4章 飛躍する者と暗躍する者
第35話 グランディ帝国 最高評議会
●グランディ帝国首都 帝都グランディ グランディ城 評議室
豪華絢爛な調度品に金銀の装飾を施した大きな丸いテーブル、同じく豪華な椅子が6席
「して、この北東のエルンスト伯より報告のあったベニス法国の聖騎士部隊と思われる一団の目撃情報だが貴公らの見解を聞きたい」
6席の内で唯一背もたれの一番上に黄金の王冠をあしらった席に座った男が肘を付きながら他の5人を見渡す
●オットー フォン グランディ 皇太子 皇位継承権 第一位 皇帝代行
●ネルゲス フォン オイゲン 皇淑 皇位継承権 第三位 軍務尚書
●フリッツ フォン ミューゲル 公爵 皇位継承権 第五位 宰相
●ゲルハルト フォン ヴォルディク 侯爵 帝国軍 元帥
●ハインリッヒ フォン クロプシュトック侯爵 外務尚書
●ミハエル フォン ミュッケンベルガー侯爵 財務尚書
皇帝と五名の最高位貴族の会議・・・通称 最高評議会
「恐れながら、オットー皇太子これは明かな法国側からの敵対行為ですぞ、即刻討伐隊を編成し帝国の恐ろしさを見せつけてやりましょう!」
熊の様な口ひげを蓄えた武骨な雰囲気を纏う40代位の巨漢の男が怒りを隠すことなく机を叩きながら訴える
「ヴォルディク侯爵、事は外交問題でもあるのです武力だけで片が付く話ではありません、帝国軍の元帥として全軍を預かる身、言動には責任を持っていただきたい」
赤く長い髪を後ろで束ね、ヴォルディク侯爵とは対照的にいかにも文官タイプの細身の男が鋭い目でヴォルディク侯を睨み付ける
「ほう~、クロプシュトック侯爵は外務尚書として此度の法国の暴挙を未然に防げておりませんが?その点納得いく説明を頂けますかな?」
ヴォルディク侯爵の隣の席に座っている眼鏡をかけ青みがかった黒髪を後ろに流し貴賓を感じさせる、若い顔立ち整った男が肘を付き顎に手を乗せたままクロプシュトック侯爵の方を不敵な笑みで見つめる
「オイゲン皇淑・・・皇淑は軍務尚書として元帥の意見に賛同したいだけなのでは?」
オイゲン皇淑の言葉に唇を噛み締めて悔しがるクロプシュトック侯爵の隣にすわる、明るい銀髪の美しい顔立ちの美丈夫が助け舟をだす
「宰相たる立場から申せば、此度の法国の領内への侵入・・此方から口火を切らし開戦の責をグランディ帝国側に押し付ける為では無いかと思いますが?」
「ミューゲル公爵・・・宰相の仰る事はあくまで憶測ではないのでは?我々軍部は此度のエルンスト伯からの援軍要請に応じるべきだと意見を同じくしているが?」
オイゲン皇淑は立ち上がり眼鏡を指で直しながらミューゲル公爵に詰め寄る
「ふむ・・・では致し方ありませんな・・・ミュッケンベルガー侯爵」
ミューゲルに声を掛けられ隣に座っていた同じく銀髪の初老の男は小さな体ながらも、立派な髭を蓄えておりどこか威厳を感じる
「畏まりました宰相閣下・・・【チリィィン】」
ミュッケンベルガーはテーブルに置いてあるベルを鳴らすと、評議室のドアが開き檻入れられた男が騎士によって運びこまれる
「どういう事だ?フリッツ(ミューゲル公爵のファーストネーム)見た所、法国の聖騎士の様だが?」
「皇太子殿下、法国の思惑は、この法国の騎士に聞いてみましょう」
ミューゲルはそう言うと席を立ち、檻に入れられた法国の聖騎士に右手を向け
【ダース・デス・ペイン】
「がぁぁぁぁぁぁ、あひゃぁぁ何でも言いますぅぅぎゃぁぁ、ですからぁぁ!!こ・・殺して下さい」
ミューゲルが闇魔法を解除し、冷たい目で檻の中に聖騎士に問いただす
「ではもう一度問う、ペニス法国は我がグランディ帝国の北東の領土にて何をするつもりであった?」
騎士の鎧の隙間からは真っ赤な血が滴る・・・
「わ、我等はあの地にて陽動を行い、帝国軍を法国領内へ引きつけ帝国に領域侵犯として正当な権利を主張し、ゼレニス教団法王様より勅令を頂戴して聖戦を仕掛ける手筈でした・・」
「くっ法国の女狐の考えそうな手だな・・・」
悔しがるヴォルディクに対し、余裕の笑みを向けるミューゲル
「ヴォルディク侯爵・・これでお判り頂けたかな?貴公の言う通り此方から手を出していたら我等はゼレニス様の意に反した側として帝国領土を蹂躙されたやも知れないのですよ?」
「・・・・・ぐぅぅぅ・・・宰相閣下・・此度は軽率な言動でお手を煩わせた事・・この場で謝罪し致します」
武骨な大男が席から立ち上がりミューゲルに深々と頭を下げる
「ご理解頂けたのであれば幸いでございます、では汚い汚物は処分して下がらせましょう【ダース・デス・ブレイン】」
ミューゲルが再び騎士の方へ手を翳すと、騎士は兜の隙間から大量の血を流しそのまま横に倒れ動かなくなった、その檻を数名の騎士が部屋から引きずり出していった
「では、このまま法国の連中は放置ということか?フリッツ」
オットー皇太子は面倒そうに尋ねる
「いえ、そういう訳にも参りませぬ、法国の連中には痛い目を見て貰うつもりです」
その言葉にヴォルディクは身を乗り出し食いついた
「その任是非我等にお任せ頂きたい!此度の報告のあった伯爵領はヴォルディク侯爵家の頼家(支持している家)だ、任せて貰おう!」
「でしたら我が軍も」
クロプシュトック侯爵が席を立ちオットー皇太子を見つめる・・・が
「クロプシュトック侯爵はそんなお暇では無いはずですが?」
オイゲン皇淑が皮肉の混じった言い方でクロプシュトック侯爵を煽る
「オイゲン皇淑殿下、それはどういう意味で仰っておるのか理解できませんが?」
不快感を隠さずに反論するクロプシュトック侯爵だったが
「いや皆さんの耳には未だ入って無い様ですのでお伝えしますが、数日前にクロプシュトック侯爵の頼家であるベストパーレ男爵領において、男爵と夫人、騎士の殆どが、たった1人の男に虐殺されたと聞きましたが?」
「「「!?っ」」」」【バッン!!】
机と思いっきり叩いたのはヴォルディク侯爵であった
「その男は何者だ!?クロプシュトック侯爵はこの事態を如何に納めるつもりか!」
オイゲン皇淑はさらに畳みかける
「そして何より看過できないのは、男に捕らえられ両腕を切り取られたベストパーレ男爵が下民の豚共によって酷い仕打ちの上、処刑された事、帰還した騎士共も惨めに豚共に命乞いをした上で処刑された事です、貴族としての尊厳を揺るがしかねない、無能な豚がつけあがるやも知れぬ」
「一番許し難い事は、その事件の犯人である、オベリスク(悪霊の王)と名乗った男を、みすみす取り逃がしている事だ」
オットー皇太子はこの日初めて不快な表情でクロプシュトック侯爵を睨み付け
「クロプシュトック侯爵・・・これは我等帝国貴族、皇族に唾を吐いたも同然の女神を恐れぬ所業ぞ、聞くと今だにそのオベリスクとか言う外道を処分どころか補足も出来て無いとは・・・」
クロプシュトック侯爵は俯きながら小さく震えてる
「栄光あるクロプシュトック侯爵家も地に落ちたな・・・このままだと次期最高評議会でのその席には別の家の者が座ってるやも知れぬな・・」
「お、お待ちください!隣接するシェーンブルン子爵家に、不敬な輩の拿捕を指示しました、あの者達なら容易に処理するはずです!」
オイゲン皇淑は席に座り直すとと少し嫌悪した表情をし呟く・・・
「首狩り姉妹の居るシェーンブルン子爵か・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
●評議会室の隣室 補佐官控室
控室のドアが皇宮の近衛兵により開けられる、控室には10名近い補佐官が評議会の終了を待っていた
流石に優秀なメンバーが揃っており、書類に目を通していたり報告書を確認していたり無為な時間を過ごすしている連中一人も居なかった
しかしドアが開けられると一斉に読みかけの報告書や書きかけの資料を鞄に仕舞うとその場で直立し頭を下げて待機する
その中にゼス改め、ゼロス フォン ローファット伯爵も居た
ゼロスはラウンドの体調不良に伴い正式にローファット伯爵当主の座を譲り受け名実共に中級貴族の仲間入りを果たした
その際に、自身の名もゼスからゼロスへと改めた、本人曰く女神ゼレニス様からのお告げだと言う事だ
頭を下げ自身のつま先と床だけが視界にある中、部屋の外がガヤガヤと声が聞こえ近づいてきて、自分の足元付近に影が見えたので声を掛ける
「元帥閣下、会議ご苦労様です」
それだけ言うと両腕を頭の高さより上げ両手を上向きにして相手にむかって差し出すと手の上にフサッとマントが置かれたので姿勢を戻すと丁寧に折り畳み先に部屋を出て自室に向かって歩くヴォルディク侯爵の後に続く
「ふぅ~・・・やれやれ頭の固い連中の話しは浸かれるわ、ゼロス酒をもて」
帝国軍司令官室の自身の机に乱暴に腰を下すと不機嫌そうにゼロスに命令する、ゼロスは表情を変える事無くグラスにワインを注ぎヴォルディク侯爵の前に出すと無造作にワイングラスを掴み一気に飲み干す、ゼロスの方を見る事無くグラスを差し出しゼロスも無言でワインを注ぐ
「ゼロス、法国の連中と一戦交えるぞ・・・ただし局地的な陽動だ・・奴らを領内に引き込んである程度暴れさせて此方に正当性のある開戦理由を作るのが今回の目的だ」
(なるほど・・ヴォルディクは自分の領地を侵略させる今回の作戦に不満があるのか・・・)
「奴らの進撃経路にあるすべての村々の井戸や河に毒を盛り奴らを疲弊させた後に陽動部隊で奇襲をかける・・奇襲部隊はお前が指揮をせよ」
「その作戦だと領地内の下民に甚大な被害が出ますが」
ヴォルディク侯爵はワインを飲み干しグラスを乱暴に机に置くとワイングラスにヒビが入る
「下民の豚が幾ら死のうが構わんが、河川が汚染されると作物に影響が出る・・・他の豚共からの徴収を増やすか・・」
「何れにしろエルンスト伯爵は儂の遠縁じゃこのまま放置しては儂の面子が立たぬ法国の不届き者を蹴散らして目に物見せてやる」
ヴォルディク侯爵はジロっとゼロスを睨むと
「ゼロス・・・失敗は許さぬぞ・・・」
「はっ」
ゼロスは頭を下げヴォルディク侯爵の部屋を後にした
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます