第13話 チート勇者の無双伝

 俺の名前は水無瀬勇みなせゆう

 年齢は30歳。ただの社畜だ。


 蒸し暑い夏の夜。俺はいつものように、残業に追われていた。

 デスクに置いてあるデジタル時計が0時を回ったのを横目に見て、仕事を続ける。

 まだまだ仕事は終わりそうにない。ここんとこ二週間ほど、毎日こんな調子だ。


 さすがに体力の限界が近い……。

 それに、眠い……。


 デスクのPC画面に映る、作りかけの資料が段々とぼやけてくる。視界が……。


 ……。

 …………。

 ………………。

 ……………………。


 ――気付いたら変な空間にいた。

 不思議な力に満たされた神秘的な空間だ。


 俺は直感で理解した。

 ここが神のいるところなんだ、と。


「やあ、社畜。社畜すぎて死んじゃったバカはお前か?」

 急に声がして、目の前に透き通るような白い肌に銀髪碧眼、ついでに言うと巨乳の女が現れた。白の薄いシャふツみたいな服を着ている。……めちゃくちゃ美人だ。


「バカじゃない! これでも国立大卒で一流企業勤めだったんぞ! それから俺の名前はバカじゃなくて水無瀬勇だ」

 急に現れた女にバカにされたので、俺は女に文句を言う。

「知ってるよ。私は神なんだから。でも、社畜すぎて過労死したんだから、お前はやっぱりバカだよ」

 自分のことを神とかいう女は笑いながら、そう言う。こいつ……ムカつくな。毎日、女子社員にセクハラしてばっかのクソ上司の次の次くらいにムカつく。


「……まあ、でも、確かにお前は死ぬには惜しい命ではあったよ。でも、世界の法則の問題で、生き返らせることはできない」

 神とかいう女は少し真顔になって言う。

「でも……、どうだい? 今度は違う世界で生きてみないか?」


 ………………………………。

 え?

 なんて?


『今度は違う世界で生きてみないか』って?


 …………………………………………。

 キターーーーーーーーーーー!!!

 異世界行きキターーーーーーー!!


「も ち ろ ん で す !」

 俺は、目の前の神に掴みかからんばかりの勢いで答える。

「食いつきやべーな……。言うても、死んだんだぞ、お前」

 神がちょっと引き気味だ。

「死んでしまったものは仕方ない。生き返れるわけでもないし。そんなことよりも、異世界はよ!」

 どうせ、現世に生き返ったところで、またクソ上司にこき使われる社畜人生に戻るだけだし、それだったら異世界で人生を送りたい。

「分かったよ。じゃあ、異世界に行ってきな」

 神がちょっとめんどくさそうに、俺に答える。

「ああ。……でも、異世界に行くってことはあるんだろ? アレが」


「……アレ、とは?」

 神が頭の上にはてなマークを浮かべている。

「アレだよ、アレ。ほら、チートスキル」

「……欲しいのか?」

「欲しい」

「……分かった」


 神とそんなやりとりをしてから、神は何やら神々しい力を発揮して俺の額に人差し指を着ける。

 なんかよく分からないけど、何か凄い力を得た感覚が俺の全身を包む。


「これで、お前は無敵だ」

 神がニコリと微笑む。チートスキルさえ手に入れてしまえばこっちのもんだ。あとは異世界で、思い通りに生きるだけだ。

「じゃあ、神。俺を異世界に送ってくれ!」

「オーケー、オーケー。じゃ、目をつぶりな。目を開けた時には、お前の望む通りの世界にいるから」

 神が言うのに従って、俺は目をつぶった。



 ――――――――――――――――


 目を開けるとそこは異世界だった。


「いやぁ! 成功しましたな、召喚術が!」

「これが、勇者……!」

「……王様! 王様の命令通り、召喚を行い、勇者がやって参りましたぞ!」

 ザワザワザワザワ……。


 俺の異世界は、ざわめきからはじまった。

 中世ヨーロッパ風の城……? 周りを見渡すと、どうやらここは王の間らしい。

 玉座と玉座に腰掛けた立派な格好をした偉そうな老人と、その隣には綺麗な少女がいる。その他に、大臣みたいな……。なんかそういう感じの男たちがいて、全員が全員、俺のことを見ている。


「おおっ! お前が勇者か!?」

 王様らしき老人が俺に声をかけてくる。

「…………多分、そう」

 俺はテキトーに答える。俺が勇者なのかは知らないけど、異世界なら勇者になっててもおかしくないか。


「おおっ! やはり勇者か! して、お主の名は?」


「名を聞くんなら、自分から名乗るのが常識じゃないか?」


「…………ワシの名はエインハム12世。コトロザーク王国の国王じゃ。さて、それでお主の名は?」


「水無瀬勇だ。ところでオッサン……」


「陛下をオッサン呼ばわりとは何ごとだ!」

 大臣な一人が、王様をオッサン呼びしたことに激怒する。これで、王様もブチギレに違いない。


「あー、いいんじゃよ。ワシをオッサン呼ばわりするとは、流石に勇者じゃのう。そのくらいの意気が無ければ、魔王を倒すなんてできないじゃろうからのぉ」

 ………………???


「しかし、陛下! こんな若造にオッサン呼ばわりを許していてはいけません!」

 うんうん、そうだそうだ。


「ホッホッホッ! 考えてもみんか。この勇者は違う世界から来たばかりの者じゃぞ。こちらの世界のが分からなくて当然じゃ。ワシらが一体何者なのかも分からなくて当然じゃし、こちらの礼儀や常識が通用しなくて当たり前と思わんか?」


「はあ、しかしですね……」


「さて、いきなりで驚かれたじゃろう? 勇者よ。おっと、いけない。すまぬのう。勇者とは何かすら言ってなかったのぉ。」


 …………えーと。


「………………だいたい分かってる」


「なら話が早いのぉ。勇者よ、実はな……」





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