第21話 大男 ガンドロフ
アンブロシア王国とマーハーラル帝国どちらの領域にも属さない自由都市アルカンセルは、つまり、どちらの法の影響も受けないってことさ。その最たる存在が冒険者。
どちらの法の影響も受けないからこそ、冒険者は法の
冒険者にとって唯一大事なのは、法でもなく活動期間の長さでもなく、ましてや年齢や性別でもなくて実力さ。
何が言いたいのかって言えば、法に依らず実力のみが全ての冒険者同士のトラブル解決もまた実力によってのみ成される、というわけさ。
そして、トラブル解決法こそが決闘であり、冒険者ギルド本部での冒険者同士のトラブル解決の場が、ここ冒険者ギルド本部地下にある決闘場なのさ。
決闘場の入り口では猛々しき肉体を誇示する闘神エンドヴァの巨像が、これから決闘を行わんとする冒険者を迎える。
決闘場は円形で、端から端まで百二十歩ほどある。
闘技場の決闘ではありとあらゆる武器種が使えるけど、武器の性能差ではなく純粋な実力によって勝敗を決するため、闘技場に予め用意されている武器を使って決闘することになるのさ。
さて、説明が長くなったね。
アタシとたちは今、決闘場の真ん中にいる。そして、決闘者二人、つまり勇者とガンドロフが対峙している。お互いの距離は五十歩ほど。
マスターと勇者のお供二人は、ここにはいない。決闘場には、決闘者と決闘の見届け人のみ入ることができる。アタシは決闘の見届け人
として、ここにいるのさ。
勇者の手には、
ガンドロフは
勇者はスタンダードな装備に対して、ガンドロフは両手持ちの巨斧を軽々と片手で持っていやがる。なんてえ怪力なのさ……。
「それでは、お二人さま。準備と覚悟はよろしいでしょうか!?」
アタシは二人の間のちょうど真ん中に立ち、声を張り上げる。
「うん、いいよ!」
「ああ、いいぜ!」
二人はアタシの問いかけに大きく頷きながら返事をする。
「……それでは、決闘開始です!」
アタシは、決闘の開始を宣言した。もちろん、受付嬢を演じたままね。
アタシが決闘開始を宣言すると同時に、ガンドロフが巨斧を振りかざして勇者に向かって突進する。時間にしてわずか一瞬。ガンドロフは五十歩の距離を詰め、勇者に肉迫する。
対する勇者は、っていうと……。あらら、構えすらしていない。ガンドロフの突進を前に棒立ちのままかい……。
「これでも喰らいやがれ!!!」
斧を振り下ろすガンドロフ。
「………………え? いや、ちょっと待っ……」
棒立ちのまま動かない、いや動けない勇者。
ゴンッ!! と鈍い音が闘技場に響き渡る。
膝から崩れ落ちる勇者。勢い余ってスッ転ぶガンドロフ。
「……………………………………………」
決闘場の武器は殺傷力を抑えるために、刃が削られている。そのため、決闘で死者が出ることはほとんどない。
とは言え、兜の上からでも、巨斧を全力で頭に叩きつけられれば
「……あ? なんだ、死んじまったのか? あっけないな!」
床に倒れてビクリともしなくなった勇者を見て、立ち上がったガンドロフは少しだけキョトンとした後、勝利を確信したのか巨斧を高く掲げてガッツポーズをする。
勝負あり! ……と言いたいところだけど違う。勇者には、あの勇者の力がある。
「……痛ったあ! 頭が割れたかと思ったよ!」
数瞬後、勇者が頭を抱えながら立ち上がる。そして、オエエエとえずく。……いや、勇者。普通の人間なら、さっきの一撃で頭がかち割られていてもおかしくはないんだよ……。アタシは心の中で、勇者にツッコミを入れる。
だけど……。
怪我もせず、死にもしない勇者だけど、痛みや苦しさは普通の人間と変わらず感じるし、気絶はするみたいだね。
そう言えば……。
霧と繭亭でアタシが毒を盛った時、夜明けに勇者が窓から苦しそうに顔を出したのは、――毒によって死なないものの――毒による苦しさのためだった、ってことかい。
「手ごたえはあった……。なのに、オレの一撃を耐えた……だとぉ!?」
ガンドロフは驚愕の声を上げる。
「いいかい。ガンドロフ。いいことを教えてやるよ」
勇者はキリっとした表情になるとガンドロフに指を突きつけながら言う。
「ボクが君に負けることはない! ボクは勇者だ。そして、ボクには
勇者はそう言って、広刃剣を構えてガンドロフに斬りかかる。いきなりのことにガンドロフは意表を突かれて、防御ができない。ボゴッという音とともにガンドロフがよろめく。
……………………………………………………。
ニッポンの、澪が貸してくれた『チート勇者の無双伝』を思い出す。
異世界転移、神から授けられたチートスキル……。
やはり勇者。お前は……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます