第2話 仕事中毒の社長の事情
仕事中毒の社長の事情 1
メリッサが休暇だって?
人生を賭けた休暇――気にならないはずがなかった。しかも仕事を辞めるかもしれないなんて、何をするのだろう。見合いでもするのだろうか。うん。その可能性はある。彼女も28歳だ。結婚適齢期だ。普通のことだ。わかる。上司としては理解しなければならない。しかし、1人の男としては理解できるはずがない!!!
そうだった。人事システムはメインのモニターからでも見られるのだった、と思い出し、アルは人事システムのアイコンをモニター上に探す。いつもメリッサにタブレットでやってもらっていたからなかなか見つからない。しかし、休憩中の上、彼女の休暇の確認のために人事システムを見るだなんて、言えるはずがない。
苦労して人事システムにアクセスし、申請順に見ると1番上にメリッサの休暇届けがあった。中を確認すると、まず目的欄を探した。目的欄にはこうあった。
リフレッシュ。
婚活ではないらしい。ホッとした。次に場所の欄を見る。
本社ビル内。
どういうことだ? 確かに本社ビルの下はホテルになっているし、様々な福利厚生施設も充実しているが、どうしてここで休暇なんだ? 全く理解できない。そしてメリッサの名前の下にある休暇届に目が行き、アルは声にならない声を出した。
「ぼ、僕の休暇届だって!?」
どうやら声になったらしい。軽い筋トレを終えたメリッサが冷ややかな――冷ややかというか冷凍光線を発しそうなほど冷たい眼差しをアルに向けた。
「お気づきになってしまいましたか」
「そりゃ気がつくさ。自分の名前だよ!」
「どうして人事システムを見る気になったんですか? 珍しい」
「そういうことではないだろう! しかも、もう僕は休暇中だって?」
「あー そこも気がつかれてしまいましたか。それでは強権発動します」
すると2つの曲面モニターが強制ログアウトになった。サーバにアクセスできないのでは一切の仕事ができない。
「なんてことをするんだ!」
「常務取締役員会の承認はいただいております。産業医からの指示です。勤続300日を目の前にし、月間残業時間200時間。過労死ラインぶっちぎりです。我が社は今、トップを失うわけにはいかないという判断です」
「僕は健康だ!」
「だとしてもです。そんなに働かれては部下のみなさんも休めないでしょう。私も含めて」
「ぐぬぬ」
「というわけで今日から2週間の休暇です、ボス」
メリッサは冷ややかな笑顔を浮かべ、アルを見つめた。いつもより可愛く見えるのはイタズラめいたこの強制休暇が上手くいったからなのだろう。彼女にMっ気があるとは思わなかった。可愛いけど。
「しかし、はめられたのは断じて許せん。休暇を撤回する」
「どうやって?」
休暇の撤回にはシステムに入る必要がある。
「サーバをつなげ!」
「休暇中のボスにその権限はありません。権限は取締役会に委譲中です。忙しいみなさんのサインを求めに社内を走りますか? もちろん、出張中の皆さんも多いですよ」
メリッサは本当に面白そうだ。これで自分はこの休暇で婚活活動をするというのであれば怒髪天だが、社内に留まるという彼女の目的は自分を監視することなのだろう――悪くない。
「なにニヤニヤしているんですか」
「いや、こっちの都合」
「とはいえ、騙されたまま休暇を続けるわけにはいかない。撤回させに行くぞ」
「どうやって?」
「どうやって……て」
アルは社長室の外に到る扉まで行き、開けようとノブを手にするが、そのノブは回らなかった。
「ご存じでしょう? 社長が不在の際は、強固なセキュリティシステムが入るようにしたではありませんか」
「僕はここにいる」
「だって休暇中ですから」
盲点だった。そういうセキュリティを導入したのは自分だ。もちろん休暇を取る際は、自分は社長室にいないはずだからと思っていたからこうしたのだ。中からも鍵が開かないのは盗難対策だ。
「君はどうするんだ!? 出られないんだぞ!」
「それは――どうしましょうか」
「嘘だろ!」
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