第2話・落下物の所有権は誰?自我を持って自己主張する超巨大要塞船と巨大ロボット

 ラチェットは、ガルムの金属片をポケットに入れると。超異世界女型要塞【プルシャ】姉型と、三ツ首のガルムの機体がある落下地点へと向かった。

 落下地点周辺には、すでに商根たくましい者たちが屋台や露店を出して、屋台村や露店村ができていた。

「さあさあ、いらっしゃい! バロメッツ村名物のバロメッツの串焼きだよ、美味しいよ」

 盗賊の娘が、串に刺したバロメッツの肉を焼いて売っている傍らには、やたらと頭がでかい男が盗賊の娘が愛用している丸太を抱えて控えている。

 

 ラチェットは、天幕が張られた野外食堂の席につくと、さまざまな食べ物が売られている屋台や露店から、好みの食べ物をチョイスして買ってきて食べはじめた。

 ガルムが、薄くスライスした雪トドのシャリシャリとした食感の生肉と、腹部を開いて内臓を抜いて丸焼きした海モグラを食べているラチェットに訊ねる。


 《それ、美味いのか?》

「雪トドのスライス肉は、北方地域ではポピュラーな料理で真夏に、凍った状態のまま食べられているよ……海モグラの丸焼きは南方地域の郷土食、ハチミツを使った甘めの味付けが絶品」


 《ふ~ん、ところで本気でオレを本体にもどす作戦があるなら、聞かせてもらおうじゃないか……これだけ、群衆がいる場所じゃ近づくだけでも大変だぞ》

「何か騒動が起これば、その状況を利用してガルムの機体に近づく機会も」

 《おいおい、ずいぶんと他力本願の消極的な作戦だな》


 ガルムとラチェットが、そんな会話をしていると。

 近づいてきた兵士集団の一人が威圧な口調で言ってきた。

「今、あの空から落ちてきたモノのコトを、その変なモノと話していたな」


 ラチェットが、胡麻化すより先に、変なモノと言われた三ツ首のガルムが自己主張する。

 《変なモノとはなんだ! オレはあそこに座っている。空から落ちてきたロボットの頭から、飛び出しちまったパーツだ!》

「ほぅ、そうか……この村の領主さまの土地に落ちてきたモノの所有権は領主さまにある。そのしゃべる金属をこっちに渡せ」

 ラチェットが、ガルムを手でかばうと。手の中でガルムが兵士に強気の発言をする。

 《取れるもんなら、取ってみやがれ。このヘタレ兵士がぁ!》

 泣き出しそうな顔のラチェット・レンチ。

「ガルムは少し黙っていて!」


 ラチェット、絶体絶命のピンチに救世主が現れた。

「この地域に領主がいたなんて初耳だな、いくら領主でも。少し強引じゃないのか」


 ラチェットから、少し離れた席で食後の軽い飲酒をしていた、戦士風の男が立ち上がった。

 背中に毛皮の鞘に入った幅広の大剣を背負い、両腕には金属のアーム攻防具が装着されている。

 男の向かい側の席には、女神のような格好をした女性が飲み物を飲んでいる。


「あの空から落ちてきたモノにも、落とし主の存在とか、モノの自己主張があるんじゃないのか」

 兵士が言った。

「なんだ、おまえは?」

「オレか、オレの名前は〝神殺しの【カミュ】〟という、ただの雑魚ざこさ」

 質問をした兵士の顔色が変わる。

「か、神は殺しのカミュだと! なんでそんな危険人物がこの中央地域に!」

「空から落ちてきたバカでかいモノを見たくてな……もしかしたら、神がいるかも知れないと思ってな」


 カミュは天を指差して言った。

「神は死んだ……世界は不条理に満ちている」

 カミュが、ラチェットの方を見て言った。

「少年、名前はなんて言うんだ?」

「ラチェット・レンチ……ラチェットって呼ばれている、北方地域から来た技術者だ」

 《俺の名前は三ツ首のガルム》


「そうか、ラチェット……おまえは、そのガルムを三ツ首の巨人にもどしたいんだろうろ……オレが協力してやろうか? オレは雑魚だけれどな、どうする?」

 《おう、頼むぜ……ラチェットは技術者の腕前は一流だが、ケンカの腕前は三流以下みたいだからな》

「なんでもいいから、助けてください」


 カミュが金属の拳を打ち鳴らす。

「面白くなってきやがった……どこからでも遠慮なくかかってきな、ヘタレ兵士ども」

 長剣を引き抜く兵士たち。

「バカにしやがって!」

「やっちまぇ!」


 剣でカミュに斬り掛かる兵士たち、カミュは瞬時に兵士たちの横を通過して、拳を突き出す。

 兵士たちの体から残像の魂が一瞬抜けて、すぐに元の体にもどる。

 奇妙な感覚に愕然とする兵士たち。

「なんだ? 一瞬、体から魂が抜けたような?」

 カミュが言った。

「オレが本気で拳を突き出していたら、確実におまえたちの魂が抜けて死んでいたぞ……ラチェット、ガルムの本体まで走るぞ」

 走り出したカミュとラチェットの後を追って、雇われ兵士たちも走る。


 カミュとラチェットの後を追って、天幕の食堂席を走る後方の兵士のスネを椅子に座って食事をしていた、

 東方地域のサムライ風の男が持っている刀の鞘で故意に横殴りに払われ、数名の兵士が転倒する。

 着物姿で後ろ髪を縛った、東方サムライが一言。

「失礼したでござる」

 そう言って、振り向いたサムライの顔を見た兵士の口から悲鳴が漏れた。

「ヒィィィィィィ!」


  ◇◇◇◇◇◇


 見物人の群衆を押し分けて、ガルム本体の座った足元に到着した。

 カミュがラチェットに言った。

「登れ、早く」

 三ツ首のガルムの機体を、よじ登るラチェット。

 《オレの体から落ちるなよぅ、どうだ登りにくいだろうオレの体は》

「ガルムは少し黙っていて」

 ラチェットが下を見ると、かなりの高さまで登ってきていた。

 地面ではカミュが追ってきた兵士たちを、食い止めていた。


 兵士が叫ぶ。

「小僧を巨人から引きずり落とせ!」

「させねぇよ、ラチェット早く頭まで登れ」

 カミュと兵士たちが争っている場に、天幕食堂でカミュの前の席で飲み物を飲んでいた女神が、息を切らして追ってきた。

「カミュさま、酷いですぅ。いきなり女神の、あたしを置いて走り出して」

「メロンを女神だなんて、オレは認めていないからな」

「ひどーい、神をぶっ倒すのが趣味で目的の方から女神と認めてもらえないのは屈辱です。認めてもらうまで離れませんからね」


 女神【ヌクテ・メロン】こと、メロンは少し怒った顔で頬を膨らませ手言った。

「いいでしょう、時の女神の実力をカミュさまに見せてあげましょう」

 兵士に向かって、立ちふさがった、メロンが言った。

「こんにちは女神です……この時の女神、ヌクテ・メロンの力を知りなさい……そして、あたしを畏怖しなさい」

 時の女神と聞いて、少し動揺する兵士たち。

「時の女神だと」

「ヤバイぞ時間を止められて……何をされるか」


 メロンが広げた手の平を兵士の方に向ける。

「いまさら、女神に謝っても遅い。時間よ止まれ」

「うわぁぁ」

 身構える兵士たち……何も起きない。

「アレ? なにも起きないぞ?」

「すでに、何時間も時間が止まっていて……オレたちが、そのコトに気づいていないだけか?」

「ちょっと、待て? この女神なんか様子が変だぞ?」


 メロンは、手の平を広げた格好で停止していた。

「うわぁ? 時間が止まるって、女神の時間の方が止まるのか」

「使えねぇ能力」


 数分後にメロンは動き出して胸を押さえて言った。

「時間が止まっている間に、エッチなコトをしたでしょう……あたしの服を脱がしたでしょう……この変態ども」

「してねぇよ、そんな変態じゃねぇよ」

「どうだか、この前なんか。時間を止めたあたしの体が、川の中に放り込まれたコトもあった」

「知らねぇよ」


  ◇◇◇◇◇◇


 カミュがメロンと平氏たちのやり取りに笑いながら言った。

「はははっ、おもしれぇ…メロン、時間稼ぎはもういいぞ。ラチェットが、デカブツの頭に到着した頃だ」


 カミュが言うようにラチェットは、巨大ロボットの真ん中の首の側面に必死でしがみついていた。

 金属片ガルムが言った。

 《その、細い縦穴スリットにオレを差し込め……落とすなよ》

「なんとか、がんばって登ってきたけれど……もう、限界。指先に力が入らない」

 《根性出せ! 眼の前の細い縦穴にカチッと音が聞こえるまで、オレを押し込むだけでいいんだよ》

「なんとか、やってみる」


 ラチェットは震える指で、ガルムの金属片を縦穴に押し込もうとして……失敗して、ガルムの金属片が手から離れ地面に向かって落下していくのが、スローモーションで見えた。


 落ちていくガルムの金属片から、ガルムの声で。

 《馬鹿野郎! 落とすんじゃねえぇぇ!》

 そんな怒鳴り声が、ラチェットの耳に届いた。

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