第9章「ベッド作戦失敗」

私は息を潜め布団の中からじっと男を見ながら、いつでもスイッチを押せるようナースコールを握りしめています。


男は私が寝ていたベッドにゆっくりと宙を浮きながら移動しています。


そしてベッドを上から覗き込み誰もいないのを確認すると、急に男が振り返りました。


しまった!と、思った瞬間目が合ってしまい、私は慌てて布団を頭からかぶりナースコールのスイッチを何度も何度もカチカチと押しました。


「清めの塩とお札がある、大丈夫だ」と自分に言い聞かせながら、「なまんだぶ、ほうれんげっきょう、はんにゃはーら……」と、知っているお経を唱え続けました。


どれだけの時間が経ったのか私が恐る恐る布団をめくると……


私の顔を横から覗き込むロイド眼鏡の男が目の前にいました。


「ぎょえ!」


悲鳴にならない言葉が私の口から出てきました。


男が大声で叫びます。


「お前は誰だ!そこをどけ!!」



そして……



目を開けるとそこに婦長がいました。私は気を失っていたそうです。


ベッド作戦も失敗に終わりました。


次の日私は母に電話をしてこのことを伝え、何かあったら取り返しがつかないので長男を病院に連れてこないよう伝えました。


他の個室も、相部屋にも移れず、転院もできない。


もう打つ手はない。万事休すだ……


そんな時に限ってとんでもないことを思いつくものです。


それは……




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