2章 精霊王

第22話 精霊王誕生

エストは地下牢の中に居たはずが、いまは土の中に居た


「ここは地面の中!?・・・俺は今地面の中を進んでる?」


鼻から香る匂いは間違えなく土の匂いだ・・・花壇に花を植える時に何度も嗅いだあの匂い


「しかも・・・息も出来てる・・」


息苦しさも無い・・ただ暗い土の中をザーザーというノイズ音のような砂の流れる音だけが耳に馴染まない


どの位進んだのだろう、エストは地下の空洞に到着した


空洞と言ってもエストが立ち上がっると天井に頭をぶつけそうだった、しかし残念ながら今のエストには手足が無い・・・


はずが・・・なんと今は手足が存在してる・・・いや両目も見えてる


あの地下牢で受けた拷問によって欠損した自身の身体が元通りに戻っている


「これは・・・やはり俺は地下牢で死んだのか?死後の世界か?」


数か月ぶりに自分の手足の感触を確かめながら狭い地下の空洞を前に進む


「死んだのに感覚があるのは不思議だな・・・そういうものなのか?」


地下なのに何故か周囲がぼんやりと明るい・・この空洞の壁面自体が発光してるみたいだ・・


暫く進むと明るく開けている場所に出る


「ここは・・・・地下なのに木が生えてる・・・それに天井が明るい・・・太陽の光か?」


そこは広大な空間の中央にそびえる様に生えてる大きな大木・・緑が生い茂りよく見ると赤や黄色の美しい実がなっている


その大木の根元には緑の芝が生い茂り、色とりどりの花が咲いていた


「美しい・・・・」


エストは引き寄せられる様にその大木の元に向かって歩き出す・・・周囲を見渡すと壁からは滝の様に水が流れ美しい虹が掛かっていた


途中途中にも珍しい植物が生い茂り、甘い香りのする実を付けている・・・幻想的な光景だ


「これは何て果物だろう・・・初めて見るな・・」


道すがら気になって果物の生っている木を見つけて、手で優しく果物を撫でると、果物はフルフルと震え枝から外れエストの手の中に落ちて来た


「えっ?・・誰かの大事な果物じゃ・・・仕方ない住人に返すか・・」


エストは果物を栽培してる人を探し辺りを見渡す・・・が人の気配はしない


「仕方ない・・後から謝るか・・・」


果物を手に中央の大木を目指す・・・・




〇地下大空洞  世界樹


「大きい・・・・」


近くで見るとその大木は想像を遥に超える大きさであった幹の太さは数メートルを超え、その幹からは光の粒子が溢れていた


「不思議な樹だ・・近くに居るだけ生命力が溢れてくる・・・死んでいるのに妙だが」


『この樹は世界樹 ユリシーズ様・・・・我ら精霊の源であり神でる』


「だ、誰だぁ!」


急に声が聞こえエストは周囲を警戒する


『ここだ・・・』


すると幹の中から、美しい女性が現れる・・・白いヴェールに白いドレス黄金に輝く長い髪、エメラルドの様な緑色の大きな瞳、見た目はエストと同じくらいの若い女性の様だが雰囲気だけで分かる威厳を感じる


「君は?・・・・」


『先ず自らが名乗るがよかろう』


エストは女性に見惚れながらも、はっ!と気付き膝と折り頭を下げる


「失礼した、わたしはエスト フォン ローファットと言うものだ」


『我は世界樹の守護聖の内、一角にして長、光の精霊 ファリス』


光の精霊?ファリスと名乗る女性の身体は透き通っており淡く発光していた


「精霊?精霊とはどういう物だ?俺は無知ゆえその名を聞き及んだ事が無いが?」


『さもあろう、そなた等の世界では我らは悪霊と呼ばれ邪悪な存在と認識されておる』


「悪霊・・・?」


『さよう、我らは世界の自然の摂理より生まれ世界樹のお力により世界に実体化した存在』


『我らはいたる世界に存在する、別の世界では神として祭られ、また別の世界では人々を導く存在、時には人々の力となる事もある』


「つまり・・・ファリス殿はこの世界とは別の世界より来られたと?」


『それは少し違う、この場所自体がすでに貴様の世界とは異なる別の世界だ』


「なっ!?それでは、やはり俺は死んでこの世界に迷い込んだのか」


『貴様の思考は悲観過ぎるな』


「っっつ・・・俺にも色々有ったんだ・」


『・・・まぁよい、貴様は迷い込んだのでも転生したのでも無い、世界樹によりこの場に呼ばれたのだ』


「世界樹に??」


【世界に仇成す者よ・・・我らと契約せよ】


「!?」


またあの時の声がする・・いや今はハッキリと聞こえる・・・世界樹からだ


「貴方が世界樹 ユリシーズなのか?」


エストは目の前の樹に語り掛ける


【である、世界に仇成す者・・・我が果実を口にせよ・・さすればその身に大いなる力を約束せん】


その時、世界樹の樹から黄色い果実が光の精霊ファリスの手の中に落ちてきて収まった


『エストよ、世界樹からの恩寵です有難く食すが良い』


そうファリスが黄色く輝く果実を俺に差し出す


「・・・俺は先ほどここに来る道中で群生していた、果実を一つ取ってしまった

本当は持ち主に返すつもりだったが、そういう事ならこれを頂こう、俺に大いなる力は不要だ、まぁ世界にとっても不要な存在だがな・・」


「俺を否定し苦しめた世界に復讐出来るなら有りがたく頂くがな・・・ふふ」


「・・・・・・」


エストの自嘲気味の苦笑にも全く表情を変えないファリスは黙って頷くだけだ


『そなたの手にその果実が落ちたのなら其れが運命であろう、無駄にする事なく食すがよかろう』


エストは自分の手の中にある赤い果実を見つめると、一口噛み付きその果肉を口に運ぶ・・・


「この果物は初めて食べる味だ・・旨い・・」


『・・・・・・・・・』


エストはあっと言う間に果実を食べた、種等が無かったのが意外だったが本当に美味だった


「ご馳走になったな、最後の晩餐にしては少し地味だが、これはこれで良い思い出になった、恩に着る」


「ファリス殿、そして世界樹、最後のもてなし感謝する、ありがとう」


そう頭を下げようとした所


『新たなる精霊の王の誕生だぁぁぁ』


急にファリスは大きな声で叫ぶと自身の身体から強い光を放ち広い空間全体が明るく輝く・・・すると


ファリスの声に反応するかの様に広大な空間のあちこちに巨大な気配が現れる、エストはその気配に警戒しながらもファリスの方に向き直ると





『我らが精霊王よ・・・光の精霊ファリス、御身に永遠の忠誠を誓います』





そうエストに向かって膝を着き頭を下げた


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