COLOR(色)

三雲貴生

一話完結

【ショーウィンドウガール】


 ショーウィンドウガールは新しい仕事だ。例えば、街の百貨店のショーウィンドウにはマネキンが立っている。

 

 よくロボットが労働者から仕事を奪ったというが、ずっと前からマネキンはあって、ショーウィンドウガール達の仕事を奪っていた。


 この街ではショーウィンドウガールはちゃんとした職業だ。


 パントマイマーが路上ライブで動かない銅像を演じた事から始まった。

 それを百貨店のオーナーが気に入って、ショーウィンドウの中でパフォーマンスを頼んだのがきっかけだった。

 

 ショーウィンドウガールはお店のショーウィンドウに、マネキンの様に、ただ立っているだけの仕事だ。

 

 衣装も店側が用意してくれる。演技も要らない。器量も要らない。お手軽な仕事だ。


【ナンバーワンSWG】


 黒い肌が衣装にバエた。金髪が衣装に良いアクセントを与えた。それがナンバーワンショーウィンドウガールの『ゴールディ種』だった。『ゴールディ種』は特殊な種だった。他とは違い、ツガイを必要としない。単独で増殖する無性生殖体だ。その美貌は子孫へ丸ごとコピーされ受け継がれて行った。そのため『ゴールディ種』は、彼または彼女と紹介しなければならない。


 こんなエピソードがある。『ゴールディ種』が彼女と一晩過ごした。朝起きたら二人に増えていた。どっちが彼か裁判が起こった。


 そんな感じで他のSWGショーウィンドウガールも、ナンバーワンSWGのマネをした。そんな世界だった。


【新入生】


 彼女は社会人1年目の新人だった。彼女の紅い髪、小麦色の肌は、夏のショーウィンドウに最適だった。でも初めからそうだった訳では無い。

 大学時代は、肌は血色の悪い薄緑色で髪は血の混じった卵の黄身の様だった。彼女は、就職戦争の敗残兵だった。

 ちょうど同郷の先輩がSWGをしていた。先輩の大改造の末、彼女はSWGの末席に座る事を許されたのだった。

 

 彼女の名前はシンディと言った。同郷の先輩の名はフライディ。シンディと共に、就職祝を口実に西海岸で日焼け旅行をした。シンディより少し日焼けした黒髪の先輩だった。


 世間はまだ少し肌寒いが、ショーウィンドウの中は、夏真っ盛りだった。SWG達は、新作の水着を着てディスプレイされた海辺を彩った。

 

 シンディは、この仕事が大好きだった。安全な職場、なんと警備員はあの青鬼です。快適な環境、優しい先輩、立っているだけで何もしなくても良い仕事。ちょっと残念なのは『ゴールディ種』の様にもっと肌を焼いておけば、ショーウィンドウの中央に行けたのにと思うくらい。


【事件】


 夏の暑さがショーウィンドウに追いつき始めた頃、事件は起こった。


 近隣のビルで強盗事件が起きた。犯人はまだ捕まっていない。シンディの努める百貨店もお客様を返して閉店する事にした。


 従業員も控室に集められ、明日の連絡事項を話し始めた。


 そこに10人の集団が銃を掲げて飛び込んで来た。


 最初にパニックになった社員が撃たれた。SWGは動かない事が仕事だったのでじっと事態を静観した。

 

 銃を持った集団は逃げて来た強盗犯だった。


 強盗犯は、人質を色の濃い順番に並べた。必然的にSWG達が左。警備員、室内勤務の社員の順だ。


 反抗的な警備員が撃たれて大人しくなった。それを白い肌の社員達が運んで行った。シンディたちは、それを見ない様にした。

 

 彼らは変装を解いた。彼らは青鬼と敵対する赤鬼だった。警備員達を片付けた赤鬼達は、もう一度、人質を並ばせた。

 赤鬼は、人質に顔を見られても平気だった。ナゼなら、ここから逃走する頃には、人質は皆殺しにされる運命だったからだ。


 1時間して警察が百貨店を取り囲む。人質は、左からSWGの10名、続いて従業員の17名の計27名。犯人の要求は、強盗で捕まったリーダーの開放だった。

 要求が通るまで、1時間に一人ずつ撃たれて行った。


 皮肉な事に、SWGの娘達は人気のある順に撃たれて行った。


 明け方の6時、フライディの頭に銃が突きつけられた。


 要求は通らなかった。


 7時シンディの番だった。


 電話が鳴った。


 リーダーの開放、沸き立つ赤鬼たち。


 瞬間。灯りが消え煙が充満した。

 そして突入部隊があっという間に制圧した。 


 突入部隊の隊長も青鬼だった。撃たれた仲間を見つけた隊長は、地面で大人しく縛られた赤鬼達を一人ずつ銃で撃った。


 事件は、人質半分と銀行強盗全員の死亡で幕を降ろした。


 取り調べを担当した青鬼の警部は、シンディに聞きたい事はあるかと尋ねた。

 

「私たちには色がついている事を知りました。色で死の順番が決まる事もあるのですね?」


 シンディは、同郷の先輩の遺骨を持って帰郷した。彼女は二度と都会に来なかった。


 終わり

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COLOR(色) 三雲貴生 @mikumotakao

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