『春の心地良さの中に、夏の暑さ』
正面入り口前のチケット販売所で入場用のチケットを購入した
「ここの水族館って」
「そうだよ。昔一緒にみんなできたことある水族館。ちゃんと覚えててくれたんだね」
「まぁ忘れはしないだろ」
「ここね、もうすぐ閉館しちゃうらしいから最後にまた一緒にきたかったんだよね」
購入したチケットを受付の女性に渡し、
おおよそ千二百トンほどの水量の中で優雅な泳ぎを披露している。
他にはエイなどと大水槽には様々な魚たちが展示されているのだと、水槽の脇に添えられたプレートに記載がされていた。
「私、この水槽好きだったなあ」
と、子供の頃を思い出すように
「初めてきたときの千春、ここからぜんぜん動こうとしなかったもんな」
あはは、と
「ねぇ写真撮らない?」
「ふたりで?」
「なに、嫌なの?」
その言葉には、不満が含まれていた。
「別に嫌ではないけど」
「なら素直に最初からそう言いなよ」
と、言って、
それに倣い、
慣れた操作でスマホを操作し、カメラアプリを起動させた
内カメの画面には、大水槽をバックにした
すこしの間が置かれたあと、パシャリ、と
撮れた写真を確認しようと
「全然紅太、笑ってないじゃん」
「笑えてるだろ」
「笑顔下手だね」
けらけらと、楽しそうに笑う
すると、そのまま、
「次行こうよ」
と、別エリアに続く順路に
新たにふたりを出迎えるエリアは、薄暗い空間。展示用の水槽が通路上の左右の壁に埋め込まれた形でずらりと並ぶ、そんな通路型の展示スペース。
緩やかな歩調で前を進む
見られるのは、揺れをなして遊泳するマイワシたちに、別の水槽には筒にギュウギュウに詰まるマアナゴは正面から見た様子は息苦しそうだった。
他の水槽には、サンゴ礁に生息する人気者のカクレクマノミや、周囲の環境に合わせて自身の身体をカモフラージュさせる性質があるウツボなどの多種の生物が続いた。
順路に沿って先に進むと、今度は室内照明が一段と落とされた空間に導かれる。
綺麗な青色に光るその空間は、たとえるならばプラネタリウムのような雰囲気が感じられ、突然として現実から非現実世界へと誘われたかのような感覚を味合わされる。
展示されるのは、星のような輝きを発する色んな種類のクラゲたち。
綺麗にライトが当たる水槽の中を、クラゲはゆるゆるとふわふわと漂い、それはまるで
「ほんとに、ぜんぜん変わってないね」
ゆったりと泳ぐクラゲは、
「ていうか、千春ってクラゲ苦手じゃなかったか?」
「もうそれ何年前の話してるの? 私、高校生なんだからそんな昔と一緒にしないでよね」
突如として、
ぷくりと膨らむ
綺麗だった空間は終わってしまい、
雰囲気はさきほどと一変する。
チューブ型の水中トンネルの水槽には、世界最大の淡水魚であるぴらくるを中心に大迫力の巨大魚たちが展示されている。
トンネル型の水槽を抜けた先には、沢山のマゼランペンギンたちが水中を遊泳したり陸上をてくてくと歩行したりする様子を間近で見れるエリアが広がる。
屋外の展示エリアはそこで終わり、今度のエリアは本館の二階に位置するミュージアムショップ。
そこではこの水族館でしか入手不可能な公式キャラクターのグッズやお土産などで買われるお菓子などが販売されていた。
ショップを目の前にして、
「ねえ、紅太」
「ん?」
「これ、ふたりで買おうよ」
そう言って、
「なんでお揃いなんだよ」
「いーじゃん別に。それとも紅太は嫌なの? わたしとお揃いで買うのが」
「別に嫌ってわけじゃないけど……」
「昔は三人でよく何かをお揃いで買うこと多かったじゃん」
「それは昔の話だろ。それに、いくら幼馴染とは言えど高校生でお揃いのキーホルダーなんて恋人同士みたいで恥ずかしいんだよ。少なからず僕は」
どうやらクラゲのエリアからたった一匹のフグが脱走したらしい。
食い下がる
「やったっ!」
会計を済ませた
受け取った
「いくらだった?」
と、
「いいよ別に出さなくても」
「なんでだよ」
「これは再会の祝いとしての私からのプレゼン。それと、わたしからのお詫びでもあるから」
「お詫び? なんの?」
「ほらっ、お揃いにしたいっていうわたしのワガママを聞いてくれたから」
そう言って、
次に向かうのは最後の展示エリアである、本館三階に位置する野外展望広場。そこでは、水辺に生息する世界最大のネズミの仲間であるカピバラが展示されるほか、カピバラと一緒に寛げるように設計された足湯が設備されてあった。
生き物に触れられるタッチプールには、男の子の人気を集めるサメに加え、王道のヒトデやナマコ、ウニなどの姿が見られる。
そうして最後のエリアを堪能した
「楽しかったね」
「そうだな」
「なあ、千春」
「ねえねえ」
「せっかくだからさ、海にでもよらない?」
そんな提案をした
公園には一分も経たずして到着する。
海岸エリアと公園エリアの、二分割された海浜公園。
風と波の音はより強く鼓膜を刺激する。潮の香りは次第に全身を包み込む。
砂浜に人の姿はまばらに見られる。四人家族の子供は波打ち際ではしゃぎ、男女のカップルは隣り合わせに水平線を眺め、女子高生らしき四人グループはSNSに投稿するか海をバックにスマホで自撮り中など、と周りの様子は様々。
しばし目の前に広がる海や水平線を眺める時間がふたりの間には流れた。
「また、一緒にどこか行こうね」
「そうだな……」
「次は、遊園地とかかな?」
「……」
「帰ろっか」
と、
けれど、
「どうしたの?」
「千春」
名前を呼ばれた
「なに?」
と、首を傾げる。
「やっぱりお前、千春じゃなくて……千夏、だよな?」
その正体の答え合わせをするために、
「……」
その表情は、
けれど、彼女はどこか嬉しそうで、
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