第38話 女神とゼロスの虚言
〇シェーンブルン子爵領 外園の獣人の森
ダキとミホークは獣人達に俺を歓迎する為の宴を開けと指示する、当然ながら驚く獣人達
「歓待!?獣神様と森神様の主と申されましたか!?」
当然自分達が崇めるべきは種族神であるダキと自分達の守護する森の神たるミホークを置いて他に居ない
「そ、その・・・二神様の主と仰られるのは・・・」
ダキとミホークが俺の左右へ別れ俺の方へ向かって傅き頭を下げる
「俺が二神の主たるオベリスクのロンだ」
俺が普通の人間に見える獣族たちはお互いに顔を見合わせ何やらボソボソと相談を始める
『オベリスク(悪霊の王)って言わなかったか?・・・』『いや・・どう見ても人族だろ・・』
その様子にイライラを隠せないダキは傅いたまま、【バシッ!!!】その九つの尻尾を地面に叩き付ける
「己ら・・妾の大事な主様に無礼な態度・・・死にたいのか?」
ダキの目が獣の目となり獣族達を威嚇すると、直ぐに平伏し謝罪をしだした
「ダキ、構わないさ獣族達にとってはダキこそが至高の神でミホークは自分達の住んでる世界の神、そんな至高の存在に主がいるとか、信じられないのも納得できないのも仕方ない」
「主様ぁ・・・しかし・・・」
「ダキ、ロン様が許すと仰ってるんだから!!」
「はぁ?何やの年上ぶって、守護聖のナンバー2かもだけど主様の前では皆平等よ!!」
「グヌヌヌ」「グルルルル」
俺は二人の頭を両手で撫でると直ぐに二人とも大人しくなる
「主様ぁぁぁ」
「ロン様~♡」
「ダキの言う通り、皆俺にとって大事な存在だから喧嘩をするな」
「「御意!!」」
俺達のやり取りを呆気にとられた様子で見て居た獣族たちは、納得はしてないが俺も一緒に獣族の里へ案内してくれることになった
●帝都グランディ 帝国軍作戦会議室
「ゼロス伯爵本気で仰ってるのですか!?」
「囮とはいえ、帝国領内に引き込んだ後は奇襲に転じ法国の聖騎士共を殲滅せねばならない大事な任務ですぞ?」
「・・・・・・・・・・・」
部下たちのゼロスへの質問攻めを目を閉じ腕を組んだ状態で黙って聞いてるヴォルディク元帥
「任務の重要性も十分に理解しております、その上で我がローファット家の騎士隊でこの任に当たると申し上げてます」
ゼロスは同席する幕僚達を冷たい目で見つめながらそう告げる
バンッ!幕僚の一人が机を叩きながら声を荒げる
「ローファット伯は我等、他の家の騎士は足手まといと!そう申されっるか!!」
ゼロスは無能な馬鹿達を見下しながら
「それ以外の意味に聞こえたなら私の言い方が悪いのでしょうな」
そう不敵に笑ってみせる
「!?調子に乗るなよ!!小僧がァァ」「そうだぁ!成り上がりの青二才が」
「・・・貴公ら・・伯爵家の当主たる私に対する言葉、しかとこの耳に覚えましたぞ」
目の前の痴態を黙って聴いて居たヴォルディク元帥は静かに口を開く
「ゼロス・・・そこまで大口を叩いて・・失敗すれば・・・判ってるな?」
「ご心配には及びません、失敗は有り得ません・・元帥も皆さまも吉報をお待ちください」
そう頭を下げると幕僚室を後にした、ゼロスが出て行ったあとはヴォルディク元帥にゼロスの態度に対する不平不満を口々に申していたが所詮小鳥の囀りだ
(我が力を見せつければ二度とそんな口聞けなくなるだろうよ・・・まず狙うは空位の帝国軍副司令・・・帝国軍大将の地位だ・・・そして謁見の機会を得る)
ゼロスは数ヶ月ぶりに自領であるローファット邸に駐在していた、戦地になるのは隣のエルンスト伯爵領、既にエルンスト伯爵自身からゼロスの作戦に協力すると申し入れがあり、自室で作戦案を練っている所だった、ザビーネは出産に向けバーネット子爵家に里帰りしてる、ゼロスも明日の朝にはエルンスト領へ出陣する予定だ
コンコン
「入れ」
「失礼致します、伯爵様・・ラウンド様がお呼びです」
現れたミリアは頭を下げゼロスをラウンドが自室に呼んでると伝えると、羊皮紙に作戦内容を書き連ねていたゼロスの羽ペンが止まる
「ミリア・・・俺は今大事な仕事中だ・・・見て分からぬか?」
「恐れ入ります・・・ですが・・ラウンド様がどうしてもと・・一大事だと・・」
ゼロスは羽ペンを壁に叩き付けるとミリアを一瞥もせずに不機嫌そうに部屋を出て行った
コンコン
「ゼスか・・・・はいれ・・・」
「失礼します・・・父上・・お話しがあるとの事で伺いましたが?」
大きなベッドの上で横たわるラウンドはかつての獅子と評された面影は微塵も消え失せ、頭髪は無くなり、顔はシミとしわだらけ、眼も虚ろだ
「ゼス・・・儂はもう長くない・・・最近薬もまともに飲めない・・その前にお前に伝えておかねば・・ならん事がある・・」
「その様な気弱な・・父上にはもっと長生きして頂かなくては・・もう直ぐ孫も生まれるというのに」
「そう・・だな・・・だがお前に伝える事がある・・・」
「ここ最近毎日の様にあの女・・・エレインが儂の枕元に立って告げるのだ」
『エストは紛れも無く貴方の子供、そしてこの世界に変革をもたらす者、エストは戻って来るこの世界に、新たな命と力を手にして・・その時貴方は実の息子に断罪される事になるでしょう』
「そう毎日の様に儂に告げてくる・・・ゼスよ・・奴は・・あの不貞の豚は生きておるのか?」
ゼロスは暫く沈黙した後・・・・【ジャミング (妨害領域)】
「何を?何をしている・・・ゼス」
「ふふ、妨害領域を展開しました・・・これでこの部屋の声や音は外部に漏れません」
ラウンドは怪訝そうな表情をしてゼスを見つめる
「クククッ・・・ア~ハッハハハ、これは良いぃぃ死んだ女の亡霊かぁぁ闇の魔法使いのなせる業か?」
「ゼス・・・急に如何した?」
「だぁぁ!!だからぁ何度も言わすな、俺の名前はゼロスだ!ゼロ・ロス・・・ゼロスだ忘れるなよこのボケ老人がぁ!!」
急に乱暴な態度を取るゼロスに驚きと怒りを見せるラウンド
「貴様ぁぁ誰に物を言うておる!!拾って息子にまでしてやった恩をわすれおってぇぇ!貴様など血が繋がっていなかったらその場で八つ裂きにしてやったのに!!」
衰弱したラウンドがどれだけ凄もうが最早かつての迫力も威厳もない、ゼロスはヘラヘラと笑いラウンドのベッドに腰をかける
「この際だ教えてやろう、先ずお前の前の妻エレインが不貞を働いていたというのは・・・あれは嘘だ」
「!?なっ・・・貴様ぁぁ女神ゼレニス様からその様にお告げがあったと・・そう言ったではないかぁぁ!!」
ベッドの上で不敵に笑うゼロスは額に手を当てて大笑いしている
「ククク・・ああ確かにゼレニスからの言葉だったさ、それは本当だぁ」
「なっ!?ならば!」
「だからゼレニスが俺にそう嘘を告げるように入れ知恵してきたんだ」
「!?ゼレニス様が?何故だ」
「何故?そんなの決まってるお前の息子・・エストが女神にとって邪魔な存在だった・・そう言う事だ」
「邪魔な存在・・・エストが?」
「それとだが、俺とアンタに血縁関係は無い」
「!?貴様ぁぁそれも儂をたばかっておったのか!?」
「まぁそう言う事だ、俺の母親はただの娼婦しかもお前等の言う豚相手にその日のパン1個を恵んで貰う為体を売る様な安い女だぁ当然光の魔法なんか使える訳ねぇキャハハ!!」
「!?で、では・・・何故貴様に魔法が・・・雷光という上級魔法が顕現したのだ!?」
「ああ、これね~」
ゼロスは指先に稲妻を発生させラウンドに見せつける
「これは、本来エストの授かる筈だった雷光の魔法を女神の気まぐれでその場に居た俺に付け替えたんだ~アハハハ」
「!?本来・・エストが授かる力・・?それをお前がぁぁ奪ったというのかぁぁ!!」
ラウンドは力の入らない腕で必死にゼロスの服の裾を掴み憎しみの籠った目で睨み付ける
「まぁそうだな、だから俺は正真正銘、お前等の言う所の下民の豚って訳だ・・ククク・・どうだ?お前等が蔑んで来た豚に自分の家族や守って来た家をメチャクチャにされる気分は?」
「・・・貴様ぁ!?と・・いう事は・・・今ザビーネの腹に居る子供は・・・」
「ククク・・正解ぃぃ!お前等の蔑んで来た豚の子供だぁぁ当然だが魔法なんか顕現しないぜぇぇ!!キャハハ、ローファット伯爵家は俺の代で潰えるなぁまぁ血も繋がってないがな」
「許さぬゥゥ貴様だけは・・絶対に許さぬゥゥ刺し違えても!!【サンダーアロー!!】」
ラウンドがガリガリになった手を翳し雷の魔法をゼロスに向かって放つ
が・・・・・
「なっ!?魔法が・・・発動しない!?サンダーアロー!!」
「ククク・・・アレアレ?電撃のラウンド様?如何されました?」
絶望の表情で自分の両手を見つめ震えるラウンド
「俺の用意した薬が効いてくれたみたいだなぁ・・残念だがアンタはもう魔法は使えないぞ?闇の売人から買ったマンドラゴラの禁忌の薬を毎日少しづつ投薬しておいたからなぁぁアハハハ」
「貴様ぁぁ返せぇ!!儂の魔法を、エストの魔法を!返せェェ」
ラウンドは惨めにもゼロスに縋りつき何度も揺する
「ああ、ウザい・・・お前は一生そこで寝てろ【ブレイン・ブレイク】」
ゼロスの指先からほとばしった青い稲妻がラウンドの眉間に命中すると、ラウンドの目が虚ろになりそのままベッドに倒れる
「ふぅ・・ようやくこれで落ち着いて仕事ができる・・・・その前に昂ってるから、女を抱きたい気分だな・・・」
ゼロスはラウンドの部屋から出ると頭を下げるミリアの耳元で
「ミリア今から俺の相手だ・・他に2,3人俺の好みの女を連れてこい・・・今すぐだ」
「・・・はい・・畏まりました」
「早くしろよ・・俺は部屋にいるからな・・」
廊下を歩いて去っていくゼロスの背中を見つめ、ふと閉め忘れていたラウンドの部屋の中を見てしまったミリアはラウンドが目を見開いたまま天井を見つめて呻いているのを目撃しゼロスに対する言い知れない恐怖から、その場から逃げるように立ち去った
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