんなとは違う。

 この色がない白色の変わらぬ秩序てんかい混沌いろを求める!


 これが天界暦104年、初めの出来事である。




 ──地下8F階層 阿鼻地獄(無間むげん地獄)


「か〜み〜は見〜ている〜♪ 吾々の〜全てを〜♫」


 “地獄”──それは地下のフロアごとにそれぞれ「小地獄」という小さい地獄がそれぞれに16個ずつ存在し、……8大地獄一つずつに小地獄が16個設けられている。

 16×8で128、それに8大地獄そのものを足すと全部で136個もの地獄が存在する。

 下へ行けば行くほど、罪の重い者がそのフロアに隔離され、冥界の王である閻魔王による厳重な警備が敷かれている。

 その地獄の最下層である阿鼻地獄から聴こえてくる歌声は、天界でかつて“神の片腕エンジェルランス”と云われたサングラスをかける筋骨隆隆な巨漢から発せられていた。

「お神に忠義を〜永遠なる忠誠〜♪」

 手足は【熾天使してんし・縛】という地獄最上級の鎖で縛られ、だだっ広く薄暗い牢屋で血まみれで横たわっていた。

「スゥ~〜っ、はぁ~〜っ。スゥ~〜はぁ~〜。俺はこの歌が嫌いだった。あの日からずっと──」

 漢は体を大の字に広げ、胸が張り裂けんばかりの熱い空気を吸う。 

「……獄卒か」

 投獄されて2170年。漢は遠くから歩いてくる足音に耳を傾け、ポツリとそうつまらなそうに呟いた。

「ん? 獄卒……?」

 今度は牢屋へ近付いて来ている獄卒に驚くと同時に疑問を抱いた。

「──妙だな」

 ここで漢は微かに違和感を覚えた。

 漢を監禁する牢屋は、閻魔王とその信頼する部下以外の立ち入りを禁止されているのだ。

 何にも関わらず、なぜ下級役人である獄卒がこちらに向かって来ている? 

 そして、足音は牢屋の前へ到達する。

「──起きろ……時間だ」

 獄卒は無表情にそれだけ言うと、牢屋の鍵を開けて漢に繋がれた鎖を外し、手錠をかけた。そして漢に出るよう促した。

「久々にシャバの空気を吸えるとは……1000年前に比べて、最近は中々に気が利くようになったもんだな〜」

 漢はそう言い、牢屋の外へと足を踏み出すのだった。


 


 

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