もこもこしている、きみがすき

 ぼくは学校の屋上に美和ちゃんを呼び出した。「ひとりで来てね」と言ったのに、双子の姉である美加ちゃんも来ていた。

 ぼくが、「ひとりで来てねとお願いしたのに」と言うと、もこもこ頭をポニーテールにしている美和ちゃんが「そんな約束、知らないー。私たちはいつも一緒なの。ところで、お話って、なあに?」とくすくす笑いながら言った。それから、美和ちゃんが、同じくもこもこしたツインテールの美加ちゃんの方を向くと、彼女も笑い出した。

 きゃっきゃ、きゃっきゃと笑っている二人。

 そんなふたりを見ながら、ぼくは勇気の高まるのを待った。

 すると、美和ちゃんと美加ちゃんが「ねえ、ねえ。お話って、なんなのよ。私たち、これでも忙しいのよ」と同時に言い、おおきな目でぼくを見てきた。

 美人双子姉妹に見つめられ、ぼくは顔が赤くなるのを自覚した。

 時間がないと言うから、ぼくは勇気を振り絞って、「美和ちゃん、好きです。お付き合いしてください」と頭を下げて、右手を差し出した。

 それに対して、美和ちゃんは「ええー、どうしようかなあ」と言い、美加ちゃんは「きゃー、どうするのー」と口にした。


 ドキドキしながら返事を待つ僕を尻目に、ふたりはこそこそと相談をはじめた。

「どうするー」

「どうしようかー」

「あれする?」

「あれしようか?」

 相談がまとまったふたりは、ぼくの方を見て、満面の笑みを浮かべた。ああ、ふたりとも、とってもかわいい。全身がふわふわもこもこしていて、食べちゃいたいくらいだ。

 ふいに、美加ちゃんが「エロいこと考えてた?」と言い出したので、僕は首を大きく横に振って、「考えてないよ。ただ、かわいいなと思ってただけだよ」と反論した。

 かわいいと言われ慣れしている二人は、とくに気に留めることなく、本題に入った。

 美和ちゃんと美加ちゃんが、髪をほどきながら、同時に言った。

「どっちが美和で、どっちが美加かわかったら、付き合ってあげる」

 髪をほどいて、見分けのつかなくなった双子を前に、ぼくはたじろぐふりをした。しかし、このへたな芝居がよくなかった。

 美加ちゃんが、「あっ、この子、知ってるわよ?」と言いながら、テッシュを取り出した。そのようすをみて、美加ちゃんも「あっ、そういうこと?」と同じく、テッシュを手に取った。

 それから、双子は、相手の口に塗られていたリップをぬぐって、「これでよし」と言った。ちょっとエッチな光景だった。

 「きみ、美和がピンク、美加が赤のリップが好きなの知ってたでしょう? それで見分けようとしたのね」と美和ちゃんが言った。


 千載一遇のチャンスを失った僕の前で、ふたりをお互いの両肩をつかんで、笑いながら、くるくると回り始めた。ああ、ぼくにはもう二人の見分けがつかない。

 回るのをやめた双子が同時に言った。

「さあ、美和はどっちでしょう?」

 ぼくはうずくまって頭を抱えた。まったくわからない。しかし、まだ、成功確率は五十パーセントある。

 ぼくは、神様、お願いしますと思いつつ、右側のもこもこガールを指さした。

 すると、その子が小悪魔的な笑みを浮かべつつ、「残念でしたー、私は美加よ」と言った。

 その瞬間、ぼくは膝から崩れ落ちた。


 男の子が、泣きながら、屋上から走り去っていった。

 美加が「よかったのー? 当たってたのに」と、後ろから美和に抱きつきながら言った。

「偶然かもしれないじゃない。でも、もう一回、当てたら、付き合ってあげてもいいかな」

 もこもこの髪の毛をいじりながら、美和が言った。

 「もう一回来るかな?」と美加。

 「わかんないー」と美和。

 「かわいい子だったから、私が付き合ってあげようかな」と美加が言うと、美和は「それはダメ。あの子は今のところ、私のものよ」と美和が答えた。

「それなら、三人で付き合っちゃおうか?」

 突飛なことを言いだした美加に、美和は笑いながら、ちょっと考えてから、「それもいいわね」と答えた。

「もう一回来るかなー」

「どうだろうねー」

「来てほしいの?」

「わかんないー」

 双子は手をつなぎながら、屋上の非常口に向かって、歩きはじめた。


(色:ももいろ×干支:未×星座:ふたご)

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