『運命』って何ですか?

玄栖佳純

第1話 運命のひと

 私には前世の記憶があり、高校生のいちゃ恋などくそくらえな恋愛をしていた。

 現世の中二の頃はマンガ読んだりアニメ見たりして恋愛に憧れていたけれど、近くにいる男性は恋愛対象にならなかった。

 憧れはあった。恋愛したいと思っていた。


 この頃は前世の記憶はなかったけれど記憶の基礎部分に残っていて、バレンタインにチョコをあげる友人を見て羨ましいと思っていても、私があげるに値する男子がいないかった(チョコは好きなので自分のため、友のために作った)。


 何かが足りない。それが何だかわからないけれど、何かが圧倒的に足りな過ぎて、高校生・大学生になっても彼氏が欲しいと思っていてもできなかった(数は少ないながらも告白は受けている ※哀しい自己防衛)。


 マンガ・アニメの見過ぎで、恋愛のハードルが上がりすぎているだけだと思っていたが、二十歳の頃に旅に出て前世の記憶を思い出した。知っている場所でボロボロ泣いた。その時、現世の恋で満足できるわけがないと納得した。


 アレと比べてしまったら恋はできない。ふつうの恋愛で満足できるわけがない。

 それからはますます恋愛が遠のく。


 しかしそんな私にはじめて彼氏ができた。

 前世の彼と出会ったからだ。どう見ても彼だった。そうとしか思えなかった。出会いからして彼だった。記憶の中のエピソードまんまの出会い。間違いないと、愛らしい彼女をがんばってみた。


 はじめは楽しかった。夢にまで見た恋人との逢瀬。他者は蹴散らし、彼氏最優先。それ以外は何をやっても上の空。恋は盲目。周りが何も見えていないのに気づかない。


 しばらくして彼が浮気していることには気づいた。

 気づいたけれど、それはウソだと言い聞かせる。だって自分は彼の前世からの恋人。前世であんなに愛し合って引き裂かれた恋人。


 その想いを今世で果たすために出会った。そう思って耐えた。しばらく耐えた。見てみぬふりして耐えた。

 でもとうとう証拠を掴んだ。がっつりと。

 目を逸らそうにもそらせない現実。


 そして彼は別の女を選んだ。あっけなかった。でもほっとしていた。

 私は彼の選択を否定しなかった。疲れてしまった。自分を誤魔化すことに。彼が離れることはないと言いながら信じられない自分に。


 永遠の恋などないのだ。たったひと世代変わっただけで、彼は何も覚えていなかった。ふつうは覚えていない。覚えていたのは私だけ。


 出会った頃はそれでよいと思った。覚えていなくてもまた出会えた。運命に導かれるように恋ができた。それが大事で、記憶など必要がなかった。今を生きる者に過去は必要がない。今が幸せで未来があれば問題はない。


 そう思っていたのに、やはり恋は長続きしない。

 短時間で燃え上がり、短時間で終わってしまうものなのだ。それが途中でぶった切られたから終わりが長引いてしまっただけ。


 ようやく今世で終わることができた。

 前世からの恋に縛られる必要はもうない。


「あなたは前世から私の大切な人だったんだよ」

 そんな言葉は風の前に空しく消える。


 もう終わりなんだ。

 激しかった恋も、時が経てば昼ドラのようになってしまった。こんなつまらない物語ストーリーだったのか。もっと生きるか死ぬかの時の中で、ちょっとやそっとでは切れない絆で結ばれていたはずなのに。

 永遠を誓っていたはずなのに。


 前世では吊り橋効果でもあったのだろう。

 極限状態で盛り上がってしまっただけ。その気持ちが楽しめただけでも良かった。


 平和な時代では、運命の相手だったとしてもただの昼ドラ。こんなストーリーではドラマ化ムリ。死んだところまでならドラマ化や映画化だって夢ではなかった。

 激しい恋が安っぽくなってしまって興も冷めた。


 失恋の哀しさはあった。裏切られ、嘲笑われ、悔しくもあった。怒りで体は打ち震えた。ホントに震えるものなのだ。『わなわな』だった。これがわなわなかと。


 それは小説にすることで昇華した。文章を書いて書いて書きまくった。書いた物語は出版の会社に送って詐欺っぽい感じで自費出版した。懐は寂しくなったが満足だった。出費だけで回収はできなかったけれど、無駄ではなかったと自分に言い聞かせることができた。


 淡く色づく夕日を見つめ「これでよかったのだ」と。

 すっきりした。お財布は軽くなったけれどすっきりした。編集の人が腹立ったけどすっきりした。いつのまにか退社してたけどまあいいか。


 激しい恋は終わった。この人しかいないと思っていたことは遥か昔のこと。その呪縛から解かれたのだ。失ったら自分も死ぬと思っていた恋が終わったけれど私は生きている。生きて、これからもがんばれる。

 これが今の私の生きる意味だった。



 そして時が過ぎ、彼が別人だったことを知る。

 現世での私のあの苦しみはなんだったんだ?

 それよりも間違えるか?

 すっごく好きだった人のことを。

 それで運命のひとと言えるのか?


 『おかしいなあ』と何度も思っていた。「彼は別人だった」と嘘でもいいから誰か言ってくれと思っていた。でもまさかそれが本当だと思わなかった。


 別人だと言われれば別人だった。どこをどうしたらあれが本人だと思えたのか。そもそも、前世の記憶だって本当かどうかもわからない。その記憶自体が怪しい。

 間違えない方がおかしい。


 何のためにあんなに苦しんで何のためにあんなに哀しい想いをして、体調まで崩して死にそうな思いをしていたのか。

「別人です。よかったね」ではなくて「はぁ?!」だった。


 そして怒りが込み上げてきた。

 運命のひとを間違えた自分自身に。


 ありえなさすぎる。

 悪霊のせい? 悪霊が私をこんな目に合わせたのか?

 上等だ来やがれこのクソ野郎。


という気持ちになった。

 最初から最後まで真っ黒で、白い部分がどこにもない。


 無駄ではなかった。

 人を好きになれてよかった。


 最初から最後まで勘違いで間違いだったけれど、人を好きになれてよかった。誰かを好きになれないくらい前世のひとが好きだったから、そんな私に恋を味わわせてくれてありがとう。ということにして記憶から消した。


 私は今を生きているから。

 終わった恋などいらない。




 時を超えた恋愛はしてみたい。

 間違えた恋はノーカウントにして。


 間違えてごめんなさい。

 それでもやっぱり大好きだよ。


 Never give up.諦めねーから


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