箱庭

飛永詩穏(とびながしおん)

第1話

「あの頃の私たちにとっては間違いなくあれが全てで」

「それ以外に世界があるなんて思ってもなくて」

「ずっとそうやって暮らしてくんだって思ってた」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「卒業式、終わっちゃったねー」

最初に口を開いたのは光里だった。


卒業式後の教室。

33人の生徒と、担任がいたはずの教室からは、気づけばみんな居なくなっていて、私たち4人だけになっていた。


「ほんとにね」

適当に思われるかもしれないけど、そう返す。


「3年間あっという間だったなー」

そんなよくあるセリフを呟いたのはモナミ。


桜は、何も言わずに微笑んだ。


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私たち4人はそれぞれ全然違うタイプで、傍から見ればどうして普段一緒にいるかよく分からなかったと思う。


平凡で、これといった個性のない私。

優等生で、部活も勉強もやり切る桜。

明るくて、どんな子とも仲良しな光里。

独特の雰囲気で、人を惹きつけるモナミ。


どうしてこの4人で一緒にいるようになったかは分からないけれど、気がつけばこの4人で最後の1年を過ごしていた。


教室から移動する時一緒に行く。

お弁当を一緒に食べる。

放課後や休み時間におしゃべりする。

体育でおなじ種目を選ぶ。


些細なことだらけだけど、そんな瞬間は受験に追い回される私にとって十分すぎるくらい幸せなものだった。


クラスもなんだかんだ楽しかった。

(こんなことを言うのは時代に逆行していそうだが)文系クラスということもあって女子が多く、和気あいあいと楽しく日々を送っていた。


高校生、とりわけ女子はグループを作りがちなものだと思うし、実際イツメンのようなものはあったけれど、その枠に囚われずみんなと仲良く過ごしていた。


行事もクラスのみんなのおかげで幸せな思い出になった。

文化祭の劇では桜がみんなをまとめてくれて1位を取れたし、クラスマッチだって充実したものだった。


「2組、楽しかったね」


その幸せは、ほかのみんなも共有しているのだと信じて疑わなかった。


だから、


「そう?卒業式終わったことだしクラスLINE退会するわw」


と桜が目の前で言った時、私は何も信じられなくなった。

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箱庭 飛永詩穏(とびながしおん) @shion3347

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