第4話・仮想体のプルシャ姐さんは……なぜかビキニアーマー姿(あんな極小の水着で防御できるはずがない?不思議な力でも無い限りは)

 全員の自己紹介が、一通り終わると樹木が左右に分かれ金属の道が現れた。

 床に三角形の矢印のようなモノが現れ、女性の声が聞こえてきた。

《道標に従ってお進みください、あたしのブリッジへご案内します》

 カミュたちが通路を進んでいくと、シャッターが閉じられた商店街のような通りに出た。

 ファストフード店のような店から、家電量販店のような店まで、さまざまな店舗が両側に並んでいる。

 ラチェットが呟く。

「どうして、こんな商店街が船の中に?」

 ナゾの女性の声が聞こえて、ラチェットの疑問に答える。

《それは、以前あたしに乗っていた乗員のみなさんための店舗です……あの頃は船内も華やかでした》


 カミュがナゾの声の主に言った。

「どこかで、オレたちを監視しているんだろう、姿を現したらどうだ」

《すみません、今は容姿がまだ定まっていないので……みなさまが、ブリッジに到着したら、お会いできると思います……ところで、イケニエさん。あなたの好む女性の髪型はどんな髪型ですか? 髪色は?》

「なんで、オレに質問を……そうだな、髪色は水色で片目を髪で隠している女が好みかな、後ろ髪は二本の太い三つ編みで」

《わかりました、ブリッジに到着したようです》


 一行の前方にある扉が開くと、メカニックな管制ブリッジが現れた。

 前方には大小の巨大スクリーンがあり、各種のメーター類や空間や次元のレーダー計器が見えた。

 階段状ブリッジの一番先頭の席に座っている、一人の女性がいた。

 振り返った女性が飲み物が入った、金属ボトルのキャップを開けて中の液体を飲みながら言った。

「プルシャ姐さん、本当に異世界人をブリッジまで案内してきちゃたの……まっ、あたしは別に姐さんのやるコトに口出しはしないけれどね……あたしの名前は【パイ・ライト】管制ブリッジのオペレーターの一人、パイでいいよ……ふぅ、暑い」


 いきなり、パイは皮を脱いだ……皮の下から金色の肌をしたパイが現れる。

 ア然としている異世界人たちに向かって、金属ボトルに入った金色の飲み物を飲みながら横目でパイが言った。

「あたし〝金属生命体〟ですけれど……それが何か?」

 ラチェットが質問する。

「金属生命体って、ロボット? 分解させて」

 パイの口から黄金色の液体が、勢い良く吹き出す。

「プハァ、あたしロボットじゃないから……臓器は金属色なだけだから」

 今度は、ヤゲンが興味津々でパイに聞く。

「だったら、オラに開腹させてくれぜら。一度、金属色の内臓を見てたいぜら」

 二回目の吹き出し。

「プハァ、ぶっ飛ばすぞ異世界人」


 パイは、ブリッジ内を見回して言った。

「ところで、ここに来る途中で上半身が人間の女で、下半身が触手タコの宇宙人を見なかったか?」

 カミュが答える。

「見なかったな」

「行き違いか……また、ピピのヤツ、船内で迷子になっているな」


 その時、ブリッジの自動ドアが開き泣きそうな声で、下半身が触手タコの宇宙人少女が入ってきた。

「グスッ、パイ見つからなかったよぅピピ。異世界の人たち……どこに行っ……えっ⁉」

 カミュたちを見て、驚く下半身触手タコ宇宙人少女【ピピ・リマ】──ピピは、なぜかイケニエに、向かって電撃を放つ。

「電撃ショック! ピピピ」

「うわぁぁぁ、なんでオレにだけ!」


 電撃を放ち終わったピピは、床に額を擦りつけるほどの土下座をした。

「ごめんなさいピピ、あたしはビックリすると体から放電しちゃうんだピピ」

 カミュが苦笑する。

「それなら、しかたがないな」

 床にくすぶって倒れているイケニエが小声で。

「しかたがないで、何も無かったように片付けるな」の、声が聞こえてきた。


 パイが言った。

「今、通信が入りました。プルシャ姐さんの準備が終わったようです、その辺りに現れるます……仮想現実のイメージ体になって」

 パイが指差した場所に光りの円が出現して、円の中に一人の女性が床から生えるように回転しながら現れた。

 片目を前髪で隠し、太い二本の三つ編みの後ろ髪。

 髪の色は水色をしている。

 女性はなぜか、ビキニアーマー姿で洋剣を剣帯に吊り下げていた。

 女性が微笑ながら。言った。

「はじめまして異世界の皆さん、超異世界女型要塞【プルシャ】姉型です……イケニエさん、どうですか? この髪型と髪色で合っていますか?」

「おおお、オレの希望通りの姿! でもどうしてオレの好みに合わせてくれたんだ?」


「あなたの思考パターンが単純で、読み取りやすかったので……それにしても」

 プルシャはビキニアーマーの下を指で前方に引っ張って、首を

かしげた。

「こんな、心細い布に防御力があるのが不思議です」


 狂四郎が刀の鞘の先で、ビキニアーマー姿のプルシャを軽く横に払ってみた。

 プルシャの仮想体は少し乱れただけで元にもどり、鞘の先は素通りする。

「ムダですよ……この仮想体は幻みたいなモノですから、皆さんと直接会話をしたかったので。この姿になって現れました」


 その時、プルシャの極小ビキニブラから、三ツ首のガルムの声が聞こえてきた。

《よっ、ラチェット……無事に姐御に選ばれたみたいだな》

「ガルム⁉ どうして、そんな場所から声が?」

 ラチェットの質問にプルシャが答える。

「ガルムも、皆さんと船内で直接会話をしたいと言って、ビキニブラを通信仮想子機にして会話をしているんです……ちなみに、あたしの通信仮想子機はココ」

 そう言ってプルシャは、またビキニアーマーのパンツをビョーンと、前方に引っ張り伸ばしてみせた。


 引っ張っていたビキニアーマーパンツをパチッと、元の位置にもどしてプルシャがパイに言った。

「パイ、例のモノをラチェットさんに」

「わかりました、はいコレ……プルシャ姐さんからのプレゼント」

 ラチェットが受け取ったのは、ガルムの頭に押し込んだのと酷似した金属片だった。

「これは?」

 ラチェットが眺めていると、いきなり金属片からもガルムの声が聞こえてきた。


《ラチェットは、頼りないからな……俺さまが一緒にいてやるよ》

《うふっ、これからはラチェットくんと、いつも一緒》

《何か困ったコトがあったら、気軽に相談してください》


 ラチェットは不思議そうな顔で、ビキニブラと手にした金属片を交互に眺める。

 ビキニブラから、ガルムの声が聞こえてきた。

《ジロジロ見るんじゃねぇ、オレは船外で姐御を守っている機体本体と同時に、ビキニアーマーブラとラチェットが持っている金属片の両方にも存在している……どうだ、便利だろう》


 プルシャが、ビキニアーマーのパンツをスピーカーにして言った。

「皆さんは全員、宇宙へ旅立つ意志がある方々とお見受けして選択しました……まずは、艦長と補佐するサブ艦長を選んでください」

 カミュがプルシャに質問する。

「自由意志を持っている船に、艦長とかサブ艦長が必要なのか?」

「ええっ、やはり船を動かすのは人間が主体ですから……人工知能AIの、わたしの立場はサポートですから。それに、船魂は人間が乗っていないと寂しいんですよ」


 メリノが一歩進み出て言った。

「エルフ王女のメリノ・ウール、この要塞船の艦長張らせてもらうぜ、よろしくぅ」

 続いてカミュが言った。

「それじゃあ、他の者に異存がなければ、オレがサブ艦長をやろう……それで、いいかな」

 全員一致で、メリノが艦長、カミュがサブ艦長に決まった。


  ◆◆◆◆◆◆


 船内で艦長とサブ艦長が決まっていた頃、外では戦槍を持った三ツ首のガルムが、近づいてきた兵士たちを威嚇いかくしていた。

《また、仲間を呼んでゾロゾロと増えやがったな》

 二ツ目ガルムが槍の切っ先を兵士たちに向ける。

《この、戦槍で斬首してやろうか》

「ヒィィィィィィ」


 三ツ目が、柔らかなオネェ言葉で言った。

《ダメよぅ、そんな乱暴なコトしたら可哀想でしょう、やっぱりここは優しく》

 三ツ目が巨大なピンセットを取り出す。

《このピンセットで一人ずつ、お首を引き抜いてあ・げ・る……ふふふっ》

「ヒィィィィィィ」


 一ツ目が、リボルバー式の巨大なビーム拳銃を持って言った。

《ここは、一瞬で天国へ送ってあげましょう……このビーム拳銃の一発で肉体と魂は、死の恐怖と苦しみを感じる前に消滅します》

「うわぁぁぁぁぁあ!」

 兵士たちは、悲鳴を発して一目散に逃げ出した。


  ◆◆◆◆◆◆


 ブリッジで、ビキニアーマー姿のプルシャが言った。

「実は宇宙へ発進する前に、この異世界で一つだけ準備をしなければならない、困ったコトがありまして」

 カミュがプルシャに訊ねる。

「なんだ、困っているなら協力するぜ……オレたち、もう仲間だろう」


「ありがとうございます、前方の大型スクリーンに注目してください」

 スクリーンに拘束されてミイラ化している、巨大宇宙生物の姿が映し出される。

「あの、ミイラ化した生物はなんだ?」

「この要塞船のエネルギー源の一つです。この超異世界女型要塞【プルシャ】姉型は、三種類のハイブリットエネルギーで動いています」

《姐御は宇宙空間だと、ダークマターエネルギーと、ミラクルタキオンエネルギー……惑星上では、捕獲した巨大生物の生体エネルギーも動力利用して動いているんでぇ》


「ガルムが言う通りに、あたしは状況に応じて蓄積したエネルギーを使い分けています」

 ラチェットが、説明に補足を加える。

「つまり、電気エネルギーと化石燃料エネルギーを併用して、使い分けているというコトですね」

「ええ、惑星から飛び立つには生体オーラエネルギーが必要不可欠なのです。ところが、その生体エネルギーが枯渇してきているので。この異世界で代わりの巨大生物を捕獲しないといけません」

 プルシャは、生物の生体オーラエネルギーを吸収して、動力源にする悪魔の船だった。


 カミュが言った。

「そんな巨大で生命エネルギーに溢れた生物を探し出して、捕獲するのも一苦労だな」

 リズムが恐る恐る、挙手をして口を開く。

「あのぅ、その問題……あたしの強制召喚魔法なら解決するかも知れません」

 リズムの言葉に、微笑むプルシャ。

「リズムの魔女さん、どうやって?」


「西方地域の境界線で北方地域に近い、海上に浮かぶ離島国【ケルピーランド】には、ドラゴンやキュクロプスなどの、原種幻獣の固有巨大生物がまだ棲息しているってマスターから聞いたコトがあります──その巨大生物を瞬間移動させてから、活きが良い状態で捕獲できれば」

「それ、ナイスなアイデア」

「でも、この計画には一つだけ問題が」

「どんな問題が?」


 魔法の杖を握り締めてリズムが言った。

「召喚するには人がいない広い場所じゃないと」

「それなら、大丈夫です……あたしが人のいない無人島に移動しますから。パイ、ピピ、内陸から海岸線までの最短ルートを調べて。低空飛行でそこまで移動してから女型変形するから」

「了解ピピ」


 落下地点から低空に浮上した、超異世界女型要塞【プルシャ】姉型は、そのまま低空位置を保ったまま一番近い海岸線に向けて発進した。

 進行方向の村や町の住人にパニックを発生させて、逃げ惑う異世界人を避難させながら。

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