第2章「煙草の匂い」

夜十時になると若い看護婦が部屋の電灯を消しに来ました。


ベッドの枕元に読書用の蛍光灯スタンドがありますが、手が届かないため消してもらいテレビを見ることにしました。


「何かあったらナースコールのボタンを押してくださいね。すぐに駆け付けます」


目が疲れたのでテレビのスイッチを押して消すと、いつの間にか寝てしまったようです。


しばらくすると何かが鼻を突き目が覚めました。


煙草の匂いです。


吸わない者にとってこれほど不快なことはありません。しかもここは病院です。


私はすぐにナースコールで看護婦を呼びました。


「煙草の匂いで目が覚めました。非常識な奴がいるもんですね。すぐに探して注意してください」


少しきつめの言葉でクレームを入れました。しかし看護婦から帰ってきた言葉は意外なものでした。


「窓も閉まっています。煙草の匂いなんか全然しませんよ。大部屋は別棟でこの階に患者さんはいませんし、廊下には誰もいません」


私は「いやそんなことはない。煙草の匂いがしますよ」と、ベッドの上で深呼吸をしました。


看護婦の言う通り煙草の匂いはありません。


「あれっ、おかしいなあ。さっきは間違いなく匂いがしたんです」


看護婦は、「気のせいです。もう二時ですよ。早く寝てください」と言って、電灯を消し部屋から出ていきました。


アレが出たのは次の日の深夜です。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る