第13話 ゼスとラウンドの会談


目の前に居るゼスは本当にあのゼスなんだろうか・・・女神の力でもしかしておかしくなったのかも知れない


「ラウンド様、ものは相談ですが・・・・私を養子として迎えないですか?」


「なっ!?」


「ゼ、ゼスぅ!?」


二人の反応を嬉しそうに口元を緩めてニヤリと笑うゼス


「ラウンド様、これは女神ゼレニス様からのお言葉なので、この場で詳細にはお話し出来ませんがこの後で二人きりでお話しする事はできませんか?」


「・・・女神様の・・ぐぅぅ・・・判った・・・話を聞こう」


「有難う御座います・・・ところで・・ラウンド様が踏みつけている・・・【無能者】は如何いたしますか?」


ゼスのあり得ない言葉に驚く


「む、無能者!?ちょっと待ってよ・・ゼス本当にどうしちゃったの?もしかして女神から天啓を受けた時に何か・・・【バギッ】・・ガハッ!な・・何を・・・」


ゼスに語り掛けるもいきなり頬を殴られた・・・無能者と呼ばれた事より親友から理不尽に殴られた事が悲しくて・・怖くて・・涙が零れる


「【無能者】が卑しくも全能なる女神ゼレニス様を呼び捨てにするとは・・・死にたいのか?」


違う・・こいつはゼスではない・・・誰だコイツは・・・


「おまえは違う!ゼスを・・ゼスを返せェ・・・ゼスの身体から出ていけぇぇううう」


「司祭様、先ほどの女神様のお言葉によるとこの無能者は女神ゼレニス様の作りたもうたこの世界に仇成す存在・・・このまま放置しておいては女神ゼレニス様のご意向に反するのではないでしょうか?」


ゼスの呼びかけに頷く司祭は手を上げると教会内外で待機していた武装した神官が突入してきてエストを拘束する


「なっ!?エストを・・息子をどうするつもりだぁ!」


側に一人の神官が現れラウンドに告げる


「ローファット卿、貴方の息子さんは最初から存在してません・・・ここに居るのは【無能者】でただのゴミです」


「父上ぇぇ」


エストは武装した神官に腕を後ろに拘束され、女神象の間から連れ出されて行った


息子を見送りながら肩を落としへたり込む、ラウンド・・その背後からゼスが声をかける


「ラウンド様、教会の方があちらに個室を用意くださったのでそこでお話しさせて下さい」


ラウンドは仕方なく目の前の平民の豚の後をついていった


「まさか・・・雷光が顕現するとはな・・・」


雷光は司祭の話した通り、雷系統で最上位である上級に位置する魔法系だ、電撃、轟雷、そしえ雷光と後ろに行くほど上位となる


元々雷系の魔法自体が希少であり、その上級ともなるとそもそも顕現した記録すら少ない


上級というのは強い血統因子に受け継がれる傾向から皇族にしか発現しないとされてる・・つまり侯爵・公爵・皇族だ


そんな中でも上級を顕現出来るのは、ほんの一握りでありその殆どが中級止まり

もし皇族の中で上級を顕現出来た場合は国の重鎮として宰相や軍務尚書など要職の席が約束される


また女性が顕現した場合は、次期皇妃として迎え入れられる程だ


それほどまでに上級という魔法系統は特別であり強力であった



〇教会内の応接室


「で、人払いまでして話と言うのは何だ?内容次第では容赦せぬぞ!」


目の前に座るゼスに対し怒りの籠った目で睨み付ける


「まぁそう警戒しないで下さい、私は女神ゼレニス様より賜ったお言葉を伝えるだけです」


「その言葉に嘘偽りは・・・」


ゼスは真剣な眼差しでラウンドを見つめ


「私は女神ゼレニス様のお名前を出してお伝えしてます・・ラウンド様であればこの意味お判りでしょう?」


「ふんっ!まぁ良いだろう・・・豚の戯言に付き合ってやろう」


「まず、あの顕現の儀にて私は女神ゼレニス様よりそのお力の一端を与えられました、そして、その力で世界に仇成す者を神罰の雷を以って排除する様にとも」


「世界に仇成す者・・・確かに・・儂もゼレニス様のお言葉にそのような話が有ったと記憶してる」


ゼスは口の前に両手で祈る様に拳を握りテーブルに肘をついて俯き気味に語った


「そう、あの場にて女神ゼレニス様は【無能者】エストを、その世界に仇なす者と仰り自身の天啓を与える事を拒否されました」


「くっ・・・・あれは・・・何かの間違いで・・もう一度儀式を・・」


ゼスは俯いたまま軽く首を振る


「それはお勧めしません、そもそもその様な事例も無いですよね?ゼレニス様の審議に疑問を持つ様な事をしてはご不興をかい、どんな罰が下るか想像も出来ません」


「くっ…」


「それと・・これは大事な事なので心してお聞きいただきたいのですが、【無能者】つまり貴方の息子とされてるエストは実はあなたの子供では無いと言うのがゼレニス様から聞かされた真実です」


ラウンドは、その言葉に驚愕し有り得ないと首を振る


「亡くなられた方の事を悪く言うのは心苦しいのですが・・・エレイン様は・・」


「なんだ!?妻が何だと言うのだ!」


ゼスとは面識の無いはずの亡なった妻の名前が急に出て来て慌てるラウンドは何か言いにくそうにしているゼスに詰め寄る


「エレイン様はラウンド様以外の男性・・・しかも下民である豚と関係をもたれて、その際に懐妊したのがエスト・・・【無能者】だと・・・」


「ばっ馬鹿な、エレインは体が弱く屋敷の外に出る事など出来なかったんだぞ!」


「ラウンド様・・・エレイン様はラウンド様の雷系と同じく希少な闇系の初級魔法・暗闇をもっておられたとか・・・・」


「だから何だ、それがどう・・・・まさか!?」


「そのまさかです・・・闇系の魔法で自分の姿を屋敷に出入りする者の影に隠して屋敷の外に・・そして、あろう事か下民の豚に体を許して居たと・・女神ゼレニス様はそう仰っていました」


「・・・・だからか・・だからエストに魔法が顕現せず・・さらに女神ゼレニス様より不要な存在だと・・そう・・そう言う事か・・・」


徐々にラウンドの表情が怒りに染まっていく


「あのぉぉぉ売女ぁぁぁぁあれだけ目を掛けて大事にしてやったのにぃぃぃ恩知らずがぁぁぁ」


興奮し大声を上げるラウンドを見て組んだ腕で隠した口元がニヤッと笑う


「それともう一つ・・・この私ゼスは亡くなった母親しか知らない片親です、私の母は、以前住んでいたローファット領の町で貴族様の夜の相手をしたそうです・・・」


「ま、まさか・・・お前が儂の・・・」


「はい、ゼレニス様の仰るには私こそがラウンド様の血を受け継いだ実子であると」


ゼスの話す内容があまりに想像を超えておりラウンドは目先の情報を整理するので精一杯であった


「まて・・それはおかしい、そもそも魔法は魔法を使える者同士の間から生まれた子供にしか受け継がれない・・・貴様の母親は・・・」


「はい私の母は下民で御座います・・しかし・・光系の初級にも届かない弱い魔法を使えました」


「なっ!?まさか・・・どこぞの貴族の落胤か!?」


ゼスは首を振り、母の素性を知らないので、その質問には答えられないとラウンドに告げる




「そこで先ほどの話しです、ラウンド様この私ゼスをローファット家の養子に迎えませんか?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る