第21話 消されし存在

『世界に仇成す者よ・・我らと契約せよ』


突然頭の中に声が聞こえる・・・


「誰だ!?」


『世界に復讐せよ・・・お前は世界に否定された・・・だからお前も世界を否定せよ』


「復讐?」


『貴様は世界に、お前をこんな目に遭わせた奴に復讐をしたくはないのか?』


「復讐・・・したい・・・・したいに決まってる!!俺に復讐させろぉぉぉ!」


『では我らと契約せよ』


「復讐できるなら契約でもなんでもするさ早く契約させろ!!」


『では契約の対価を要求する』


「対価?くれてやる俺の持つものなら全てくれてやる、命でも魂でもくれてやるから俺に復讐させろぉぉ」


『よかろう・・我らが求める対価は・・・』


「・・・・・・・構わない対価を払おう」


『では・・・我らの世界に・・・』












〇ローファット邸 地下牢獄



「はぁはぁはぁはぁ・・・ミリア・・中々具合がよかったぞ?なんなら俺の妾になるか?」


「はぁはぁはぁ・・それは良いんですが・・ラウンド様へお許しを頂かないと」


裸のミリアがゼスに覆いかぶさって抱き付いていた・・・


「くくく、あんな老いぼれが俺に意見を言えると思うか?奴の魔術階位は初級、そして俺は上級だぞ?それに・・・まぁいいぃ」


「ゼス様ぁ・・それじゃ私を妾にしてくださいぃ」


「くくくっいいぞ?これからたっぷり可愛がってやろう・・・」


「ふふ・・楽しみです・・・っ??」


ミリアが牢獄の方を見つめながら何か異常に気付いた様だ・・・


「どうかしたか?ミリア・・・」


ゼスはミリアを自分の体の上からどかすと薄暗い牢獄の中を目を細め確認する・・


「エストの姿が見えないな・・・どこか月の光が届かない隅にでも隠れたか?」


ゼスはミリアに羽織っていたマントを渡し、それを体に巻き付けたミリアは入口に掲げてある松明を持ってエストの居た牢獄の前に立つ・・・


「居ない・・・天井も・・・壁際も・・・岩の下には・・・」


「どういう事だ?奴は確かに此処に居た・・・そして入口の前には俺とミリアが居た、誰かが牢に侵入して連れ去った形跡も無い」






その日の深夜、ローファット邸は騒動となった、常駐する騎士及び屋敷に勤める従者も全て駆り出し忽然と鍵の付いた牢屋から脱したエストを屋敷の中、敷地内を総動員で探し回った







「貴様らぁ何をしておるかぁ!必ず探し出せェェこの際死体でも構わん!」



屋敷の前にて髪の毛を振り乱し騎士や従者にそう激を飛ばすのは久しぶりに表に出て来たラウンドであった


その様子はかつての獅子を思わせる武骨な偉丈夫の面影は無く、やせ細り目元はくぼみ明らかに憔悴した様な雰囲気であった


「父上、この場は私が指揮を執りますどうかお部屋でお休みください」


ゼスがラウンドの前に膝を折り頭を下げながらそう告げると


「ならぬ!あの豚が・・・あのゴミがぁぁ奴のせいだぁぁ毎夜毎夜あの売女がぁぁ儂の枕元にぃぃ」


ラウンドは頭を掻きむしりながら支離滅裂な事を言い始めた



「父上・・父上は疲れておられるご様子・・・このままではお体に触ります【パンッ】誰かおるか!」



ラウンドの背後から側付きの騎士が2人現れラウンド・・・ではなくゼスに臣下の礼を行う


「父上は疲れておられるご様子、俺が仕入れた薬をいつもの側使いに言ってお飲み頂くように」


「「はっ!」」


そうゼスが命令するとラウンドの両脇を抱え持ち上げる


「なっ!離せ無礼者!!儂を誰と心得るっ!ラウンド フォン ローファットなるぞぉ!!はなせぇぇ!」


ゼスは屋敷の中に連れ戻されるラウンドに頭を下げながらもその口元は笑っていた


屋敷のドアが閉まるとゼスは振り返り、騎士や従者に告げる


「今宵は屋敷の中、敷地内をくまなく探し明朝より、猟犬による街や森の大規模な捜索を始める!」


「死体でも構わん、あのゴミ豚を見つけた者には豪華な褒賞を取らす! 皆励め!」



「「「おおおおぉぉ!」」」



(まぁ、あの状態で外に連れ出されても長くは持たんだろうがな・・・これでエストともお別れか・・俺の目的にまた一歩近づいたな・・くくく)



結局その夜、エストを発見する事が出来ず、翌朝の猟犬を使った大捜索にうつるもエストの足取りすら掴めないまま、エストは死亡とされた


エスト フォン ローフットは、亡き母、エレインと共にその生存していた記録すべてを抹消され名を口にする事すら固く禁じられた





帝国歴 513年・・こうしてグランディ帝国北方の地方領主である伯爵家に起こったお家騒動は一応だが鎮静化する事となった



1章 了

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