第33話 オベリスク(悪霊の王)


〇ベストパーレ男爵 邸宅前



「見えて来たぞ・・あれがベストパーレ男爵の屋敷だ」


呪言により傀儡にした男が案内する先に見えるのは、豪華な造りの如何にもな貴族の屋敷であった


入り口には大きな門があり固く閉ざされている、男は勝手口のドアのカギを取り出し開けると無表情で此方を振り向くがその顔には冷や汗が滴る


「此処までいいぞ、死んでろ」


【楼閣】(ろうかく)


男はその場で砂に変わり消え失せた


「ファリス、オリハ行くぞ」


「「御意」」


二人を引きつれ中に侵入すると、直ぐに数名の騎士に見つかる


「貴様ぁ何者だ!ここがベストパーレ男爵のお住まいと知っての事か!」


オリハとファリスに目配せで合図すると、二人は俺に軽く頭を下げ一瞬で騎士たちの背後に回り


【砂沼】(さじょう)


【極光】(きょっこう)


オリハの作り出した砂の沼に沈む騎士達、ファリスの撃ち出した無数の光の光線に体を貫かれ一瞬で絶命する騎士達


屋敷前の攻防は数秒でケリがついた


「やれやれ・・・簡単すぎないか?」


そう言いながら俺に向かって傅く二人の元に歩みより二人の頭を撫でる


「さぁ屋敷の中に招待してもらおうか、歓迎はしてくれないだろうがな」


俺は屋敷のドアを蹴り上げると身長の倍はある両開きのドアはロビーの奥まで吹き飛んだ


「なっ!?侵入者だぁぁ!!」


屋敷の中に駐留していた騎士達が慌てて武器を構え俺達の前に立ちはだかる、俺の前に出て術を仕掛けようとしていた二人の肩に手を置き後ろに下がらせると


「さぁて、ここはミホークに教わった武技をお披露目するとしますか」


【息吹】(いぶき)


木の小精霊が俺の右手に集まり手の中に樹木が生え、その枝葉が複雑に絡まると俺の手には一振りの木剣が生成される


ヒュン


俺が木剣を軽く振り下ろすと、目の前の騎士の身体が真ん中で真っ二つに裂けた


「へぇ?」「え?」


隣に立っていた仲間が急に半身に分かれ目の前に倒れたのを見た騎士達は呆気に取られて茫然としたいた


「失敬、いきなり振り回してしまったな・・・我が名はオベ・ロン・・精霊の王なり」


そう剣を帯刀し口上を宣べるが、仲間をやられた騎士達は雄叫びを上げながら、お構いなしで俺に切りかかってきた


「二人とも後ろに下がっておけ、手を出すなよ」


「「御意」」


そう言うと二人は入口のドアのあった場所付近に下がり此方の様子を見守っている


振り返っている俺の頭目掛けて切りかかる騎士数名・・振り下ろされた剣は俺を捉えきれず屋敷の床を叩きガギッっと鈍い音を立てる


「遅いな・・」


一瞬で背後に回った俺は横に軽く木剣を振り抜くと、騎士4名の首と胴体が切り離され鮮血をまき散らしパタパタと倒れる


さらに5名の騎士が突っ込んできたが、上空高くジャンプして躱すと空中で木剣を一振り


騎士達の背後に着地すると、振り返った騎士達の剣を握っていた腕ごと綺麗に切断され床に剣と一緒に落ちていく


「ぎゃぁぁぁぁぁぁ」絶叫と悲鳴がホールを包み、奥の扉から応援の騎士が駆けつける


【息吹】


木剣にさらに精霊術を掛けると木剣は木の槍に変化し俺はそのヤリを応援の兵士に投げつける


「ぐはっっ!」


応援の兵士数名は俺の投げたやりに体を貫かれそのまま壁に縫い付けられた、俺は一瞬でそこまで跳躍し槍を引き抜くと壊れた人形の様に騎士達は折り重なって倒れた


残った騎士達は武器を投げ出し一目散に入口に向かって逃げ出すが


『動くな』


俺の呪言によりその場で固まり停止した


「なんだぁ?お前ら主の男爵を見捨てて逃げ出すのか?」


笑いながら近づいて来る俺にむかって命乞いをする騎士達・・・・


【サイクロンカッター】


【アースバレット】


咄嗟に後方に飛びのき距離を取ると、騎士達は真空の刃に体を切り割かれ、無数の石礫で体中を貫かれ折り重なるように絶命した


「貴族様のお出ましか・・・」


屋敷の2Fの踊り場を見ると高級そうな服に身を包んだ、瘦せ型の男と、太めの女性が此方を睨み付けていた


「貴様ぁ・・・何者だ?ここを我がパウル フォン ベストパーレ男爵の屋敷と知っての狼藉か!?」


俺は笑みを零しながら飄々と頭を下げると


「いやぁぁ俺はオベ・ロン・精霊の王にしてお前等を駆逐する者だぁ~くくくく」


「精霊?・・・ふっ、下らん下民の豚共の妄言に踊らされおって・・・ゼレニス様の教典でいうとこの悪霊の類だな」


「悪霊~?・・・ああ、そういやあのクソ女神の教えにそんな事が書いてあったなぁ~悪霊・・悪霊かぁ・・悪くないな・・あははははは」



「き、貴様ぁぁぁゼレニス様を侮辱して只で済むと思っているのかぁぁ神罰が下るぞぉぉ!!!」



「ぷっっ・・・きゃはははははは、笑えるぜぇぇ下せるもんなら下して見ろよぉぉその神罰とやらをなぁ―――きゃははっは」



「おのれぇぇ豚の分際でぇぇ泣いて殺してくれと懇願する程の絶望を与えてくれるわ!!」



【サイクロンカッター】



キィン



俺は軽く剣を振り上げると甲高い音と共に魔法で撃ち出された真空の刃を弾き返し屋敷の壁に切り割かれた様なキズが出来る



「なっ!?風の刃を木剣如きで弾きおった!?」



「なんだそれ?子供のお遊戯か?もっと本気で来いよ俺がつまんないだろうが」



「なっ!?おい!ペドラザ、お前も手を貸せ!」


隣で驚いてる妻を叱責し俺に向かって魔法を撃ちこむ


【サイクロンカッター】


【アースバレット】


「ふわぁぁ~」


欠伸をしながら木剣をユラユラ振るだけで真空の刃も石の弾丸も全て弾き飛ばす


「ばっ馬鹿な・・・こんな事が・・・」


「あ、貴方・・・これって・・」


「何時まで俺を上から見下ろしてだぁぁ?図が高い!!」


【激震】(げきしん)


俺が力強く右足で床を踏みつけると、床が陥没し屋敷全体が激しく揺れる


「な、なんだぁ地震!?地震かぁぁ?」


「ぎゃぁぁぁ」


屋敷の2Fの踊り場が崩れ貴族の夫婦は1Fに落下した


俺は二人の元まで行くと、男爵の頭を踏みつける


「おい、図が高いって言ってんだろうがぁぁああん?」


男爵の頭を床にグリグリと押し付けるる


「ぐぅぅぅぅぅ、豚の分際でぇぇぇぇ」


【アースバレット】


真横からペドラザが石礫を俺に打ち込むが・・・


【岩戸】(いわど)


地面から岩の壁が出現し石礫を全て防ぐ


「ま、魔法?!魔法使い・・・貴族なのか?・・貴様ぁどこの貴族だ!」


足をどけパウルの髪の毛を掴むと俺の目線迄引きずり上げ、睨み付ける


「俺をお前等みたいなゴミクズの貴族と一緒にするな・・・俺はオベ・ロン・・お前等の言う悪霊の王・・・オベリスク(悪霊の王)のロンだ」



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