第4章「足のない男」

その日は面会がなかったので一日中暇でした。


同じ新聞と同じ雑誌を何回も読み、何も変わらない空を窓からをぼーっと眺めていました。個室なので他の患者と知り合うこともなく、何より歩くことさえままならないのでトイレ以外は何もできず、ただ食べて寝るというだけの一日でした。


夕食を一人で食べテレビを見て時間をつぶし消灯の時間になりました。


今日こそは煙草を吸う奴に注意するぞ、と起きていましたが、睡魔には勝てずいつの間にか寝ていました。


そして深夜……


また煙草の匂いで目が覚めました。


ロッカーを見ると暗闇の中で煙草の火が再び明滅しています。


「誰だお前は!ふざけるな、ここで煙草を吸うな!!」


自分でも驚くような声で注意すると、煙草を吸う何者かがゆっくりと近づいてきます。


窓のカーテンの隙間から街灯の光が漏れて、男の顔がはっきりと見えました。


同じ病院の浴衣を着た六十代の男です。

ロイド眼鏡をかけカンカン帽を被っている非常識な男は、この病院の入院患者でした。


私は「あっ!」と声を上げました。


男には両足がありません。


宙をふわふわと浮きながらゆっくりと私に近づいて来ました。


あきらかに男はこの世の者ではありません。


私は手元にあるナースコールを探しました。

しかし気が動転しナースコールをベッドの下に落としてしまいました。何度も手を下に伸ばしましたが、体の痛みとギブスが邪魔をし届きません。


恐怖で全身に鳥肌が立ち寒気が襲います。


男は私の足元に来ると手にしていた煙草を床に捨て、布団の上を左手の人差し指でゆっくりなぞり始めます。


男は何がしたいのか?


私の身体は金縛りにあい目を逸らすこともできません。


そして徐々にその指が腹の上、胸へと移動し……













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