第5章「アレの顔が目の前に……」

やがてその指が私の顔をなぞります。

それから逃れようと私は身体を左右に揺すりました。


その時突然腹に異様な重さを感じました。


男が私の身体に乗ったのです。ベッドがギシギシと音を立てて軋み、私は男の重みで吐きそうになりました。


男は手で私の両肩を抑えると、見下ろしながらとゆっくりと顔を近づけてきました。


私と男の顔の隙間はわずか数センチしかありません。


男の煙草と口臭が入り混じった臭い息が私の顔にかかります。


それから逃れようと顔を必死に背けました。


すると男が私に向かって静かに言いました。


「お前は誰だ?」


私は意味がわからず懸命に右へ左へと顔を背けました。


すると男が叫びました。


「オ・マ・エはダレだ!!」


私は左手で落ちたナースコールを拾い上げようと、再びベッドの下に手を伸ばしました。


配線がベッドの脚に引っ掛かり取れません。


その時、再び男が叫びました。


「そこをどけ!!」


凄まじい怒声が病室に響き渡りました。


そして私の首に男の両手が……明らかに男は私の首を絞め、殺そうとしています。


私は看護婦を呼ぼうと大声を出しました。


しかし喉を絞められ全く出ません。


もう終わりだ、と思ったその時ナースコールのスイッチに手が届きました。


私は何度も何度もスイッチを押し続けました……





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