第50話 変異
〇シェーンブルン子爵領 交易街 中央広場
俺の精霊術でシェーンブルン子爵の姉弟達を圧倒し、駆逐したにも関わらず周囲を警戒を緩めない俺をミホークが疑問に感じ声をかける
「ロン様?」
俺は広場の奥に散乱する騎士とバウディ達の死体に向かって話かける
「なぁ・・・いい加減出てきたらどうだ?」
俺の呼びかけに答えるかの様に口元だけになったバウディの肉片が空中に浮かび上がる
「ほう・・我が神眼の気配を感じるか・・・先ほど見せた独自の精霊術と言い当代の精霊王はなかなか手強そうだ」
口元だけになり滑稽な動きでパクパクとバウディの口を動かしながら紡がれる言葉は・・・・
「趣味が悪いなゼレニス、特等席で観戦か?女神様が聞いて呆れるぜ」
「何度も言わすな、たかだか駒の一つや二つが潰れたからと言って何故、我が手を下さねばならぬ?」
「まぁそうだよなぁ~お前はそういう奴だ、知ってるぜ?あの日俺の顕現式の際も俺が世界に仇成すとか言う御託を並べていたが、あれもお前の思いつきだろ?」
「・・・・ほう・・・何故そう思う?ユリシーズの入れ知恵か?」
「まさかな・・・これは俺の想像だ、お前はこの世界の有り方に疑問を持ちながら育った俺の事を良く思わなかった」
「顕現式とは、その対象者に潜在する血統因子を辿りお前の植え込んだ種子を目覚めさせる事で発芽する力を魔法という力で推し量る物なのだろ?」
「・・・・そこまで知っているのか・・いやはや我も素直に賞賛を贈ろう・・・では貴様は気付いているのだな?」
「ああ、ゼス・・俺の親友だった平民の男の子に魔法が顕現したのは発芽する直前に貴様が俺から強引に種子を抜き取り奴に植え付けた・・・そう言う事だろ?」
空中に浮いてるバウディの口元の肉片はケタケタと笑い出した
「アハハハハ、正に!我は気まぐれで貴様の種子をその場で唯一種子を宿してなかった家畜に植え替えたのだ、家畜は我の呼びかけに歓喜し喜んで貴様を切り捨てる事を誓ったぞ」
「まぁそうだろうな・・・ククク貴様の気まぐれだったかも知れないが、予想外だったな・・・俺は顕現式に臨む直前いやもっと前からか?貴様の懸念してた精霊王として見出されていたって事だ」
「・・・まぁその事は我の力を以ってしても見抜けなかったのは認めよう、我より雷光を授かりし我が使徒には、より苦しみを与えこの世界に・・いや我に慈悲を請いながら縊り殺す様に神託を命じたのだがな・・・」
「ククク残念だったなぁ、まさか女との情事の最中に俺が世界樹に召集されるとはな、ククク馬鹿を通り越して呆れるぜ」
「それは同意だ、所詮は下等な種の生まれ分不相応な力に溺れ、権力と快楽に目が眩んだ愚かな小者よ」
「・・・・・(果たして本当にそうかな?コイツは全能なんかじゃない、自分の価値観でしか行動しない)」
「で?全能の女神様であらせられるゼレニス様は、その様な些末な話を私めにお聞かせされる為に態々降臨されたので?」
「フフフ、言うでは無いか・・その様な下らぬ理由では無いわ、いやなに精霊王が直々にこの地に出現したのに出迎えの準備が出来てない事に心を痛めておる」
「ほう、では菲才の身に歓待のご用意を?」
「うむ、是非我が余興を堪能してくれ・・・・この駒にするか・・・」
すると先ほど溶解により黒焦げになったはずのアルシアの身体がガクガクと震えだし体の中心から黒い球体に吸い込まれる
「何をしてる?」
俺の呼びかけには答えないが、黒い球体はアルシアの身体を全て飲み込むと豆粒位の大きさになり地面に落ちた
すると豆からは根が生えだしカミルの死体とアリシアの身体だった氷の破片に纏わりつきドクドクと脈打ちだした
すると茎がのびて先端の蕾が大きくなり真っ黒で大きな花を咲かせ直ぐに枯れる・・抜け落ちた胚の部分は大きくなり重さに耐えきれず床に垂れ落ちる
「何だこれは・・・気色の悪い・・・ゼレニスこれが貴様の言う歓待か?」
「フフフまぁ慌てるな精霊王よ、今こ奴の発芽した種子の根を血統因子から切り離した・・・切り離された根は新たな養分を探して・・・・」
「近くの餌を養分に成長する」
「その通りだそして血統因子により抑えられていた成長は限界を超え・・・」
ゼレニスの言葉を待たずに黒い大きな実となった部分んい亀裂が入る
「主様!!何か出てきます」
「ロン様!!」
素早く二人が俺の前に壁になる
俺はその状況から目を離せない・・・・すると割れた実からは浅黒い地肌に蛇の様な鱗、氷の様に透き通る腕と炎を纏った腕、そして爬虫類を思わせる尻尾を持つ女と思われる異形の者が姿を現す
「キヒヒヒ・・・気持ち良い気持ち良い・・キヒヒヒ」
不気味な笑みを見せる異形の者の顔はアルシアと酷似していたがその顔には6個の目が付いており口元は後頭部まで裂けていた
「主様・・・これは・・・・」
「ヤバいよロン様」
「ゼレニス!これは何だ!!」
「フフフ、これこそ我が下僕に与えし力の神髄、魔法種子が人を取り込み自我を目覚めさした・・・そう名を付けるなら【魔人】(まじん)魔人アルカミルとでも名付けよう」
「魔人アルカミル・・・・」
「キヒヒヒ・・・気持ち良いけど痒い痒い身体が痒いぃぃぃぃ・・キヒィィィ」
魔人はその氷の腕と炎の腕で体をボリボリと掻きむしる
掻きむしると浅黒い身体を覆う鱗が剝げ落ち、地面に落下すると・・・
ジュゥゥゥ
地面が煙を上げ溶け出す
「厄介な・・・酸か・・・お前等あの鱗に触るなよ、身体が溶けるぞ」
「キヒヒヒお前等旨そう・・・腹が減る食わせろ・・・食わせろぉぉぉぉ」
グロテスクな見た目の通りで頭の方は空っぽの様だ、突進してくる魔人を散会して避ける
【森槍】(しんそう)
【鎌鼬】(かまいたち)
ミホークの森槍は見事に魔人を貫く、しかし魔人はその動きを止める事無く貫かれたまま藻掻きだす、身体から出る体液でミホークの森槍は煙を上げ溶け出した
しかし身動きを封じられてる魔人にダキの鎌鼬の刃が襲い掛かる
キィン!!
空気の刃は魔人の身体を切り刻む・・しかし流石丈夫で肉や骨まで刃が届かず皮膚を切るのみだ
「ギャアァァア痒いぃぃ痛いぃぃ痒いぃぃぃ」
ダキ達の攻撃が効いてるのか元々の奇声なのか魔人は苦しみだしたが、苦しみながらも両手を俺達に向け
【アイス ブロック】
【ボルケーノ テンペスト】
魔人は二つの呪文を同時に詠唱し撃ち放った・・
世界に否定され全て奪われた元貴族の令息が、悪霊達に身体を差出し悪霊の王となって世界に復讐する nayaminotake @nayaminotake
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