第3話・未知の宇宙〈ソラ〉に行きたかったら……あたしに乗ってください

[今までのあらすじ]

 ボクの住む村に空から大きな船とロボットがおちてきました。

 ヤジ馬で見に行ったボクは、しゃべる金属の三ツ首のガルムをひろいました。

 ガルムを機械の体にもどしてあげようと、よじのぼったボクはうっかりガルムを落としてしまいました。

 落ちていくガルムの声が聞こえました。

《馬鹿野郎! 落とすんじゃねえ!》


  ◆◆◆◆◆◆


 落ちていくガルムの金属片……その時、ロボットの体を跳ね登ってくる奇妙なボール状の生き物たちが、ラチェットの目に映った。


 少し楕円曲線が入った、サッカーボールほどの大きさをしている四本の手足が生えた、頭だけの球体生物が四体。

 ミイラ男のような包帯を巻いた生物。

 ヴァンパイヤのような生物。

 オオカミ男のような生物。

 カッパのような頭の生物の四体が、ピョンピョン跳ねながら落ちてきたガルムの金属片を巧みなヘディングで繋いで、ラチェットの手にもどした。


 ラチェットは、ロボットの座った足元でこちらに向かって笑顔で手を振っている、ゾンビ色の肌をした聖女を見た。

 四体の奇妙な生き物たちは、その腐った聖女の仲間らしかった。

「どこの誰かはわかりませんが、ありがとうございます……えいっ!」

 細い縦穴にガルムの金属片を押し込むと、カチッと音がして。ロボットガルムの目が光り、幾何学な光りの線がガルムの機体に走る。


 真ん中の首が叫ぶ。

《オレさま、ふっかーつ!》

 一ツ目の首が、紳士的な口調で言った。

《君が助けてくれたのか……感謝する》

 三ツ目の首が、オネェな口調で言った。

《坊やが稼動させてくれたのね……うふッ、ありがとう》

 二ツ目のガルムが言った。

《ラチェット、オレの手の平に乗れ地面に降ろす》

 ラチェットが地面に降りると、ガルムが吠えて立ちあがった。

《ウオォォォォォオ!》

 超異世界女型要塞【プルシャ】の方も、船体に幾何学な光りの線が走り、地鳴りが響き渡る。

《三ツ首ガルムの勇姿、とくと拝みやがれ!》

 ガルムは、戦槍を構え超異世界女型要塞【プルシャ】姉型を守護する。

 落下時に船体に付着したプルシャの土砂が、振動で払い落とされ。

 プルシャのシャッター型のドアが開く。プルシャの中から女性の声が聞こえてきた。

《星々が煌めく魅惑の未知の宇宙に行きたい、異世界の方は開いた入り口よりプルシャの中に、お入りください》

 領主の雇われ兵士たちが、先を争っているプルシャの船内に突入する。

「どけっ、この船はオレたちのモノだ!」

「オレたちを、こき使う領主なんざ知ったこっちゃねぇ!」

 プルシャの中から風圧で兵士たちは、船外へと吐き出された。

 プルシャの声が聞こえてきた。

《あなたたちは、嫌い……他の方、お入りください》

 次々とプルシャの中に飛び込み、風圧で選別されて船外へ吐き出される異世界人たち。

 プルシャの好みで選ばれた者だけが、入るとシャッター形式のドアが閉じられプルシャの声が聞こえてきた。

《定員数に達しましたので、ドアを閉めさせていただきます……ありがとうございました》


  ◇◇◇◇◇◇


 船内に入った、カミュやラチェットたち異世界人は、動く歩道で広い広場のような場所へと運ばれた。

 そこは、木々が生い茂っている楽園エデンのような場所だった。鳥や動物の鳴き声が聞こえ小川のせせらぎも聞こえていた。

 木に生っていた見たこともない果実をもぎ取り、かじりながらカミュが言った。

「あのバカでかい船の中に、こんな場所があるとはな……驚きだな」

 未知の果物を食べているカミュに、心配そうなラチェットが言った。

「あのぅカミュさん、あまり知らない食べ物は食べない方が」

「どうしてだ?」

「どうしてって……毒が含まれているかも知れないですし」

「大丈夫だよ、オレが創ったモノだから毒があるかどうかは分かっている」

「えっ? 創った?」

 果実を食べ終えたカミュが、失言をしたという顔をする。


「おっと、口が滑った……忘れろ、この世の中は不条理に満ちている」

 カミュの背負っている大剣から光りの筋が迸り、その場に居た者たちの記憶から、カミュが果実をもぎ取って食べた記憶が消滅した。


 何事も無かったような顔で、神殺しのカミュが言った。

「オレを含めて数名が、宇宙船に選ばれてみたいだな……どうだ、自己紹介しないか。互いに名前を知らないと困るだろう。まずはオレから……オレは〝神殺しの〟カミュだ、ただの雑魚ザコだ」


「ラチェット・レンチです。北方地域の技術者です」


「ヌクテ・メロン……時の女神です」


 少し浮かんだ大鍋に乗ったヤンキー風の女性が言った。

「島から来た、メリノ・ウールだぜ。メリノでいいぜ。エルフ王女でヌイグルミ魔法使いだ、よろしくぅ」


 大きな荷物を背負った三角帽子の魔女が、ペコリと頭を下げて自己紹介をする。

「えーと、西方地域から来た。サーカディアン・リズムです……リズムって呼んでください、未熟な人造人間の魔女です。よろしくお願いします」


 芝生のような床に胡座あぐらをかいて、巨大な戦斧の柄を布で磨いている。センザンコウの皮鎧を着た小柄な少女が言った。

「ボクは、ミスジ・ハラミ……南方地域の蛮族料理人、食材の調理ならボクに任せて」


 カミュが背中を向けて座っている、サムライ風の男に向かって訪ねた。

「あんたの名前はなんて言うんだ? さっきさから、ずっと背を向けて座ったままだな?」

「拙者の名前でござるか」

 振り返ったサムライの顔には単眼があった。

 カミュが言った。

「単眼種族の一つ目サムライか、この異世界では珍しくない」

「驚かないでござるか……良かった、拙者の顔を見た者の中には、恐怖に悲鳴をあげる者もいるので……拙者の名前は【シノギ・狂四郎】東方地域の武芸者でござる。武者修行の身でござる」

 そう言って狂四郎は、一つ目を隠すサングラスを装着した。


 次に自己紹介をしたのは、球体のモンスター生物を連れた顔色が悪い聖女だった。

「あはっ、あたしの名前は【ドール・ジ】……ドールと呼んでね。腐ったゾンビ聖女でーす。癒やしの聖なる力で傷を治してあげまーす」

 ラチェットがドールに礼を言う。

「さっきは、助けていただき、ありがとうございます」

「あはっ、どういたしまして」


 最後にオーク色の顔色をした、頭の左右に巻き角を生やし、下顎から逆さ牙が生えている。

 腰帯に日本刀、手には破れ蛇の目傘を持ち作務衣さむえを着たオークの美女が自己紹介をした。

「オラの名前は【リュウガン・ヤゲン】……ヤゲンって呼んでくんろ。中央湖地域の山村に住んでいたオークの女医だぁ、オラの母親は人間の女なので、オラが人間の姿なのは母親似だぁ……ぜら」

「ぜら?」

「語尾のぜらは、オラに医術を教えてくれた先生が〝ぜら村〟の出身だったから、いつの間にか語尾のクセになったぜら」


 カミュが自己紹介を済ませた者たちを、見回して言った。

「これで全員かな?」

 メリノが茂みを指差して叫ぶ。

「まだ、一人残っているぜ! 茂みの奥に兵士が一人隠れてやがる」

 カミュが茂みに中で震えていた男の首根っこをつかんで、引っ張り出す。

「ひっ! 見逃してください! 兵士の仲間のノリにつられて突入したら、なぜかオレだけ排出されなかっただけなんです」

 気弱そうな男だった。

 男の顔をじっと見ていたカミュが、男に向かって言った。

「久しぶりだな、その様子だと約束は忘れているみたいだな」

「どこかで、お会いしましたか? 記憶にないのですが」

「すっかり、忘れちまったか……まぁいい、おまえ名前は?」

「【イケニエ】です」


 苦笑するカミュ。

「おまえらしい名前だな、おまえの人生の目的とか目標はなんだ?」


「いきなりなんですか、そうですねぇ自堕落な人生を歩んで楽して何も努力しないで、成り上がって──自分には本当は秘めたスゴいスキルがあって。そのスキルを利用して自分をバカにして追放した連中に復讐のザマァして、女を服従させる力でハーレム作って……王として君臨して」


 カミュの鉄拳がイケニエの腹部を強打して、イケニエの体から抜けた魂がゴム紐で体と繋がっているように、ビョーンと伸びてから元の体にもどった。

「げほっ?」


 イケニエを殴ったカミュが言った。

「わりぃ、話しを聞いていたらイラついてきて、思わず殴っちまった……許せ」

「あなたは、イラつくと人を殴るんですか!」

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