第20話 受付嬢研修中?
「冒険者ギルドへようこそ~~!!! はじめまして! 夢と希望がた~っくさん詰まった冒険者ライフのお手伝いを務めますのは、冒険者ギルド本部受付嬢見習いのルルーナ・マウリーでございます。 …………おや、お見かけしない顔ですね。新規に冒険者登録をされる方ですか?」
アタシはそこまでなるべく丁寧に明るくハキハキと、あとついでに言うとなるべく可愛げがあるように意識しながら口上を述べる。
仕事のためには手段を選ばないとはいえ、なんでこのアタシがこんなことをしなきゃならないってのさ……。
アタシは心の中で悪態とため息を吐いて、横を見る。横には『指導係』と書かれたプレートを左胸につけたマスターがこちらをニコニコ、もといニヤニヤしながら見ている。
アタシの左胸には『研修中』と書かれたプレートが着けられている。
場所は冒険者ギルド本部の一階、受付。
「どこかで会ったこと、ありましたっけ?」
カウンターを挟んで目の前にいる黒髪平たい顔の青年が、首を傾げながら訪ねてくる。青年の両隣には金髪エルフと赤髪の竜人が立っている。
「…………どこにでもある顔なので、誰かとお間違えになったのでは?」
アタシは内心ギクリとしながら、平静を装って答える。
「…………そうかも、知れないですね」
青年、もとい勇者は少しの間顎に手を当てて思案げにする。けど、すぐに顎から手を離してはにかむ。霧と繭亭の時は面と向かって勇者の顔を見ることはなかったから分からなかったけど、まだ少年っぽさが残るのっぺりとした《顔は決して不細工というわけではなく、アタシたちにはない不思議な魅力を感じさせる。
アタシたちにはない……。
アタシたちではない……、アタシたちの世界ではない、顔…………。
…………………………。
異世界顔、か……。
「ところで、ボク、冒険者になりたいんですが」
「なんだ!? そんなひ弱そうなガキが冒険者になるだって!?」
勇者がおずおずといった感じで口を開いて言葉を発すると同時に、野太い声がする。声のした方に視線をやると、受付部屋の入口から大男が入ってきていた。
アタシたち五人の視線を集めると、大男はニヤニヤと笑みを浮かべる。そして、アタシのいる受付カウンターまで大股で近付いてきて、のしりとカウンターに身体を預ける。
「女二人に子ども一人。それに受付嬢見習いか……。指導役も含めて、揃いも揃って見たことない顔ばかりだな」
大男はそう言ってガハハと笑う。
その時、勇者がほんの小さな声で「イベント来たぁ」と呟くのを、アタシは聞き逃さなかった。
勇者は、この状況にあって困惑するどころか、確信めいた何かがあるような表情になる。
「なあ、見習い。こんなガキと女を冒険者にするつもりじゃないだろうなあ?」
大男は勇者の様子にも気付かず喋り続け、グイッと顔をアタシに近付けてくる。……息が、臭い。
「冒険者登録は国籍、種族、身分、性別、年齢、財産の有無、出身の
アタシは大男に冒険者規約を説明する。……ていうかさ、アンタも冒険者登録をした時に、それを説明されたはずだろうに忘れたのかい?
「そ、そんなことは分かってる! オレはこんなひ弱な奴が冒険者になったらすぐに命を落とすことを心配して言ってるだけだ!」
大男の顔がほんの少し紅くなる。緊張、興奮……? ああ、恥を感じてるのか。はーん、さては忘れてたな?
「なら、ボクの実力を示せばいいんだね?」
勇者がおもむろに声を発して、大男を見遣り、。ほんのわずか笑みを見せる。この大男を倒せると確信してやがる……。
今、隣にいるマスターの情報によれば勇者の剣の腕は兵卒並み。だけど、この勇者には剣の腕など全く意味をなさないほど強力な勇者の力がある。
それでも、この大男だって見かけ倒しというわけではなさそうだね。
…………面白い。
実戦で、勇者がどこまで出来るのか見ておくのも今後のためになりそうさ。
「なんだと!? このガキ!」
大男が喚き立てる。
「……ではですね、お二人さま。決闘をしてはいかがでしょうか?」
アタシは思い切って、そう提案する。
勇者も大男も、この展開を待ってましたと言わんばかりにニヤリと笑い、お互いを睨みつける。
「見習い、分かってるじゃねえか。そう来なくっちゃな!」
「ボクを舐めないでくれよ、脳筋」
「脳筋とはなんだ!? オレの名はガンドロフ。シルバーランクの冒険者だ。お前みたいなひ弱なガキ、三分も経たずに沈めてやるよ」
ガンドロフと名乗った大男は、そう凄む。
「三分も要らない。一分だ」
勇者は臆することなく、ガンドロフにそう返す。
「では、お二人さま。準備と覚悟ができましたら、決闘場にお越しください」
アタシは二人に伝えると、一礼をして受付カウンターから出る。マスターが少し慌てた様子で、アタシの後を追ってくる。
「……ちょっ、ニコちゃん! そんなことするなんて聞いてないわよ」
アタシの後を追うマスターが、そう耳打ちする。
「いいだろ、マスター? これも勇者のことを知るために必要なことさ」
アタシは小声でマスターに答える。
そう、勇者を殺すためには、まず徹底的に勇者のことを知らなきゃならないのさ。
そして、今度こそ確実に仕留める。二度目の失敗は……ないのさ。
受付部屋では、相変わらず勇者とガンドロフが言い合いをしている声が聞こえてくる。
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