第30話 切り崩し開始
〇グランディ帝国 南方の地方領、ベストパーレ男爵領の外れにある小さな農村
ロン達は道すがらすれちがった村人に声をかける
「少しお尋ねしたいのですが、この村で宿泊出来る様な宿はありますか?」
年老いた村人は疲れ果てた様な目をしており、身体はやせ細っていた
「旅人・・・他の村から逃げてきたか・・悪いが宿屋なんぞ出来る余裕はこの村にはない」
ロンは、エストだった頃であっても伯爵邸の麓にある街迄しか知らず外れの村々など行った事も無かったが、どうやら貴族のお膝元から離れていても持たざる者への搾取は変わらないらしい
「そうですか・・・私らは仰る通り流れて来た者で今日一日だけ雨風を凌げれば良いんですが・・」
俺の事よりも後ろに居るファリスとオリハの姿を見て、村人の男性は軽く首を振るそして周囲に誰も居ない事を確認し俺の耳元で呟く
「悪い事は言わない・・・早くこの村を出て行きなさい・・お連れの女性が大事なら今すぐに・・」
村人はそれだけ告げるとその場から去って行った
「主様・・この村は何か淀んだ力の流れが見えます」
ファリスは周囲を、自身の力で見渡し俺に警戒を促す
「まぁ大体の察しはつくが・・・・」
「ロン様、何者かが此方に」
オリハが地面から伝わる振動から俺達に近づいて来る人を感じ取る
「向こうから釣られに来てくれるとは、幸先が良いじゃ無いか」
ロン達が道の端で話していると、荷馬車が近づいてきて止まった
「この村で見かけない顔だな・・・流れ者か?」
馬車に乗り手綱を握った男は、中年の男で明らか他の村人より太っていた何より・・・・
『主様・・この者の波動は・・・』
『ああ、俺にも見えてる・・これはいきなりアタリだな・・俺に任せとけ』
「はい、実はこの村に流れて来まして今晩宿泊する所を探してたんですが、村の方にお聞きしても宿屋など無いと言われまして」
「ですので、少し遠いですが、この先の村まで行こうかと皆と話していたんです」
そういうと中年の男はファリスとオリハを上から下まで舐める様に見回すと口元を手で隠した
『気持ち悪い・・不快な感情が見えます・・』
『すこし耐えろ、俺も我慢してる』
「それはお困りでしょう、そう言う事でしたら今晩は私の家へお泊り下さい何も御もてなし出来ませんがお代等は不要ですので、ささ荷台で窮屈ですが御乗り下さい」
俺は満面の笑顔で丁寧に頭を下げる
「ああ、なんと親切な・・・自分達で生きてくだけでも大変でしょうに・・では此処はお言葉に甘えさせて頂きます」
男はウンウンと笑顔で頷いて俺達を乗せた馬車を出発させた、途中の道中で先ほど俺達に警鐘を伝えてくれた老人が荷馬車に乗ってる俺達を見て残念そうに肩を落とし自宅へ戻って行った
「さぁさぁ着きました、遠慮なくどうぞ」
男の家は他の家とは一回りも二回りも大きな立派な作りだった
「すごい大きな家ですね・・・他の方々の家よりも」
ワザとらしく驚いてみせる、ファリスとオリハには喋るなとだけ伝えている、未だこの世界について詳しくは無い様なので俺に対し不敬な態度を取るような輩はその場で瞬殺しかねない
「ははは、まぁお陰様で男爵様のお抱え騎士様方にも良くして頂いてて、他の方より良い生活はさせて頂いております」
家と言うより屋敷に入ると、男と同じでふくよかな体つきの女性を妻だと紹介される
「まぁまぁようこそわが家へ・・・大したおもてなしは出来ませんが暖かいスープだけでも飲んで行って下さい」
玄関の隣の部屋の食卓に通されると、目の前に木のコップに入ったスープが湯気を上げて用意されていた
「あれ?お二人は飲まれないのですか?」
3人分しか用意されてないので、奥さんに尋ねる
「あ、あぁぁええ私達は先ほど頂いてまして、これが残っていた最後のスープなんです、ささ、遠慮なくお召し上がり下さい」
チラッとスープを見るがなんの変哲も無い・・・が
『主様・・・このスープ』
『ああ、睡眠薬か・・・かなり強力なやつだ・・・俺達には効かないと思うが・・・ファリス飲んだ後で念の為、全員の状態回復をしておけ』
『畏まりました』
「じゃお前達、有難く頂こう・・・・暖かい寝床と暖かいスープを提供下さったお優しいご夫婦に感謝を…」
そうお礼を述べ一気にスープを口に運ぶ・・・
『パンドラ・・・どうだ?』
精霊の園で待機してるはずのパンドラに俺の舌で得た情報を解析させる
『ロン様・・・御安心下さい・・眠り薬だけです・・我等に影響を与える程の物では無いです』
『分かった・・だが念の為ファリスに状態異常を回復させる』
俺は横目でファリスに合図を送ると
『慈光』(じこう)
俺達の身体を光が包み状態異常を解除する、なお目の前の連中には精霊が視認できないので俺達が精霊術で発光した事には気付いて無い
「ん?なんだか・・・眠たく・・・な・・・て・・・き」
俺に続きファリスとオリハもテーブルにうつ伏して眠って(演技)しまった
暫く様子を見て俺達が眠った事を慎重に確認した夫婦は玄関に行くとそっと扉を開ける
「へへへ、上物が手に入りました、ここら辺の田舎娘とは天地の差がある程の極上の上物です!」
そう声をかけられ、屋敷の中に2名の剣を帯びた男が入ってきた
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