第14話 父からの拒絶
〇教会内にある収監室
エストは腕を後ろに縛られ、芋虫の様に冷たい岩の床を這いずって何とか入口のドアに体を押し付けながら立ち上がり格子の間から見える外の明かりに向かって大声で叫ぶ
「誰かぁぁここから出してぇぇ誤解なんだぁ説明させて欲しい!」
しかしどれだけ大声で叫ぼうが人が現れる気配は無い・・・
「誰かぁぁ、父上を、ラウンド フォン ローファット伯爵を呼んで下さいぃぃ」
呼びかけに答える様子は無いのでエストは必死に体当たりでドアを破ろうと試みるがぶつかる度に自分の肩が痛むだけだった
『エスト様を侮辱したお前を絶対に許さない!』
『エスト様・・・よく抑えてくれました・・・御立派です』
『エスト様?・・エスト様!・・・エスト様~・・・エスト様ぁぁ』
「ゼス・・・どうしてぇ・・・うっうっっ」
心から信頼していた親友の突然の変わり身をエストは未だに信じる事が出来ずにいた、きっと何かの魔法に掛かったのだ、いや女神の力の影響か・・それとも教会がゼスに薬でも・・
ドアに額を打ち付け親友と愛しい人との楽しい日々を思い出す・・・ポケットにはミリアのハンカチが・・しかし後ろ手で縛られていて触る事も出来ない
「なんでこんな事に・・ミリア・・助けてくれ・・・ゼスが・・・ゼスを何とか元に戻す方法を探さないと・・・」
【ガチャガチャ】
ドアの向こうのカギが解除される音がしエストはドアから少し距離を取る、すると目の前のドアがゆっくりと開き明かりの漏れる
ドアの外かから金色に輝く髪の二人が現れる
「父上?それと・・・ゼス?」
「助けに・・来てくれたんだねぇ!」
エストは目の前の二人に近づこうとするが・・・・
「寄るな!この穢れたゴミがぁぁ」【ドゴッ】
ラウンドに思いっきり頬を殴られ牢の中に吹き飛ぶ・・・
「っつ!?父上!?・・なんで・・・」
「無能・・いや・・・汚いゴミか・・気安く人の父親の事を「父上」など呼ばないでもらおうか」
「え?何?何をいってるのゼス・・・父上は僕の父上・・・何か仰って下さい・・父上ぇ」
そう訴えるように見つめる父親の目は汚物を見る様な冷たい目をしていた
「ゴミがぁ・・誰がお前の父だ・・汚らわしい・・我が息子は此処に居るゼス フォン ローファットただ一人・・貴様の様などこぞの豚が交尾して出来た家畜が息子など冗談にもほどがある」
「おい」
ゼスが看守に目配せすると、2名の看守がエストの身体を押さえつけ地面に組み伏せると、もう一人が鎖の付いた首輪をもってきて、嫌がるエストの首に巻き付けカギをかける
看守から鍵を渡されたゼスはカギの持ち手についているリングに指を入れクルクルと回しながらエストを見下した目で見る
「くくっ・・豚を飼う貴族というのも斬新で面白いと思いませんか?父上」
そう邪悪な笑みを見せるゼスの事を引きつった笑顔で見つめるラウンド
「ま、まぁ儂はあまり趣味ではないがな、ただこの豚を放置は出来ぬ我がローフット家の名に泥を塗る事になる・・・始末するにしても他の家の者に気付かれない様に進めんとな」
父親の口から出た言葉に絶望するエスト
「始末・・この私をですか!?父上どうしてぇ?私の至らぬ点は改めます!これからも父上のご期待に・・・ガハッ!」
途中でゼスに顔面を蹴り飛ばされ鼻から大量の血が流れる
「あぁ~あ・・・汚い豚の血で靴が汚れてしまいました・・・父上帰りに新しい靴を買って帰っても宜しいでしょうか?」
「っつ・・ゼ・・ゼス・・・なんで・・・こんなひどい・・」
地面に転がりながらゼスを見上げるとその口元が邪悪に歪み笑みをこぼす
「お前等・・・領民や他の者から見えない様に袋をかぶして荷馬車に繋いでおけ」
そうラウンドが看守に指示を出すとゼスを伴って出て行った・・・・
其れからエストは看守たちに砂袋を被せられ鎖を引っ張られどこかに連れていかれた・・砂袋の中の真っ暗な空間で右も左も分からないが音だけ聞こえる
何やら周りが騒がしくなったと思ったら鞭で馬を叩く音が聞こえ次の瞬間に自分の首が前に引っ張られる
「グヘッ」
首の骨が折れるかと思う程の衝撃を受けバランスを崩したエストは倒れ込むがお構いなしに馬車は進む、砂袋越しに自分が引きずられてる感覚があった
「く・・首がぁ・・・折れる・・」
なんとか体制を入れ替えようともがくが腕が後ろで縛られており思うように体が回らない・・・
それからエストは馬車が停止する都度起き上がろうと試みるが足の力だけではうまく起き上がれない
首の骨が軋み、動脈が締まりその影響で途中から意識を無くしていたようだった
気が付くと・・・・
「此処は・・・・」
エストは以前に一度だけこの場所を訪れた事があった
「ここは・・・ローファット邸の地下にある・・牢獄・・」
最近は使われて無かった様だが、祖父にあたる先代は、良くここに気にいらない平民を閉じ込め拷問していたらしい
身体を見ると両腕の拘束は解かれ身動きはとれる様になっていた
エストは鉄格子を掴み思いっきり引いたり押したりして見るがビクともしない
「だれかぁぁぁ誰か居ないかぁぁ私だぁぁエストだぁぁ誰かぁぁミリアぁぁ」
必死に呼びかけるが、地下牢には誰もおらず空しく地下の薄暗い空間にエストの声が木霊する
「は、はは・・・あはは・・これは・・夢だ・・そう夢だよ!昨日緊張して寝れなかったからきっと馬車に揺られて寝ちゃったんだ・・そうだ・・もう一度寝たらきっと・・」
「エスト様・・エスト様・・起きて下さい・・そろそろ到着しますよ・・」
「う、ううぅん・・ゼス?」
眠い目を擦るが、視界がぼやけてよく見えない・・ぼんやり見える人影の声は自分にとって唯一無二の親友
「ゼス・・酷い夢を見たよ・・・・」
「それは、いけませんね・・・でも、もう大丈夫です、安心してください」
「ふふ有難う・・ゼス・・もうしばらく寝かせてくれ・・着いたら・・お・・こ・・し・・」
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