第42話 罠に掛かった獲物


〇シェーンブルン子爵領 交易街 北口付近



「ゼレニスが降臨してる気配だ・・・」


街を抜け子爵の住む屋敷を目指し進もうとしてた所で言い知れない恐怖と怒りそして絶対的な嫌悪感が俺を襲う


「!?それは本当ですか!?」


「ど、どこに!?」


ダキとミホークは周囲に神経と研ぎ澄ます


「あそこだ、この街のゼレニス教の教会支部だ」


俺の指さす方角には女神ゼレニスのシンボルの、丸の中にYの文字が入ってるマークが掲げてあるひと際立派な建物があった


「主様・・・ここは慎重に・・守護聖を全員集合させた方がよろしいのでは?」


「オイラもそう思うだどぉ!ロン様無理しちゃだめだぁ」


精霊達にとっても破界樹との邂逅は緊張するらしく、俺の身体を通してその感情が伝わってくる・・だが


「クククク・・・クソ女神とご対面だぁこの世界に戻ってきてイキなり、ラスボスとの顔見せとは粋なシナリオを用意したもんだ」


俺は恐怖よりも歓喜に震える、どうやって復讐するか、どうやって八つ裂きにするか、どうやって女神を貶めるかそればかりを考える


「降臨はそんな長い時間では無い、急ぐぞ!!」


「「・・御意!」」


多少不安な様子の二人を伴い疾風の如く協会に向かって駆け抜けた


「!?何だ貴様等ぁ此処はお前等の様な汚い豚の来て良いところでは無いぞ!!」


教会の入り口を護衛するシェーンブルン子爵の騎士らしき二人が俺達に向かって槍を構える


『お互いの喉を串刺しにしろ』


「「!?」」


二人は顔を強張らせながらお互いの喉に矛先を合わせると示し合わせた様に同時に強く押し込み喉に槍先を貫通させ首の裏側に鮮血を吹き出しながら抱き合う様に倒れた


【ギィィィ】


俺はゆっくりと両開きの教会のドアを開き本堂へと侵入する、正に顕現の儀のまっさ中であった様だ、祝詞を中断した司祭や神託を受ける為、傅く貴族子息、その奥で怒りを帯びた目で俺達を見つめる中年の貴族の男とその妻らしき女性


そんな一同の様子を無視して、礼拝用の椅子に腰を下し前の椅子に足をのせ、不敵に笑う


「ようっ!なんかお邪魔だったかなぁ?クククク・・・俺も一緒に見物させて貰いに来たぜぇぇ」




●ベニス法国軍 陽動部隊


「准将!失礼します!ただいま諜報員より報告がありました!」


法国軍は女王 ミールス教皇の元、貴族階級の者全員ゼレニス教の聖職者という立場だ、ゼレニス教法王によりベニス法国の王位に座る者は【教皇】の呼び名を代々下賜され、ベニス法国の王はゼレニス教において法王に次ぐナンバー2の立場である


各地の列強の国々もゼレニス教の後押しは欠かせない、特に魔法の顕現においては教会の司祭クラスでないと式を執り行えないというのが通例だ


その為、法王の権力は絶大で例え国王であってもその命令には従わざるを得ないという


法王は世襲では無く、教会の司祭クラスの中からの推薦で選ばれた上位3名の中から女神により選ばれるとされている、その為に司祭達は根回しと言う名の金品の賄賂や性奴隷としての人身売買等が平然とはびこる、おおよそ聖職者とは程遠い下道の集まりなのだ


しかし過去にはベニス法国の教皇からも少数ではあるが選定された事もあり、各国とも法国には積極的に手を出せない


万が一にも教会からの勅命を受け聖戦側となった場合、圧倒的に不利な条件で戦後処理をする事になる


勝っても得る物は無く、負ければ全て失うそれが聖戦を仕掛けられた側の辿る末路だ




准将と呼ばれる将校は法国における中位の貴族だ


「なにか、手短に申せ」


周辺の地図を簡易のテーブルに広げ同僚と作戦を練ってる最中だったのだろう、あまり機嫌は良く無さそうだ


「はっこの先にてエルンスト伯が騎士達を伴い南東に向かって移動中との事、行軍してる騎士の話を探るとグランディ帝国の皇族に関わる重大な機密を寄親でもあるヴォルディク侯爵に届けにいくとの事」


「!?何ぃ帝国の皇族に関わる重大内機密情報だと!?」


「はっ!」


「准将・・・この情報を我らが手に入れれば・・教皇への覚えも良くなるのでは?」


「確かに・・・直ぐに部隊の編制・・・」


「准将、失礼します、ただいまエルンスト伯の騎士軍に侵入していた間者が戻って来て取り急ぎ報告したき事がと」


「うむ・・先ほどの帝国の機密に関わる事か・・・よかろう通せ!!」


直ぐに准将の目の前に傅き報告を始める男


「騎士部隊に侵入した所、エルンスト伯は自分の領地を放棄し隣国のローファット伯爵家に助けを求める様です」


双方の情報が食い違う・・・共に信憑性がある・・・このまま南に先回りし拿捕するか東に向かいローファット伯と合流する前に一気に叩くか・・・・


「・・・准将、如何致しましょう?」


「部隊を二手に分ける・・・幸いエルンスト伯に従ってる騎士は我が軍の10分の1だ、例え反転受けても数的にはこっちが圧倒的に上だそれに、戻って来た部隊と理想的な挟撃体制が取れる・・」


「「成程!!」」


「では部隊全員に伝達!!副隊長、南側び進行予測進路へ先回りしてエルンスト伯から機密情報を奪取せよ」


「はっ!!」


「我等は東に先回りしローファット伯との合流を阻止する、途中の村々を侵略し途中の中継地とせよ!」


ペニス法国軍はエルンスト伯を追いかける為、グランディ帝国内へと進軍を開始した




・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・


「・・・・という状況です」


ゼロスとオルンは斥候からの情報でベニス法国の陽動部隊が2手に分かれた事を確認した、しかも本隊は予想通り東へ向かう部隊だった


「ではオルン殿予定通りに・・・極力戦闘は避け付かず離れずの距離で行軍をお願いします」


「心得た、ゼロス殿こそ武運を祈る!」


オルンは自分の騎士を伴いゆっくりと行軍を開始した


一方その頃のベニス法国軍は・・・・・


「准将!?この村の井戸水に毒が・・・・先ほど補給した河川で汲んだ水にも!!その為、部隊の3分の1の戦力が使い物ならなくなりました!」


「くっ・・自分の領内でここまでするとは・・・奴らの無慈悲さを甘くみていたわ、構わん民家に押し入り食料と水を調達しろ!!」


「はっ!」


結局、ベニス法国軍は襲撃した村を拠点にする事を諦め接収した決して多くは無い食料と水を確保して東へ向かって追撃を開始した


途中の村でも同様に飲料水に毒が仕込んでありさらに部隊に被害をもたらし、准将は引くに引けない状況に追い込まれる


「准将、このままでは部隊が維持できません!遠からず食料不足と喉の渇きに耐え切れなくなり騎士達の士気低下は避けられません、ここは勇気ある撤退を!!」


「馬鹿を言うな!!また一戦も交えぬ内に部隊の3分の1の数を失って、なんの戦果も無くおめおめと本国に戻れるか!!」


「し、しかし・・・・」


「無駄口を聞いてる暇が有るなら、追撃の速度を上げろ!!エルンスト伯の首さえとれば・・・」



法国軍は飲み水の確保を村からの徴収のみで補いつつ、空腹と体調不良を訴える者を抱え行軍の速度を速める・・・そして部隊の先鋒がようやくエルンスト伯の部隊の背後を捉える


「やっと追いついた!!お前達ここで力を示し名を上げろ!!」


「うぉぉぉぉぉ」


既に飢餓状態に近い法国軍は正常な思考力も無く勢いそのままにエルンストの軍に突入する


【トール・ハンマー!】


部隊の先鋒の約30名が天から降り注いだ青白い稲妻に貫かれその場で黒い塊となり崩れ去った


「なっ!?何だぁ??」


「くくくっ・・・ここまで俺の策に踊らされてくれるとはなぁ法国軍は馬鹿の集まりか?」


准将はじめ法国軍が左手丘の上に目を向ける


「きっ・・貴様は・・・」「あの旗・・・ローファット伯爵の物です!!」


「くっ・・・既に合流しておったか・・まんまとおびき出された訳か・・・直ぐに副官へ伝書鳥を送れ!!」


部下が籠から鳥を取り出し足元の筒に丸めた小さなメモを入れると空に放り投げ、鳥は南の方角へ飛び去って行った


「一時後退し部隊を再編する!!」


「はっ!!」


「させる訳ないだろ?」


【トール・ハンマー!!】


背後に控えてる補給部隊に再びゼロスの落雷が直撃する、一気に十数名が同じように黒い炭と化し風に消えて行く


「補給が・・・・くっ貴様ぁぁ」


「俺にばかり気を取られていて良いのか?」


「!?・・・しまった!!」


先ほど迄、追っていたエルンスト伯の部隊が此方に向かって突入してくる


「ゼロス!!此処は手を出すなよぉぉ!【ウオーター・ハーケン!】」


「くっ【アース・シールド!!】」


オルンの水魔法の鎌の刃は准将の作り出した岩の盾で弾かれる


「ほう・・流石部隊を任されるだけある・・・オルンの一撃を防ぐか・・・まぁ手を出すなと言われたんでここは高みの見物としよう」


ゼロスは自分の眼下にて衝突する二つの部隊をニヤニヤしながら丘の上で眺めている


しかし、ゼロスに間引かれたと言え法国軍は1部隊、エルンスト伯のお抱え騎士とは数も練度も違うそれが善戦出来てるのは焦土作戦にて法国軍側が疲弊してるからに他ならない


そのそも水魔法は攻撃に特化しており、土系は防御系が強いオルンと相手の部隊長はお互いの魔法を駆使して有利に戦闘を進めようとしているが明らかに法国軍の部隊長の方が戦闘慣れしてる分的確な対応が出来てる様に見える



「さ~てぇオルンが何処までもつかな?ほれ、頑張れ頑張れぇ~フフフ」





エルンスト伯爵領内東部で始まったベニス法国 陽動部隊との戦闘の火蓋は混沌とした幕開けとなった

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