第18話 チャリティパーティの準備

チャリティパーティの準備 1

 チャリティパーティの準備をエマから引き継ぎ、メリッサはやる気に満ちていた。DV被害者救済プログラムを発案した身だが、実際にこうして資金集めに関わるのは初めてだ。細かいところは執事の頭にも入っているし、彼は多くのチャリティパーティを経験済みなので、焦るようなことは起きないはずだ。

 その日の昼過ぎにはケータリング業者がやってきて最後の打ち合わせに参加できたのも安心できる大きな要素となった。夕方から1階のフロアをパーティ用に模様替えし、また、邸宅のキッチンだけでは間に合わないので調理設備を満載したトレーラーも来るというかなり大がかりなパーティであることもわかった。

 メリッサはエマから引き継いだ資料から、この街の大物が数多く参加することを知り、少々緊張する。各々のセレブリティには個別にはアルの秘書として面会したことはあったが、こんな大勢、一緒に会うのは初めてだ。顔を忘れていたなんて大失敗は避けなければならない。そこはエマも車椅子に乗ってホステスとして参加してくれるというので心強いところだ。

「それでね~~メリッサにもドレスを選んで欲しいの~~」

 松葉杖をつくエマに満面の笑みで言われたが、メリッサは少々困った顔をせざるを得なかった。

「ドレスは、着たいドレスがあるので」

「あら~~ 買ったばかりの銀色のドレスね。もっと高い、そうね、オートクチュールでもいいのよ。直しはパーティに充分に間に合うわ」

 アルのクレジットカードで購入するとエマにはその情報が筒抜けらしい。

「それでも、彼が買ってくださったドレスを着たいんです」

「ええ。そこまで言うなら無理強いする理由はないわ。ホント、あの子もバカねえ。あんな茶番劇を仕込まないとならないなんて。むざむざこんないい子を逃すところだったわ」

「そんなことはありません」

 メリッサは即座に断言する。エマは満足げに頷く。

「ふふ、愛されているわね、あの子」

 メリッサは一旦失礼して、本社に戻ることにする。仮眠室からとってきたい荷物がドレスの他にも2、3あるからだ。

 メリッサはアルの愛車、MBG-GTを借りて本社に戻る。MBG-GTを駆るのは初めてではないが、現代の車に比べて非力だ。しかしエンジン音は気持ちがいいし、ハンドリングも軽快だ。決してけなせるようなものではない。

 大排気量の現代の車や電動車に追い抜かれながらハイウェイを走り、渋滞が始まった街の中をようやく本社ビルまでたどり着き、荷物を回収してまた渋滞の中に戻る。そして郊外のミラー邸に到着する頃には日が傾き掛けていた。

 MBG-GTを所定の位置に停め、荷物を手に玄関に入る。設営業者がもう模様替えを始めており、執事が業者と打ち合わせていた。

 アルの姿をその近くで見つけ、隣にいる女性と和やかに話をしているのを目の当たりにしてメリッサは凍り付いた。メリッサの、秘書という職業特有の脳内人物サーチにその女性がヒットしたのである。和やかに話をしているのは、5年前までアルが付き合っていた女性だった。この街の名士の娘で、家柄も評判もよく、今も大企業の幹部を務めているはずだ。

 メリッサが戻ってきたことにアルが気づき、手を振って彼女を呼んだ。

「紹介するよ。僕の秘書のメリッサだ。彼女はミッシェル。このDV被害者救済プログラムにも多くの寄付を寄せてくださってるから知っているよね」

 アルの表情は無邪気なそれとしか言いようがない。このタイミングで元カノと和やかに話をしているなんて、嫉妬心を湧き上がらせ、不安を煽る以外の何ものでもないのだが、彼はそんなことに気づいてもいない。

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