第32話 狂った街の裏路地にて
〇ベストパーレ男爵領 辺境の村
翌朝、目覚めた俺達は手早く身支度をすると、ファリスに騎士たちの死体を浄化で消し去ってもらい痕跡の残らぬ様にして屋敷を後にした
「・・・これは驚いた・・アンタら無事じゃったか・・・」
馬車を操縦する俺を見て昨日警鐘をしてくれた老人が気付き声をかけてくれた
「これは、昨日はご忠告いただき有難う御座います」
俺は馬車の上から頭を下げる
「なに・・・老い先短い年寄りのきまぐれじゃ・・礼を言われる事ではない・・それよりその馬車・・」
「いやぁ~昨日持ち主のご夫婦が急にこの村から遠い場所に移り住むという話になりまして、邪魔になるからと私共が譲りうけました」
俺は笑顔でそう老いた村人に告げると、何かを察した様に目を瞑り微笑んだ
「なるほど・・・」
「あ、それからあの夫婦は着の身着のまま出て行かれたので、屋敷にあるものは全て村の人で分けて欲しいと仰ってました」
「・・・・何から何まで・・・」
全ての言葉を口にする事無く老人は頭を下げる
「あ、そういえば男爵様に渡すものがあって代わりに届ける様に頼まれてるんです、男爵様のお住まいは何方の方に向かえば」
老人は、男爵という言葉に反応し口をつぐむが黙って東の方角を指さした
「馬車で半日・・・」
それだけ言うと、振り返る事無く村の奥へと消えて行った
「・・・・まぁこれから先はこの村次第だ、いこうか」
手綱を引き老人の指さした東の街道を進む・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・
「オリハの眷属のホムンクルスというのは便利だな・・・よく見ないと本物の人間と区別がつかないぞ」
俺は馬車の後ろのホロの中でオリハとファリスに抱き付かれ心地よい揺れに身を任せていた
「ロン様・・僕はあんな醜いクズの造詣は・・」
俺があの太った村の男に似せて作る様にオリハに命令したので、今馬車を操縦してるのはあの村で砂に飲み込まれ消えた中太りの男の姿そのものだった
「そう言うな・・オリハこれも俺達の目的の為だ・・」
「ロン様・・僕・・ご褒美が欲しいなぁ」
そう言うとオリハは俺の方を向き目を瞑った
「オリハのこういう女らしい所も俺は好きだぞ」
そう言うと、そっとオリハに口付けする
「ふふ、オリハはもしかしたら私らの中で一番女性らしいかもしれませんね」
微笑みならが、ファリスも俺の首筋にキスをしてきた、俺はファリスを見つめながら守護聖達の事を考える
俺が七大精霊と過ごし絆を深める中で、彼女らにも変化があった
精霊という人を超越した存在である彼女らは、本来であれば性別という概念は無かったらしい
事実、別の世界に干渉する時は男の姿であったり、別の生き物であったりと、その地に伝承として伝わる姿を模す事が多い
しかし、俺の前では全員が女性の姿だ、顕著なのはミホークとダキだ・・彼女らは俺との関係を深める際にはそれに相応しい女性の姿になる
特にダキは・・・まぁそれは置いとくとして
その彼女等にはお互いを尊敬し合い、共存する事を当たり前として存在が成り立っていた・・それは守護するべき世界樹の元、全員の意思が一致していたからに他ならない
しかし、そこに俺、精霊王が現れ彼女らの心のベクトルが俺へと大きく傾く
世界樹は精霊にとっては信仰の対象と言うべき存在、対して精霊王はより身近な忠義を尽くせる存在・・・
そこで起こるのは独占欲・・彼女らの俺への愛情が増せば増す程、彼女等同士の嫉妬とも言うべき感情が増す事になる、最近気づいたが相克同士の嫉妬の感情の現れは顕著だ
しかしユリシーズは其れこそが、ゼレ二アスの世界を覆す為の布石だと言った
あらゆる自然現象の象徴たる彼女らの、お互いに向ける嫉妬の気持ちが強くなれば、この世界のアイデンティティである魔法の事象にも影響を及ぼす事になるのだと
その結果がどうなるのか・・・そこまではユリシーズも俺に語らなかったが
ユリシーズの思惑はどうであれ、俺には彼女らが必要で俺にとっては唯一の存在なのは間違えない
そんな事を思いながらも俺の胸にしな垂れる二人を見て微笑む
「ふふ、主様の私らへの慈しみの気持ちが見えます・・ファリスは何時までも主様をお慕い申し上げます」
「僕も!・・オリハも・・オリハもロン様の事大好きぃ」
「ああ、俺もお前達の事を愛してるぞ」
その後馬車の中で、目的地に着くまでの間二人との愛情を確かめあった
〇ベストパーレ男爵邸 近隣の街
「止まれ!・・・積み荷の確認だ・・・て、お前か・・」
ホムンクルスは笑顔で門番達に会釈をする、俺は荷台からホムンクルスの横に移動しており頭からローブを被って顔を見えない様にしている
「貴様か・・・今日もベストパーレ男爵様への貢ぎ物か・・」
ホムンクルスが黙って頷くと、一人の門番が馬車の荷台へ回り中を確認する
「おぉぉぉ・・・これは・・・」
裏からする感嘆の声を聴きもう一人の男も荷台の方へ向かい中を確認すると
「これはっ・・・美しいぃ・・・このような上玉のメス豚は見た事ないぞ・・・俺も是非味わいたいものだ・・」
「申し訳ございません、この者達は男爵様に最初にと・・」
俺がそう守衛に伝えると
「なんだぁ?貴様・・・こいつの知り合いか?豚の分際で騎士に意見するのかぁ!?」
俺の言葉に気分を悪くした守衛の一人が俺の近くまで来て俺のローブを掴み睨み付けて凄む
「滅相も御座いません・・・ただ男爵様に初物をお届けするとお約束しておりまして・・もし騎士の方たちに先に味見されたとなると・・・どの様なお怒りを受けるか・・」
貴族の名前を出した途端にさっき迄の勢いがなくなり、不機嫌そうに俺のローブを乱暴に離すと
「ちっ・・ベストパーレ男爵様とのお約束であれば仕方ない・・・だが今度街に来るときは俺への上玉のメスもちゃんと用意してこい!良いなっ・・ちっ、通っていいぞ・・行け」
俺とホムンクルスは守衛騎士に頭をさげると
馬車を進ませ街の大通りを進む・・・
「主様・・あのようなゴミはパンドラの力で如何様にでも・・・」
荷台から少し顔を出したファリスが不満げに俺に告げるので
「まだ街の入り口だ・・・俺達の力を見せるには早い・・相手に警戒されてはこの後やり難くなる」
「出過ぎた諫言お許しください」
俺はシートから覗いてるファリスの頭を撫でて微笑む
「ファリスが今まで俺に諫言など言った事はないぞ、お前の進言には何時も助けられてる・・だからそんな申し訳無さそうな顔をするな」
「主様・・・お心使い・・ファリス一生大切に致します」
街の大通りを抜けてると、細い路地にて一人の女性が複数人の男に襲われていた
「少し停めろ・・・」
俺は馬車から降りると、二人にはその場で待つように伝え細い路地に向かった、路地の入口には複数の騎士に押さえつけられた男が泣きわめきながら目の前の女性に必死に手を伸ばしている
「お許しくださいぃぃ妻は、彼女は妊娠中でぇ今が一番大事な時期なんです!どうかぁぁ」
「いやぁぁぁぁあなたぁぁぁ」
奥でも複数の男が下半身を丸出しにして、押さえつけた女の腰に激しく自分の腰を打ち付けていた
「ひゃぁあ、妊娠してる豚のアソコは緩いかと思ったが中々いい感じじゃねぇぇかぁぁ」
「おいおい、メス豚ぁ叫んでねぇでその口で俺にも奉仕しろぉ!」
「いやぁぁぁぁ、!?、モゴモゴ・・ウゲェオエェェ」
「おい・・・何やら楽しそうだな・・俺も混ぜてくれよ」
騎士達は一斉に俺の方を向く
『壁の前に立て』
騎士達と襲われていた妊婦、そして騎士達に暴行を受けていた亭主も全員、路地の壁の前に直立した
俺は妊婦と亭主の額に手を当て
【慈愛】(じあい)
右目が七色に輝き夫婦の身体が光に包まれ、旦那のキズが一瞬で直り妊婦の股から流れていた血も綺麗に消えていた
「奥さんも子供のこれで大丈夫だ・・・お前等は早く此処から去った方がいい」
そう言うと二人を呪言(じゅごん)から解放した、二人は何度も俺に頭を下げそそくさとその場から去っていった
「さてぇ・・・お前等だか・・まずその汚い物はしまって貰おうか」
【氷刃】(ひょうじん)
左手を翳し男達のモノの方へ翳すと、氷の刃が走り6名の男性のモノが綺麗に切飛んだ
「「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁ」」」」
路地裏に男達の絶叫が木霊する、男達の股間から小便の様に鮮血が垂れ流れる、泣きわめき悲鳴を上げるも俺の呪言で身動きが取れない
「さて、面倒だからお前等纏めて始末するか」
【嵐脚】(らんきゃく)
俺が白く輝く左足を騎士連中の頭付近でハイキックすると、風の丸ノコが発生し5人の首が胴体より切れ落ち首から鮮血の噴水が吹き上がる
「ひぃぃぃぃぃた、助け・・・」
一番奥に居た騎士は助かった・・いやワザと生かしてやった、が、恐怖で今にも気を失いそうだった
「なぁ俺は男爵の邸宅にいきたんだが?案内出来るか?」
「は、はい!是非ぃぃご案内させてぇぇぇひぃぃぃぃ下さいぃぃ」
『今から一切声を出さず表情も変えるな』
男は氷刃により切り落とされた股間の痛にも、叫び声も上げれず痛みを表情にも出す事が出来ないまま俺達の馬車の先導をして街の奥まで案内していく
「見えて来たぞ・・あれがベストパーレ男爵の屋敷か…」
男が進む先に見えるのは、豪華な作りの如何にもな貴族の屋敷であった
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