第37話 獣神と森神

〇シェーンブルン子爵領  獣人達の棲む森の集落



「此処は森の眷属、獣族のテリトリーだ!今なら見逃してやる・・・即刻立ち去るがいい」


「あひゃひゃひゃ獣風情がこのアルシア フォン シェーンブルンに偉そうに意見するとは・・・舐められたもんね」


獣人達は、目の前の女が貴族だと判って全員表情が強張る


アルシアと名乗った女は歳は14~15歳くらいで着ている服は黒と青を基調とした幼女が着る様なドレス、所謂ゴス・ロリという趣味の服だ


髪型は右サイドに纏めておりサイドポニーテールとなっている、その瞳は幼さを感じさせつつ整った目鼻口の造詣から、美少女と言っていい容姿をしている


スタイルはそのユッタリした服から判別出来ないが胸元はそこまで主張してなかった・・


しかしその美しさが目の奥の狂気の輝きで怪しさを何倍にも増していた


「我等、獣族はお前等貴族の命令も支配も受け付けない、この森を守護し森と共に生きるのみだ、お前等と関わり合いを持つ気もない、だからそちらも干渉しないでもらおう!」


獣人達は木製の武具を構えアルシアと名乗った貴族の女とその背後で武器を構える騎士を睨み付ける


「アルシア様、亜人達の腕力は侮れませんここは我等にお任せを」


忠義に厚い騎士のリーダー格の男は銀色の鎧兜に身を包み真剣な表情で獣人に向き合う


「邪魔だ・・・誰がアタイの前に立っていいっつたよ・・死んで詫びろ」


そうアルシアの言葉と共に冷たい空気が漂い「ドサッ」と剣を構えたまま騎士の首だけが地面に落ちる・・・・


なにより切断された断面は氷に覆われ出血してない


「なっ!?アルシア様!?騎士長を!?」


「私は狩を楽しみに来たんだぁそれを邪魔する奴は死んで当然~今日は亜人の首を狩りたい気分なのよねぇぇきゃははっは」


獣人達は目の前の光景とアルシアの纏う凍気による影響からか口から洩れる息は白くなり体毛を持つ彼らですら小刻みに震えている


「ルル・・こいつはヤバい・・」「ああ、普通じゃないぞ・・あの大鎌・沢山の死体の匂いがする」


ルルと呼ばれた犬耳の獣人は前に出ると、背後をチラッとみて告げる


「俺は此処で何とか食い止める・・その間に族長に説明して村の女や子供を逃がせ」


そう言うと突進しながら「ウォォォォォ」と雄叫びとも悲鳴ともとれる叫びと共にアルシア達に突貫するが


アルシアが軽く振り抜いた大鎌によって木製の棍を持つ腕ごと切飛ぶ


「ぎゃぁぁぁぁ」


「良い声で鳴くわねぇ~その首私のコレクションに加えてあ・げ・る💛」


アルシアは銀色に怪しく輝く大鎌を振りかぶると、その刃先を細かい氷の粒が纏いつく


「ヱンチャッター(付与型魔法使い)!?」


片腕を押えながらもアルシアを見て驚愕する、ルルと言う名の獣族の男


「綺麗に切れちゃえェェ」


キィィン


「はぁ?誰?お前・・・・・」


「グゥルルルル・・・お主・・・死にたいのかえぇ?」


アルシアの一撃を受け止めたのはダキだった・・ローブから見える白い象牙の様な手からは鋭い爪が伸びてその爪で大鎌の一撃を受け止めている


【アイスクル・ストーム】


アルシアの放った吹雪の様な竜巻によりダキのローブが捲れその姿が露わになる


「おっほぉぉぉ此れは・・・珍しい獣じゃない~白い狐型の亜人・・しかも尻尾が9尾も有る」


ダキの姿を目にしてその場の全員が驚愕する、騎士達はその妖艶な美しさに魅了されており、獣人達は一斉に地面に伏せ頭を下げている


ダキは少女の姿から、妖艶な大人の妖狐に姿を変え着ていた衣服のサイズに合わない胸元は合わせ目から零れそうに盛り上がっている、目元は愛らしさから鋭い輝きを持つ目になっており開けた足元からはムッチリした白い股を見せつける様にユラユラと触り心地の良さげな9つの尻尾を纏わりつかせている


「オホホ、妾はダキ、風の大精霊にして獣人達の神なり・・・妾の眷属に対する仕打ち、その身で償ってもらおうかぁぁ」


ダキが軽く右手を振り抜く


「!?」


アルシアは危険を察知し後方へ飛びのくと、その右サイドに纏めていた青みがかった黒髪のサイドテールの先端が切れる


「くっ!!・・・はっ!?後!?」


危険を察知して今度は横に飛びのく、しかし不用意に背後を振り返った数人の騎士はその胸部を巨大な植物の根で貫かれ口から大量の吐血しながら絶命していた


「ダキ・・アンタは獣人の眷属神かもしれないけど、私は森の神だよ・・・私の領域(テリトリー)で勝手な真似しないで欲しいね」


いつの間にか大人の女性型に変身していたミホークが現れると、獣人達は歓喜のお祈りを始める


横に飛び間一髪ミホークの精霊術を交わしたアルシアは怪訝そうに二人を見渡すと


「お姉さん達ってぇ~何者?」


「妾は、風の精霊にして、精霊王たるオベ・ロン様の一番の寵愛を受けし第4従者 ダキでありんす」


「私は森の精霊にして、精霊王たるロン様より最も愛されし第3従者 ミホーク」


「はぁ?」「なんてぇ?」


二人は自分達の口上を宣べてから睨み合っていた


「ぷっ、ふざけてるのぉ~?精霊?・・・・ああ教典にある亜人共の崇める悪霊ね」


「あんな獣共の御伽話を真に受けてぇプッアハハハハ・・・頭沸いてんじゃない?」


アルシアは急に冷めた目でダキとミホークを睨み返す


「まぁお花畑の頭でも見てくれは良いから私のコレクションには入れてあげるよぉ~仲良くその首差し出しなさいぃ~」


再び銀色に輝く大鎌を構えると周囲の気温が下がり地面や周囲の木々に霜が付着する


「キャッハァァ―――!死ねぇェ」


アルシアが鋭い軌道を残し大鎌を横に一閃する、最小の動作でその鎌を見切るダキとミホーク


「へぇぇやるわねぇ~キヒヒヒ」


しかしダキの襟元とミホークの着てる上着の肩ひもが切れる


「「!?」」


ダキとミホークははだけそうになる胸元を慌てて隠しアルシアを睨み付ける


「ほらぁぁもう一回ぃぃ行くよぉ―――」


しかしアルシアの大鎌は振り下ろされる事は無かった


「!?・・・誰だ?お前は・・・・緑の髪・・?」


俺は右手でアルシアの大鎌を背後から掴んで攻撃を止めている


「その手・・・何故凍り付かない・・・」


「くくくく・・何でだろうなぁぁ【熔解】(ようかい)」


俺が精霊術を唱える右手で掴んでいた大鎌が真っ赤に熱せられドロドロに溶けだす


「!?なっっ!魔道銀(ミスリル)の鎌がぁ!?」


流石、ミスリル溶かす事が出来たのは手で掴んでいた部分だけ・・それでもアルシアの注意を逸らす事は出来た


【群生】(ぐんせい)


ミホークが両手を掲げるとアルシアと騎士の周りに幾つもの植物が出現し檻の様に周囲を囲んだ


「ダメです!切りつけてもすぐ切り口が塞がってしまいます!!」


騎士達は剣を抜いて何度も切りかかるが植物の再生能力が高すぎ効果はない


「ちっっ!こんな所で使う羽目になるとはな・・・【テレポストーン】(転送石)」


アルシアは地面に親指の先位の大きさの丸いガラスの球を叩きつけると、割れた場所に黒い影が出来アルシアと騎士達は黒い影に飲み込まれて行った


「行ったか・・・・まぁいい、ダキ、ミホークそいつ等を治療してやれ」


「「畏まりました」」


【薬草】(やくそう)


【痺香】(しびれが)


ミホークは自分の周囲に希少な薬草を生やしそれを薬椀で潰して混ぜ合わせる、ダキは麻痺効果のある香を怪我をした獣人に嗅がせ麻酔にして痛みを軽減させる


「九尾様、ドルイド様、誠に有難う御座います」「「有難う御座います!!」」


ダキとミホークに向かって平伏し頭を下げる獣人達を威厳の籠った表情で見つめる二人


「良い、面を上げよ」


「それより我らが主を歓待する用意をせよ!!」


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