古代遺跡ナールジュガ篇

第28話 古代遺跡と書いてダンジョンと読む

「ところで、シロウさま? なぜ、どこの馬の骨とも知らない、あの人について行くんです?」

 金髪エルフが、勇者にそっと耳打ちをする。アタシに聞こえないようにしているつもりだろうけど……。生憎あいにく、アタシの耳はいいもんでね。しっかりと聞こえてるさ。


 金髪エルフが持つ短杖ワンドに、光明ライトの魔法が煌めく。

「大丈夫だよ、シア。この人は、悪い人じゃない。……特に根拠はないけど、何となくそう思うんだ」

 勇者が耳打ちし返す。

「それに……。異世界と言えば、やっぱりダンジョンだよね!」

 勇者が顔をクシャッとさせて笑う。

「キア、ダンジョンってよく分からないけど、楽しいところなの!?」

 紅髪の竜人が天真爛漫に笑いながら、勇者に問いかける。

「冒険の醍醐味って言ったら、そりゃダンジョンだよ!」


 ……全く。おめでたい奴らだよ。

 自由都市アルカンセルの地下に広がる古代遺跡ナールジュガに何があって、これから自分たちがどんな目に合うのか、知らないんだからさ。


 アタシたちは、そんな調子で光明ライトを頼りに暗い古代遺跡を下っていく。


 古代遺跡ナールジュガは、全部で五層。各層に番兵と呼ばれるボスクラスの魔物がいる。アタシたちが目指すのは五層の奥。つまり、番兵を五体倒さないといけないってわけさ。

 もちろん、下の層になればなるほど番兵は強くなる。


「本当にいいんですか、シロウさま? そんな簡単に人を信じて……ブツブツ」

「シロウくんがいいって言うなら、いいんじゃない?」

「キアさんまで……! もうっ。何があっても私は知りませんよ!」

「まあまあ、二人とも。ボクは何があっても大丈夫だから」

「……でも、キアは悪い人じゃないと思うな。姉さんは」


 ……悪い人、ねえ。

 人を殺すことを生業にしている人ってのは、一般的には『悪い人』ではあるさ。

 まあ、それとは別に、その人の持っている気質が悪いのかどうなのか、っていう問題はあるにしろ、さ。


 果たして、アタシがアタシ自身の気質について悪いかどうかなんて分かりゃしない。それに、そんなことを考えたこともない。


 まあ、少なくとも、今この瞬間、勇者を殺すために、コイツらをここへ連れてきたという意味では、アタシは確実に『悪い人』ではあるだろうさ……。


 アタシたちは、ところどころ謎の壁画や幾何学模様の刻まれた、曲がりくねった細い通路を下っていく。

 この古代遺跡ナールジュガ……。古代文明の遺跡であることは明々白々なのだけど、誰がどんな目的で造ったのかは分かっていない。


 勇者は、これを『ダンジョン』と呼んだ。勇者のいた世界ニッポンでは、古代遺跡のことをダンジョンと呼称するのかね……?


 とにかく、だ。

 アタシは勇者を殺すために、勇者たちはレベルアップとやらのために、この古代遺跡ダンジョンを攻略するってわけさ。




 ………………。

 っつうか、レベルって何なんだい?




 ……さて、そろそろ第一層だね。

 アタシたちの目の前に、巨大な両開きの扉が現れた。

「シアもキアも、師匠も後ろに下がって。ボクが扉を開ける!」

 勇者の言葉に従って、アタシたちは後ろに下がる。勇者は両腕で力いっぱい扉を押しはじめた。ギイイイイイイイイイイイ……、と渋い音を立てて扉が開かれる。

「……勇者、一つ聞いていいかい?」

 アタシは扉を開ける勇者の背中に向かって、言葉をかける。

「師匠、何ですか?」

 勇者は扉を開けながら、答える。シアとキアは不思議そうに、アタシと勇者を交互に見る。

「ふと思ったんだけどさ……」


「はい……?」


「ごく自然な流れで、今お前が扉を開けてるけど、なんでそうなった?」


「…………?」


「…………」


「ボクが扉を開けちゃダメですか?」


「ダメなことはないが……」


「こういうのは勇者がやる方がいいのかなって……。役割ロール的に」


役割ロール……?」


「えーと、ボクは勇者で、師匠は暗殺者アサシンでしょ? シアは賢者セージでキアは拳闘士モンクだから……」


「ああ、なるほど。だけど、アタシは暗殺者であって暗殺者アサシンじゃないさ……」


「……えっ!?」


「……えっ!? あ、ああ……。何でもないさ。続けてくれ」


 そんなやり取りをしながら、扉は開く。

 扉の向こう側に、だだっ広い空間が見える。


「これが、ダンジョンかあ!」

 勇者が武者震いをする。

「シロウさま、くれぐれも慎重に行きましょうね?」

 金髪エルフが心配そうに声を出す。

「キアは、準備オーケーだよ!」

 紅髪の竜人は、その場で一つジャンプをしてみせる。

「勇者、後戻りはできないよ? それでも、行くんだね?」

 アタシは、そう勇者に意思を確認する。

「もちろんだよ! さあ、行こう!」


「それじゃあ……行こうか」


 アタシたちは古代遺跡ナールジュガへと踏み入れた。

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