『遠くから眺めるあなたが好きだったから』
そこは、
普段は近所に住む小さな子供たちがわいわいと遊ぶ場所。ブランコに滑り台と砂場、シーソーにジャングルジム、あとは広めのなにもないスペースなどと、住宅街の中にある公園としては十分に子供が楽しめる遊び場だ。
この公園もまた、懐かしさを覚える場所のひとつ。
静かな公園に砂の上を歩くジャリジャリとしたふたり分の足音がやけに大きく響いた。
遊具エリアからすこし離れた場所にかまえた、雨をほとんど凌げそうにない
すると、
「ここも懐かしいよね」
と、その情景を頭に浮かべるように言葉をもらした。
それと同時に、
「よく遊んだよね。三人で」
「そうだな」
「お姉ちゃんはブランコが好きだったよね」
「……」
「……」
ふたりの間に沈黙が流れる。
「お姉ちゃんのことで、お兄ちゃんに話さないことがあるの……」
と、
けれど、それは一瞬で、覚悟を決めたようにじっと
そんな
このあと、
それはあまりにも残酷で。
目をそむけたくなるような。
耳を閉ざしたくなるような。
そんな、最悪な現実を……。
だけど
「……半年前に、事故に遭ったの。それで……」
けれど、
誰が、など聞く必要はなかった。
それを訊ねずとも、事故に遭ったのは
「そうだったのか……」
と、ようやく言葉を口にした。それに続けて、
「千春のことはとりあえずわかった……だけど、どうして千夏は、千春のふりをしてまで、それを僕に隠そうとしたんだ?」
ずっと
「お姉ちゃんのこと、本当はお兄ちゃんに話したくなかったの……」
「……」
「けど、こっちに帰ることになって、お兄ちゃんに、お姉ちゃんのこと話さないわけにはいかなくなった……」
そこで一度、言葉は区切られる。
「最初は、ちゃんと会ったら話そうって思ってた……。だけど、わたしはお兄ちゃんに、すこしでも悲しい思いをしてほしくなかったの……」
「千夏……」
「わたしがこんなことしたっていつかはバレるし、意味なんてないことぐらいわかってた。でもね、わたしがお姉ちゃんを演じることで、お兄ちゃんには、お姉ちゃんとの最後の思い出を作ってほしかった。それがたとえ、かりそめだとしても……」
俯いたまま、
「でもやっぱり、お兄ちゃ
「……」
「……」
重たい沈黙がふたりの間に積もる。
「僕のためを思ってしてくれたのはわかった。……けど、こんなことして辛いのは、千夏の……」
「だめだよ‼」
すこし荒げた声で
「だって、お兄ちゃん……お姉ちゃんのことが好きだったじゃん……!」
顔を上げた
けれど、この期に及んでも、
「それを知らないのは、たぶんお姉ちゃんだけ……」
どこか苦しそうに、
「わたしはね、そんなお兄ちゃんことが……大好きだったの」
瞳にはきらりと輝く雫が滲み、
「お姉ちゃんのことを見てるときのお兄ちゃんの
「……」
瞳に溜まった涙は、限界を迎えると
ぼたりぼたり、と落ちる涙はそのまま足元の砂を色濃く変色させる。
それを左右の手の甲で拭うと、顔を上げた
「お姉ちゃんにしか見せないお兄ちゃんの表情が好き」
また、涙が頬を伝う。
「お姉ちゃんと話してるときのお兄ちゃんの横顔が好き」
それを
けれど、涙はまだ溢れ続けた。
「だから、お姉ちゃんを演じることは、わたしのためでもあるの。今まではちょっと離れたところからしか見れなかった、お兄ちゃんの好きなところを今日は
そこで一度、
「だけど、今日一日お姉ちゃんの代わりを演じて、お兄ちゃんとデートして、嫌と言うほど実感しちゃった」
「え……?」
「やっぱりわたしは、お姉ちゃんに敵わないね」
けれど、やはりそれは、どこか無理をして張り付けたような、そんな装った
まだ、
「……ごめん、千夏」
「どうしてお兄ちゃんが謝るの……? 悪いのは、お兄ちゃんのことを騙すようなことをした、わたしの方なのに……⁉」
「だからだよ。僕のためにしてくれた千夏こそ、なにも悪くない」
その言葉に反応し、
突然の行動に、
「千夏も辛いはずなのに、ありがと」
その言葉が、
大粒の涙が瞳からは、ぼたぼたと、ぼたぼたとまた溢れ出る。それを両手で拭う
ひたすら零れる涙を拭うが全く止まってくれない。
その様子は、昔から知る
この光景を第三者に見られれば、少女を泣かす不審者として警察に通報されるかもしれない。
けれど、そんなことなど気にせず、
嗚咽が交じる
ひとしきり溢れ出る感情を吐き出しきった
「お兄ちゃん」
そう、
「やっぱりわたしは、お兄ちゃんが好き」
その笑顔は張り付けたようなものではなく、本来の
「お兄ちゃんは、今でもお姉ちゃんのことが好きでしょ?」
すこし考えたあと、
「それは、正直わからない」
と、正直に答えた。
「そっか。うん、それでもいい。んーん、その方がいい」
すると、
「だからこれが、わたしの気持ち——」
と、
すこし背伸びをする
そのため、
そして、次の瞬間。
それは一瞬の出来事だった——
不意に、
たった一秒ほどの時間が、永遠と思えるほどに、
そんな
そんな
「わたしは、お姉ちゃんの代わりになんてなれない」
はっきりと、
「もしお兄ちゃんがそれを望んだとしても、わたしは
きっぱりと、
「だからお兄ちゃんには、お姉ちゃんのこと諦めてもらって、わたしのことを好きになってもらう」
そう、
「覚悟しててね? 紅太」
と、生まれて初めて
それは、
すると、
そんな
だけど、
「大好き」——と。
どうしてか。
春休みを終えて、迎える新学期。
そんな明日からは、すこし時期の早い新しい夏が訪れる、そんな気がした。
〚あとがき〛
これで物語としては終わりです。
ですが、明日にエピローグらしきものを投稿します。
それでこの作品は本当の終わりを迎えますので、よければ最後までこの作品のことをよろしくお願いします。
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